72 / 123
番外2
誰もが気になっていたこと
しおりを挟む
「ここに来てからずっとなんだけど、一つ気になってたこと聞いていい?」
カナリアが森に来てからまだ数日の話。
本を読んでいたカナリアが突然そう言った。
「なに?」
「いや、お姉様じゃなくてお嬢様に」
「私ですか?」
質問の相手はユミさんだったみたいです。
あまり二人で話しているところを見ないので、少し驚きました。
一体何を気にしていたのか。
それにわざわざユミさんに聞くほどのこととは何なのか。
なんだか無性に気になってきました。
そんな空気を感じ取ったのか、キッチンからはミシェルさんが、外では訓練中のシュウが、入り口の近くではティア様とカイとヴィルが聞き耳を立てています。
「なんでも聞いてください。そう言えばカナリアから私に話しかけてくれたのはこれが初めてですね。嬉しいです」
「そんな恥ずかしいことわざわざ言わなくていいから。それじゃ聞くけど――なんでカフェなの?」
「? なんでとは?」
「ちょっと足りなかったわね。要するに――――なんでこんなところでカフェを開こうと思ったの?」
カナリアがそう聞いた瞬間、空気が凍りました。
誰もが気にしていて聞けなかったことをこの子は……。
空気を読めないのかあえて空気を読まないのか。
なかなか大物だと思いました。
ちょっとシュウ! 我関せずみたいな態度で訓練に戻らないでよ。
ティア様!? 神獣たちつれてお散歩に行かないでください!
ミシェルさんは…………ミシェルさんは、わかりません。今何を考えているのかわかりませんが、猛スピードでケーキを作っています。
一体この数秒で何種類のケーキを作っているんですかっ!
物理的に不可能な事しないでくださいっ!
「なんでって……」
ユミさん! 別に答えなくてもいいですよ!
別にこんなところにカフェがあったっていいじゃないですか。
それはそれで趣があるというものです。
だから間違っているなんてことはありませんよ。
その思いとは裏腹に、私はユミさんがなんて言うのか期待して固唾を飲む。
「それはもちろん、カフェを開くなら森の中が定番だと本に書いてありましたから」
「「はい?」」
予想外の答えでカナリアと反応が被ってしまった。
もしかしてそれだけ? それだけの理由でこんな森の中まで来たの?
行動力というより思考そのものが別次元過ぎません?
「それだけなの?」
「そうですよ」
「……おかしくない?」
「何か変ですか?」
「当然でしょ! どうしてカフェを開くだけでこんなバカみたいな森選ぶのよ!」
「ですから、本に書いてあった通りですよ? 深い森の中でひっそりとした穴場のカフェを開く。都会からスローライフを求めて来る人の定番ではないですか。『てんぷれ』というやつです。この前ミシェルとシュウさんがそう言っていました」
「普通はもっと安全で人が通るような森にカフェを作るのよ! こんな森に人なんて来ないじゃない! 穴場でもなんでもないわよ!」
カナリアが肩で息をしています。
そこまで全力になるカナリアも珍しいです。
そう言われたユミさんは困惑しています。
「え? え? こういう森の中のカフェなら穴場になるのでは……」
「お嬢様に一つ大事なことを教えてあげる」
「な、何ですか……?」
「カフェは――客が来なきゃ意味ないのよ」
「なっ!?」
目から鱗が落ちるとはこのことですね。
ユミさんが身をもって教えてくれました。
ユミさんの今の様子はすごいです。ガーン、という効果音が目に見えるようです。
「お茶ですよ~」
「み、みみみミシェル!!」
ユミさんがトレーを持って現れたミシェルさんに抱き着きました。
「み、ミシェルっ。わ、私、普通じゃないことをしていたのでしょうかっ!?」
「何をいまさ……ごほんっ。お嬢様はお嬢様のしたいようにするのがいいですよ。何をするにしてもお嬢様のしたいように。私は側でお支えしますから」
「う~、ミシェルぅ~」
ミシェルさんの胸元に頭をぐりぐりしています。
ちょっと、ミシェルさんの顔が大変なことになっているので、ユミさん少し離れたほうが……いえ何でもないですだからそんなに睨まないでっ!
「しかし、お嬢様」
「……ぐすっ……なんですか?」
「私もお客様の来ないカフェはないと思います」
「ガーン……」
あっ。もう口で言っちゃった。
この後、ユミさんの機嫌を直すのは大変でした……。
カナリアが森に来てからまだ数日の話。
本を読んでいたカナリアが突然そう言った。
「なに?」
「いや、お姉様じゃなくてお嬢様に」
「私ですか?」
質問の相手はユミさんだったみたいです。
あまり二人で話しているところを見ないので、少し驚きました。
一体何を気にしていたのか。
それにわざわざユミさんに聞くほどのこととは何なのか。
なんだか無性に気になってきました。
そんな空気を感じ取ったのか、キッチンからはミシェルさんが、外では訓練中のシュウが、入り口の近くではティア様とカイとヴィルが聞き耳を立てています。
「なんでも聞いてください。そう言えばカナリアから私に話しかけてくれたのはこれが初めてですね。嬉しいです」
「そんな恥ずかしいことわざわざ言わなくていいから。それじゃ聞くけど――なんでカフェなの?」
「? なんでとは?」
「ちょっと足りなかったわね。要するに――――なんでこんなところでカフェを開こうと思ったの?」
カナリアがそう聞いた瞬間、空気が凍りました。
誰もが気にしていて聞けなかったことをこの子は……。
空気を読めないのかあえて空気を読まないのか。
なかなか大物だと思いました。
ちょっとシュウ! 我関せずみたいな態度で訓練に戻らないでよ。
ティア様!? 神獣たちつれてお散歩に行かないでください!
ミシェルさんは…………ミシェルさんは、わかりません。今何を考えているのかわかりませんが、猛スピードでケーキを作っています。
一体この数秒で何種類のケーキを作っているんですかっ!
物理的に不可能な事しないでくださいっ!
「なんでって……」
ユミさん! 別に答えなくてもいいですよ!
別にこんなところにカフェがあったっていいじゃないですか。
それはそれで趣があるというものです。
だから間違っているなんてことはありませんよ。
その思いとは裏腹に、私はユミさんがなんて言うのか期待して固唾を飲む。
「それはもちろん、カフェを開くなら森の中が定番だと本に書いてありましたから」
「「はい?」」
予想外の答えでカナリアと反応が被ってしまった。
もしかしてそれだけ? それだけの理由でこんな森の中まで来たの?
行動力というより思考そのものが別次元過ぎません?
「それだけなの?」
「そうですよ」
「……おかしくない?」
「何か変ですか?」
「当然でしょ! どうしてカフェを開くだけでこんなバカみたいな森選ぶのよ!」
「ですから、本に書いてあった通りですよ? 深い森の中でひっそりとした穴場のカフェを開く。都会からスローライフを求めて来る人の定番ではないですか。『てんぷれ』というやつです。この前ミシェルとシュウさんがそう言っていました」
「普通はもっと安全で人が通るような森にカフェを作るのよ! こんな森に人なんて来ないじゃない! 穴場でもなんでもないわよ!」
カナリアが肩で息をしています。
そこまで全力になるカナリアも珍しいです。
そう言われたユミさんは困惑しています。
「え? え? こういう森の中のカフェなら穴場になるのでは……」
「お嬢様に一つ大事なことを教えてあげる」
「な、何ですか……?」
「カフェは――客が来なきゃ意味ないのよ」
「なっ!?」
目から鱗が落ちるとはこのことですね。
ユミさんが身をもって教えてくれました。
ユミさんの今の様子はすごいです。ガーン、という効果音が目に見えるようです。
「お茶ですよ~」
「み、みみみミシェル!!」
ユミさんがトレーを持って現れたミシェルさんに抱き着きました。
「み、ミシェルっ。わ、私、普通じゃないことをしていたのでしょうかっ!?」
「何をいまさ……ごほんっ。お嬢様はお嬢様のしたいようにするのがいいですよ。何をするにしてもお嬢様のしたいように。私は側でお支えしますから」
「う~、ミシェルぅ~」
ミシェルさんの胸元に頭をぐりぐりしています。
ちょっと、ミシェルさんの顔が大変なことになっているので、ユミさん少し離れたほうが……いえ何でもないですだからそんなに睨まないでっ!
「しかし、お嬢様」
「……ぐすっ……なんですか?」
「私もお客様の来ないカフェはないと思います」
「ガーン……」
あっ。もう口で言っちゃった。
この後、ユミさんの機嫌を直すのは大変でした……。
0
お気に入りに追加
444
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
2人の幸せとは?今世も双子の姉妹で生まれちゃいました!
☆n
恋愛
何度生まれ変わっても双子の妹に全てを奪われる姉。
そしてその姉を見守り続けた者(物)達。
ー姉を見守り続けた者(物)達は、全ての力を今世に生まれたあの子に注ぐー
どれだけ悔しかったか...。あの子を幸せにできない自分達をどれだけ痛めつけてきたか...。
悔し涙の分だけ持った私達の力の全てを今世のあの子に...
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる