婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは

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第三部

別行動

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「国を出るってそんなことできるの!?」

 ママの言葉に心底驚いた。
 ここ数年東洋国家は鎖国している。
 特定の商船のみを歓迎し、自国の人間は一切国を出ることができなかった。
 いつの日か、国を出ようとした人たちがいたが、彼らは捕まり見せしめとして拷問を受けた。
 今はそんな状況である。

「出れるさ。パパたちだってたまに帰ってきたりしているだろう?」

「……そうだけど」

「まあ、万が一捕まっても大丈夫だよ。私たちには心強い味方がいるからね」

「味方?」

 そんな人がいるなんて知らない。
 一体誰のことを言っているのだろう。

「それに危ない橋を渡るのは私たちだけだ。ノアとカナモは別だよ」

「な、なんで!? 私たちも一緒に」

「ダメだよ。あんたたちを危険な目に合わせるわけにはいかない。母さんとの約束だからね。今回だけは素直に言うことを聞いておくれ」

「なんで私たちだけなの!? そんな方法があるならみんな一緒に行けばいいじゃない! 絶対に嫌っ!!」

「それができるならいいんだけどね。あたしたちは母さんほどの魔力がないんだよ。だから二人を逃がすので精一杯なのさ。……大丈夫だよ。ちゃんとまた会えるから」

 困ったように笑い私を抱きしめるママも震えていた。
 カンナおばさんも目に涙を浮かべカナモを抱きしめている。
 ママたちが辛いのもわかるけれど。それでも……。

「……嫌だよぉ……っ……ママと一緒に……いたいよぉ……っ」

「……………ごめんね、ノア。もうこれしかないんだ。他に考えている時間もない。国の上層部は私たちを狙っている。私たちができる限り囮として逃げれば、その分二人は安全になる。それに、これから二人が行くところにはある人がいる。その人なら必ず助けてくれる。二人を守ってくれるはずよ。だから……お願いっ」

 ママの胸に顔を埋め、首を横に振る。
 それでも私は一緒がいい。

「……ノアちゃん。行こう」

「……カナモ? どうして?」

「私たちがいたらママたちに迷惑かけちゃうよ。私も一緒にいたいけど……私のせいでママが困るのはもっと嫌」

 カナモが真剣な表情でそう言う。
 悔しそうに唇を噛みしめ、それでも瞳には決意が宿っていた。
 カナモは強いね。私はこんなにも泣きじゃくっているのに。
 涙一つ流さないカナモが眩しく見えた。

「………………わかった。でも、約束して! 必ず私たちのところに戻ってきて!」

「……もちろんよ。ノアを残して死ぬわけにはいかないわ」

 ママは笑ってそう言った。

「……ママもだよ?」

「そうね。私もまだまだカナモと一緒にいたいもの。必ず、迎えに行くわ」

 カナモもカンナおばさんと約束していた。
 私たちはママと指切りをした。
 絶対に約束を守ってもらうためのお守り代わりね。

「もう準備はしてあるわ。あなたたちに必要なものは全て。後は二人が持っていきたいものはない?」

「ねぇ。私たちってどこに行くの?」

「『聖魔の森』よ。よくおばあちゃんがお話ししてくれたでしょう?」

『聖魔の森』。
 おばあちゃんが若い時に住んでいたところ。
 それを聞いて一つ思い出したことがある。

「……手紙」

「手紙?」

「そう。おばあちゃんがもしそこに行くなら持って行ってほしいって、前に言ってた」

「手紙ってどこにあるのかしら? ノア、わかる?」

「………………わかんない」

 おばあちゃんは手紙の場所は教えてくれなかった。
 今から探すのは時間がかかってしまう。
 ママは仕方がないから今回は諦めようと言った
 その時、私の耳に不思議な声が聞こえた。

『こっちだよ~』
『あの子の宝箱の中~』
『アリアが大切にしていたもの~』

「……宝箱…………おばあちゃんが大切にしていたもの?」

「宝箱……? そう言えばあったような……」

「姉さん、あれよ。ベッドの下に置いてあった」

「思い出したわ! ハヤト、おばあちゃんのベッドの下に小さい箱があるわ。すぐに持ってきて!」

 ママがそう言うと、ハヤト兄が早足でおばあちゃんの部屋に向かった。
 おばあちゃんが亡くなってからもずっとそのまま残してあったのだ。
 数分で戻ってきたハヤト兄は小さな箱を手に持っていた。

「これで合ってるかな?」

「そうそう、これよ。中には母さんが大切にしていたものがあるわ」

 ママが箱を開け中身を確認する。
 箱の中には紺地に金糸で紋様が刻まれたリボンと一枚の便箋が入っていた。

「これのことね。おそらくあの人に宛てたものだわ。リボンは母さんが若い時に使っていたものよ。ノア、持っていきなさい」

「いいの? おばあちゃんの宝物何でしょ?」

「いいのよ。おばあちゃんもノアになら許してくれるわ。それじゃ地下室に行くわよ。そこに転移陣があるから」

 そうして地下に行こうとしたとき、にわかに外が騒がしくなっていたのに気づいた。

「……もう来たみたいね。早くしないと」

「だ、大丈夫なの?」

「平気よ。すぐに終わるから」

 地下室のドアを開けると、部屋の床には魔法陣が描かれており、中心に大きなカバンが置かれていた。
 おそらくママたちが用意してくれた荷物だろう。

「あらかじめ魔力は込めてあるわ。後はあなたたちが跳ぶだけよ。……何日かかるかわからないけど、ちゃんと迎えに行くから。いい子にするんだよ、ノア」

「カナモもね。あの人の言うことをちゃんと聞くこと。わかった?」

 最後にママとカンナおばさんに抱きしめられる。
 不安だけど、ママたちのために私が出来ることをしよう。
 カナモも一緒にいるから大丈夫。
 カナモと手をつないで魔法の言葉を発す。

「「転移!」」

 魔法陣から光が溢れ、私とカナモを包む。
 視界が光に覆われ何も見えなくなる。
 そして……。





 ――――光が収まった時、私たちは大きな樹の下にいた。









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