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第三部
生意気な少年
しおりを挟む「――ガキ扱いすんじゃねぇよ! つか、何なんだよお前! いきなりこんなところに連れてきやがって、どこだここは! 俺に何させるつもりだ!」
とても反抗的な態度でミシェルさんを睨みつける。
怖いもの知らずってこういうことを言うんだね。
「ミシェル……経緯は分からないけれど、誘拐はダメよ。元の場所へ戻してきなさい」
「いやいやいやいや、お嬢様。勘違いなさらないでくださいませ。私は誘拐してきたわけではありませんから」
「でも、その子の様子を見る限りあなたが無理矢理連れてきたのでしょう?」
「まあ、それは間違いありませんね。ちゃんと理由があるので聞いてください」
そう言ってミシェルさんが指を鳴らした。
すると、やかましく騒いでいた少年の声が聞こえなくなった。
彼の周囲に消音結界を張ったみたい。ハヤト兄に聞いた。
さすがミシェルさん。自分で連れてきておいてユミエラさんに事情説明するまで放置なんて。
「この子は奴らの企みに使われそうなところをかっさらってきたのです。何でも魔法の触媒にするとかなんとか。詳しいことは調査中ですが、とりあえずこの子がいなければ奴らも困ることでしょうし。というわけで、この子にはついてきていただいたというわけです」
むふんっ、とドヤ顔をするミシェルさん。
いかにも私いいことしてきました、と言いたげな顔だった。
その様子をみたユミエラさんは大きなため息を吐いた。
「はぁ……ミシェル、その子にはちゃんと説明してないでしょ?」
「ええ、こっちに来てからゆっくりと事情を説明しようかと」
「そんなことだから、この子もこんな敵意丸出しで警戒しているのよ。突然しらないところに拉致されたのだから。……変なメイドにね」
「むふっ」
タマモが思わず噴き出した。
変なメイドというところがツボだったのかな。
「お嬢様! 変なメイドとは私の事ですか!?」
「あなた以外にいないでしょ。もう少し配慮というものを身に着けてほしいわ。その点タマモはいい子に育ってくれたわ。私の教育が良かったのかしら」
「むふふっ……当然……お嬢が喜ぶから……」
ユミエラさんに頭を撫でられて嬉しそう。
そしてミシェルさんにドヤ顔で対抗するのも忘れない。
「ぐぬぬ……」
ぐぬぬって言う人初めて見たかも。
「そんなことよりその子の話を聞きましょう。ミシェル」
「……かしこまりました」
納得いかなそうな顔をしているが、ユミエラさんの言うことは絶対、というのを守るミシェルさんは消音結界を解除しました。
「っ!? いきなり何しやがんだ!」
「突然のことで驚いているのは分かるわ。うちのメイドがごめんなさいね。私はユミエラと言います。あなたのお名前を教えていただけないかしら?」
「……あんた、あいつの主か。こんなところに住んでるなんて変な奴だな」
少年がそう言った瞬間、空気が凍り付いた。
なんて恐れ知らずなことをっ。
若干二名、ものすごい鬼の形相を浮かべているのに気づいてっ。
「あらあら。素直な子ね。でも、あんまり素直すぎると敵が多くなってしまうわ。気を付けてね」
そう言ってユミエラさんは優しい手つきで少年の頭を撫でた。
さすがに超美人のユミエラさんの前では、生意気な少年もたじたじになってしまった。
「が、ガキ扱いすんなって……」
「あら、ごめんなさい。それで、あなたのお名前は?」
「……ヒデヨシだ。孤児だから苗字はない。ちゃんとここに連れてこられた理由を説明してくれんだよな?」
「もちろんよ。それも含めてみんなでお茶にしましょう」
ユミエラさんはいつものニコニコ笑顔を崩すことなく言った。
ユミエラさんて、やっぱり普通じゃないなって、私は思った。
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