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第三部
タマモの宝物
しおりを挟むタマモが自分というものを意識し始めたときから、タマモは既に独りだった。
親なんて知らない。そんなもの最初からなかったから、可哀想なんて言われても分からない。
街にいる幸せそうな子供たちを見て何とも思わない。
施設の他の子どもたちはみんな憧れのような視線を向けていた。
どうしてだろう。
ある日、施設に綺麗な服を着た大きい男たちがやってきた。
何かわからないけど、怖くなったのは覚えている。
その男たちが来ると施設の子供が数人減っていく。
先生は育ててくれる人が見つかったと言っていた。彼らはこれから幸せになれると。
子供たちは先生の言うことを信じた。先生の言うことに間違いはないと思っていたから。
でも、気になった私はこっそり先生と男たちの話を聞いた。
………………衝撃だった。
あいつらは悪い人で、先生はお金をもらうために子供たちを売っていた。
幼かった私はよくわからなかったけど、先生が悪いことをしていると思った。
――――だから逃げた。
施設にいたくなかった。
小さな体で必死に走った。
見つかったら私は幸せになれない。………でも幸せって何だろう。
私には分からない。だけど、走るのはやめなかった。
街を駆け抜け、森に入り、たまたま見つけた洞窟の奥までずっと。
そこで私はあるキツネに出会った。
たくさん尻尾が生えた金色のキツネ。なぜか怪我をしていた。
何よりびっくりしたのは喋ったこと。
『……娘、そなたとても綺麗な魂じゃの。稀有なものじゃ。わらわと契約せぬか?』
けいやくって何かわからないけれど、そうすればキツネの怪我を治せるって。
だから私はキツネとけいやくした。
突然光ったと思ったらキツネはいなくなっていた。
なんだか分からなくなり、しばらくその洞窟で過ごした後、街でご飯を探すことにした。
優しい大人の人はご飯をくれる。意地悪な人には怒られちゃうから近づかない。
そんな人たちよりもっと悪い人に会ってしまった。
施設に来ていた男たちともっと悪い人。
その人はタマモを見てびっくりしたような顔をして、捕まえようとした。
だから私はまた走った。絶対に捕まりたくない。
そして私は
――――お姉に出会った。
お姉は男たちに追いかけられているタマモを抱き上げ、男たちをやっつけた。
スカートの中から何か出して、大きい音が聞こえたと思ったら男たちは倒れていた。
後で聞いたら銃って言う武器だったらしい。
お姉はすごく強かった。
そして私を連れて「聖魔の森」に来た。
どんなところなのか知らなかったけど、危ないところだったみたい。
そんなところにお姉は住んでいた。
もう一人、お嬢と一緒に。
お嬢を見たとき、子供のタマモでもすごくきれいだと思った。
タマモみたいな汚い格好なんてしてなくて、真っ白なワンピースを着ていた。
見惚れてしまったタマモを優しく撫で、一言。
『頑張ったのね』
そう言って笑った。
タマモという名前を付けてくれたのもお嬢。
お姉とお嬢は二人でタマモにいろいろなことを教えてくれた。
メイドの仕事や勉強、動物のお世話にキツネについて。
幸せってこういうことなんだって知った。
お嬢とお姉と一緒にいることがタマモの幸せ。
今なら絶対にそうだって言いきれる。だって、こんなに温かい気持ち他に知らないから。
だから……………………。
『ミシェル、あの人達が生きているそうよ……』
『それはっ!? 本当だとしたらどうして……? お嬢様はどうなさるのですか?』
『……正直、どうしていいか分からないわ。あの魔導士はこの森を越えて大陸を制覇するって言っていた。あの人たちはその手下。おそらくここにも来るのでしょう。そうなったとき、私はどうしたらいいのかしらね』
『……お嬢様のお心を煩わせる全ての要因は私が排除します。だから、お嬢様はいつものように笑っていてください』
『……ありがとう、ミシェル。でも、これだけは私がどうにかしないといけないことだわ』
『お嬢様……』
だからタマモは………………お嬢にあんな顔をさせる一切のモノを許さない。
お嬢とお姉はタマモに幸せをくれた。タマモを家族だと言ってくれた。タマモの宝物。
お嬢にはふわふわぽかぽか笑っていてくれないと困る。
タマモの幸せを守るために、タマモは何でもやる。
それがタマモがしなければならないことだから………………。
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