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第三部
決戦まであと
しおりを挟むあの後、ミシェルさんは東洋国家に戻った。
まだミシェルさんの仕事は終わっていないらしい。
潜入してアケチ家がいつ動き出すのかを調べてくるそうだ。
それを待っている間、聖樹の前ではシンジロウ様の部下である志士の方々が酒盛りをしていた。
今日で三日目だ。なぜかママたちも参加している。
お料理を作るタマモとランコさんがとても忙しなく動き回っているのに。
……ちょっとカナモ。あなたもなんでそっちにいるのよ。
志士のお兄さん方に可愛がられてるんじゃないわよ。
「ふふっ。楽しそうね」
「決戦前だというのに、神聖な地に足を踏み入れることができ舞い上がっているようだ。すまないな」
「いいのよ。騒がしいのは嫌いじゃないから。精霊たちも楽しそうだもの」
「そうか。精霊王へ挨拶をしていないのだが、未だ不在であるようだな」
「そうなのよね。ティアったら最近いつの間にかいなくなっているのよ。少し寂しいわぁ」
ユミエラさんは頬に手を当て、少し悲しそうな顔をした。
確かに最近ティア様を見かけない。
前に魔法の練習を手伝ってもらってから一度も。
精霊王って聖樹の側を離れられないんじゃなかったっけ?
御伽噺とかだとそういうことになっていたような。
「お嬢が悲しそうな顔してる……これは一大事……」
考え込んでいると、私の側にタマモが来ていた。
さっきまでそこらじゅうを歩き回っていたのに、さすがユミエラさんのメイド。
主の些細な変化も見逃さない。
「なんてことないわ。心配しないでね、タマモ」
「そうはいかない………お嬢が寂しそうなのはダメ……いつも笑っていてほしい……」
「ふふふ。ありがとう。タマモが一緒にいてくれるから嬉しいわぁ」
「むふんっ。尻尾と耳あるから……お姉よりすごい……」
「――――そんなことありません! たとえ尻尾や耳が無かろうと、お嬢様にとって最優のメイドはこの私、ミシェルだけです!」
いつの間に帰ってきたのだろう。
タマモの後ろにミシェルさんがいた。
その近くには大きな白虎が伏せている。
今回はカイさんも一緒に帰ってきたみたい。
ということは……。
「カイも帰ってきたのね。おかえりなさい。どうだったかしら?」
「はい。アケチ家は一週間後に兵の招集が完了し、侵攻を始めるそうです」
「一週間ね。わかったわ。シンジロウ君、そう言うことだから」
「うむ。では残りの一週間、英気を養っておこう。あ奴らには俺から行っておく」
そういってシンジロウ様は立ち上がり、聖樹の前で酒盛りをしている志士たちの下へ向かった。
「それと、先ほど使い魔のようなものを見つけたので壊しておきました。おそらくあの老魔導士の物でしょう。オダ家が存続していることを知っていましたので」
「そう。それなら好都合ね。あの人達は……いえ、なんでもないわ」
どうしたんだろう。
ユミエラさんが言いかけてやめるなんて。
何か気がかりな事でもあるのかな。
「――ノアちゃん」
「は、はいっ?」
「もうすぐおうちに帰れるわ。新しい国は、きっと住みやすいいい国になると思うわ」
そう言ったユミエラさんの顔は先ほどよりもよっぽど悲しそうだった。
何だろう。モヤモヤする。
このモヤモヤの原因は分からないけど、きっといつかわかるだろうと思うことにした。
「はい。早く戻って、おばあちゃんにいっぱいお話したいです!」
私がそう言うと、ユミエラさんは寂しそうに笑った。
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