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番外2

誰もが気になっていたこと

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「ここに来てからずっとなんだけど、一つ気になってたこと聞いていい?」

 カナリアが森に来てからまだ数日の話。
 本を読んでいたカナリアが突然そう言った。

「なに?」

「いや、お姉様じゃなくてお嬢様に」

「私ですか?」

 質問の相手はユミさんだったみたいです。
 あまり二人で話しているところを見ないので、少し驚きました。
 一体何を気にしていたのか。
 それにわざわざユミさんに聞くほどのこととは何なのか。
 なんだか無性に気になってきました。
 そんな空気を感じ取ったのか、キッチンからはミシェルさんが、外では訓練中のシュウが、入り口の近くではティア様とカイとヴィルが聞き耳を立てています。

「なんでも聞いてください。そう言えばカナリアから私に話しかけてくれたのはこれが初めてですね。嬉しいです」

「そんな恥ずかしいことわざわざ言わなくていいから。それじゃ聞くけど――なんでカフェなの?」

「? なんでとは?」

「ちょっと足りなかったわね。要するに――――なんでこんなところでカフェを開こうと思ったの?」

 カナリアがそう聞いた瞬間、空気が凍りました。
 誰もが気にしていて聞けなかったことをこの子は……。
 空気を読めないのかあえて空気を読まないのか。
 なかなか大物だと思いました。
 ちょっとシュウ! 我関せずみたいな態度で訓練に戻らないでよ。
 ティア様!? 神獣たちつれてお散歩に行かないでください!
 ミシェルさんは…………ミシェルさんは、わかりません。今何を考えているのかわかりませんが、猛スピードでケーキを作っています。
 一体この数秒で何種類のケーキを作っているんですかっ!
 物理的に不可能な事しないでくださいっ!

「なんでって……」

 ユミさん! 別に答えなくてもいいですよ!
 別にこんなところにカフェがあったっていいじゃないですか。
 それはそれで趣があるというものです。
 だから間違っているなんてことはありませんよ。
 その思いとは裏腹に、私はユミさんがなんて言うのか期待して固唾を飲む。

「それはもちろん、カフェを開くなら森の中が定番だと本に書いてありましたから」

「「はい?」」

 予想外の答えでカナリアと反応が被ってしまった。
 もしかしてそれだけ? それだけの理由でこんな森の中まで来たの?
 行動力というより思考そのものが別次元過ぎません?

「それだけなの?」

「そうですよ」

「……おかしくない?」

「何か変ですか?」

「当然でしょ! どうしてカフェを開くだけでこんなバカみたいな森選ぶのよ!」

「ですから、本に書いてあった通りですよ? 深い森の中でひっそりとした穴場のカフェを開く。都会からスローライフを求めて来る人の定番ではないですか。『てんぷれ』というやつです。この前ミシェルとシュウさんがそう言っていました」

「普通はもっと安全で人が通るような森にカフェを作るのよ! こんな森に人なんて来ないじゃない! 穴場でもなんでもないわよ!」

 カナリアが肩で息をしています。
 そこまで全力になるカナリアも珍しいです。
 そう言われたユミさんは困惑しています。

「え? え? こういう森の中のカフェなら穴場になるのでは……」

「お嬢様に一つ大事なことを教えてあげる」

「な、何ですか……?」

「カフェは――客が来なきゃ意味ないのよ」

「なっ!?」

 目から鱗が落ちるとはこのことですね。
 ユミさんが身をもって教えてくれました。
 ユミさんの今の様子はすごいです。ガーン、という効果音が目に見えるようです。

「お茶ですよ~」

「み、みみみミシェル!!」

 ユミさんがトレーを持って現れたミシェルさんに抱き着きました。

「み、ミシェルっ。わ、私、普通じゃないことをしていたのでしょうかっ!?」

「何をいまさ……ごほんっ。お嬢様はお嬢様のしたいようにするのがいいですよ。何をするにしてもお嬢様のしたいように。私は側でお支えしますから」

「う~、ミシェルぅ~」

 ミシェルさんの胸元に頭をぐりぐりしています。
 ちょっと、ミシェルさんの顔が大変なことになっているので、ユミさん少し離れたほうが……いえ何でもないですだからそんなに睨まないでっ!

「しかし、お嬢様」

「……ぐすっ……なんですか?」

「私もお客様の来ないカフェはないと思います」

「ガーン……」

 あっ。もう口で言っちゃった。
 この後、ユミさんの機嫌を直すのは大変でした……。







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