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第三部

不穏

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「ほ……」

「ほ?」

「ほ、本当に人間ですか?」

「あら?」

 思わずそんなことを聞いてしまった。
 気づいた時にはそんな言葉を発していた。
 かなり失礼なことを言ったのではないだろうか。
 どうしよう……怒ったりしてないといいけど。

「ふふっ。もちろんあなたたちと同じ人間ですよ。少し老いるのが遅くなってしまっただけです。驚かせてしまいましたかね?」

 そう言って彼女――ユミエラさんは微笑んだ。
 その表情が本当に女神にしか見えなくなってしまった。
 こんな小さな子供を魅了するなんて、罪な人ねっ。
 ……別に、そんなに小さくなんてないし。

「それにしても、懐かしいわぁ。あの転移陣を使ってよくアリアたちが来てたのよ。カンナちゃんが少し大きくなってから、彼女も忙しくなって来れなくなってしまって………………少し寂しかったわ」

「えっと……その……」

「でも、あなたたちが来てくれた。それだけで私は嬉しいわ。ありがとう。歓迎するわ」

「「は、はいぃ……」」

 ときめきの許容量をとっくに超えています。
 これ以上は、もう……。
 なんか、彼女と会ってからおかしくなっている気がする。
 カナモはカナモでさっきからポーっとしてるし。

「今うちにもね、あなたたちと同じくらいの子がいるのよ。――――タマモ。こっちへいらっしゃい」

 ユミエラさんの奥にある建物から、私たちと同い年くらいの少女が出てきた。
 全体的に黒く、毛先だけが金色という特徴的な髪が目を引いた。
 瞳は海のような深い青色。とても幻想的だった。

「ほら、ご挨拶なさい」

「…………タマモ」

 恥ずかしそうにユミエラさんの後ろに隠れる少女――タマモ。
 ひょっこりと顔を出して名乗る姿がとっても可愛らしかった。

「ごめんなさいね。この子、少し人見知りで。時間が経てばいずれ慣れてくるから。タマモ、お茶とお菓子の用意をしてくれる?」

「……かしこまり」

 そう言い残して駆け出して行ってしまった。
 何だか無性に撫でたくなる子だったな。
 その時、突然周囲の空気が変化した。
 異様な空気に包まれ、不安に思っているとユミエラさんが私とカナモの肩を抱き寄せ、剣呑な声を出した。

「カイ、来なさい。――――それで、あなたはここに何か御用でも?」

 誰かの名前をよび、大樹の方を向いて話しかける。
 すると、ユミエラさんの後ろに大きな白い虎が、大樹の下ではぼやけた人影が現れた。

「これはこれは、精霊の姫よ。お会いできて光栄ですな。その様に警戒する必要はありませぬ。私は屋敷にあった陣の残滓を辿ってきただけ。今の私は魂だけの存在。そうでなくともただの老獪に何かできるはずもなく。この度は、ご挨拶をば」

「……不愉快ですね。ここはあなたのような方がいらっしゃる場ではありません。早々に立ち去りなさい」

「ええ、ええ。そう致しましょう。なにせ、この状態を長時間続けては本体に影響が出てしまうでしょうから。しかし、何かしらの置き土産でも残しておきたいと思うのです。ですから、あなたに少しだけお伝えしておきましょう」

「…………」

「――――あなたの御実家の方々、まだ生きておいでですよ。今は私の下で働いております。それと、近々この森を足掛かりに大陸を制覇する予定です。頭の片隅にでも入れておいていただければ。それでは……」

 そう言って怪しげな人影は消えた。
 険しい顔をしたユミエラさんの心にしこりを残して……。







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