上 下
73 / 123
番外2

惨事再び

しおりを挟む

 皆さん、こんにちは。お久しぶりです。
 ユミエラお嬢様専属万能メイド――ミシェルです。

 最近はいろいろとありましたが、そんなことより相変わらずお嬢様がお可愛いので、毎日が幸せです。
 お嬢様も、アリアさんやカナリアさんたちと仲良くできてとても嬉しそうです。
 眼福です。ありがとうございます。

 それはさておき、私はいつものように街に行ってきました。
 今日もお馴染みのおじさんが東洋国家から珍しいものを持ってきてくれました。
 なんと、もち米です。
 お米があったのでもち米もあるだろうとは思っていましたが、私の予想は的中ですね。
 これでまたお料理の幅が広がります。それにお菓子も。
 大福やお団子、お汁粉にお雑煮など。
 あぁ、懐かしきモチモチ。想像するだけでよだれが。じゅるり。
 早速帰ってお菓子作りです!

 …………そう思っていたのですが。

「……一体、何をなさっているのですか?」

 家の前でアリアさんとカナリアさんが魂の抜けた表情で体育座りをしていました。
 よく見ると聖樹の周辺には動物たちが怯えたように固まっています。
 それとシュウさんら騎士の方々が見当たりませんね。
 一体どこに行ったというのでしょうか。

「……あ、ミシェルさん。おかえりなさい………」

「……おかえり…………よく帰ってきてくれたわ……少し遅いけど……」

「え……ちょっと、やめてください。そんな目で見ないでください」

 なんだか少し怖いです。
 声からは覇気を感じられず、恐怖と期待が入り混じった瞳で私を見つめる二人。
 ほんと……どうしたというのですか。

「さあ……中へどうぞ……あなたなら、大丈夫、です……」

「……そうそう……あんたなら、大丈夫。……頑張って……お嬢様を……」

「……なんだか嫌な予感がしてきました」

 いつの日だったか、私が街に出かけたときにも酷い事件が起こったことを思い出します。
 あの時はお嬢様お一人でしたから、自由にしていましたが。
 今は大丈夫ですよね。そんなことしませんよね。
 アリアさんたちもいるし、何よりあれだけお説教したのに反省してないなんてことは。
 信じましょう。
 可愛くて愛らしい我が主を信じることにします。
 いざ!!

「こ、これはっ!?」

 死屍累々。
 そうとしか表現できませんでした。
 よく見たらシュウさんたちでした。
 ダイイングメッセージのようなものまで書かれているとは、迫真の演技ですね。
 素晴らしい出来です。拍手。

 …………いえ、現実逃避はやめましょう。

 だって…………テーブルの惨状を見ればわかります。
 無色透明。
 色という概念を何かに奪われた巨大なスライムがいました。
 皿の上に。

「――ふんふふ~ん♪」

 キッチンから上機嫌な鼻歌が聞こえてきました。
 この惨状を生み出しておいてどうして鼻歌なんてできるのでしょうか。
 それに本当に教えてほしいのですが、どうやったら色がなくなるのですか!?
 一体何をしたらそうなるのですか!?
 むしろ私がご教授願いたいくらいです!
 そんなことより、そろそろ止めましょう。
 覚悟はできました。

 ――――お説教の時間です!!!

「…………お嬢様」

「? あら、ミシェル。おかえりなさい」

 花が開いたような満面の笑み。
 思わず心が揺らいでしまいます。
 ですが、今日は! 今日だけは、心を鬼にするのです、ミシェル!

「み、ミシェル? ど、どうしたの、そんな怖い顔して。ほ、ほほら。笑って~…………にこっ?」

「――――お説教です!! そこに直れ!!!!!!」

「ひぃっ! い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 お嬢様も絶叫が森の中に響き渡りました。
 皆さん。食材は大事にしましょう。
 無色透明な料理なんて作ってはいけませんからね。

 怒られて憔悴したお嬢様を膝枕した私は、怒り疲れた心を癒すことができました。
 幸せです。






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

異世界転移の……説明なし!

サイカ
ファンタジー
 神木冬華(かみきとうか)28才OL。動物大好き、ネコ大好き。 仕事帰りいつもの道を歩いているといつの間にか周りが真っ暗闇。 しばらくすると突然視界が開け辺りを見渡すとそこはお城の屋根の上!? 無慈悲にも頭からまっ逆さまに落ちていく。 落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして………… 聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。 ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。 召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。 私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。 ピンチになったら大剣の勇者が現れ…………ない! 教会に行って祈ると神様と話せたり…………しない! 森で一緒になった相棒の三毛猫さんと共に、何の説明もなく異世界での生活を始めることになったお話。 ※小説家になろうでも投稿しています。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

「追放」も「ざまぁ」も「もう遅い」も不要? 俺は、自分の趣味に生きていきたい。辺境領主のスローライフ

読み方は自由
ファンタジー
 辺境の地に住む少年、ザウル・エルダは、その両親を早くから亡くしていたため、若干十七歳ながら領主として自分の封土を治めていました。封土の治安はほぼ良好、その経済状況も決して悪くありませんでしたが、それでも諸問題がなかったわけではありません。彼は封土の統治者として、それらの問題ともきちんと向かいましたが、やはり疲れる事には変わりませんでした。そんな彼の精神を、そして孤独を慰めていたのは、彼自身が選んだ趣味。それも、多種多様な趣味でした。彼は領主の仕事を終わらせると、それを救いとして、自分なりのスローライフを送っていました。この物語は、そんな彼の生活を紡いだ連作集。最近主流と思われる「ざまぁ」や「復讐」、「追放」などの要素を廃した、やや文学調(と思われる)少年ファンタジーです。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

処理中です...