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第三部
ヒデヨシの迷い
しおりを挟む「………………ほう?」
シンジロウ様は楽しそうに笑みを浮かべた。
誰も口を挟むことなく、成り行きを見守っていた。
「ははっ。そう睨むな。まずは聞こう。どうして俺が原因だと言う?」
「……孤児院の奴ら、俺の近くにいた大人たちはみんな言っていた。オダ家のせいで国が荒れたってな」
ヒデヨシがそう言うと、にわかにざわついた。
主にオダ家の家臣たちが。
「何を馬鹿なことを」
「オダ家があったからこそ、国は栄えていたのだ」
「道理も弁えぬ童の戯言など聞くに値しませぬぞ」
「静かにせよ。俺は今、この小僧と話している」
シンジロウ様が言うと、家臣たちは口を閉じた。
さらに空気が重くなっていく。
ママたちも成り行きを固唾を呑んで見守っている。
「小僧。仮に俺がお前の親の仇だとしてどうする?」
「……どういうことだよ」
「言葉の通りよ。お前は仇を前にして何をする? 俺のせいだと非難するだけか? 俺を殴って気が済むか? それとも――――俺を殺すか?」
「っ!?」
ヒデヨシがたじろいだ。
シンジロウ様の毅然とした様子から、王者の風格がうかがえる。
当事者ではないのに、妙な緊張感が心を占めた。
「……お、おれは」
「言っておくがな、小僧。俺はお前の両親の死に関わっていない。お前の顔立ちからなんとなくだが、親の顔がわかる。トヨナガ家の子であろう。あいつらはよく仕えてくれたものよ。我が家が国を追われて尚、俺たちの後を追わず国に残りアケチ家に抗っていたと聞く。あいつらが亡くなってから早十年か……。子を設けたと聞いてはいたが、よもやこのような形で出会うとはな……」
シンジロウ様は遠くの空を見上げ、懐かしんでいた。
こんなにも他人を大事に思える人が、悪人として語られているなんて……。
「……あんたの言うことが正しいとしたら……俺は、どうすれば……」
「迷っているのだろう。なら、俺が道を示してやる。これより国を取り戻すための戦を起こす。そろそろアケチの愚か者どもに灸をすえてやらねばならん。小僧、俺の背についてこい。何が正しいか、自分の目で判断するがいい」
そう言ってシンジロウ様はヒデヨシの頭を撫でた。
俯いて顔は見えないが、鼻をすする音が聞こえる。
「お話は終わったかしら?」
「ああ、待たせてすまない。童に恥ずかしい背を見せるわけにもいかん。此度の戦、必ずや勝利を」
「ふふっ。やる気十分ね。でも――――戦にはならないかもしれないわ」
「ふむ。それならば何になると?」
「う~ん。そうねぇ……一方的な侵略かしら?」
今度はユミエラさんの発言に、皆が驚愕した。
ユミエラさんの側でミシェルさんとタマモはうんうんと頷いている。
そんな中、シンジロウ様だけは呵々大笑していた。
「ふっ……ははははははっ!! 面白い! 実に愉快だ! であるならば、良かろう。皆の者、此度の戦――――蹂躙するとしよう!」
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