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第二部
*アリア視点 (2)
しおりを挟む「騙されるな、お前たち! あいつが偽物なんだ!」
未だに状況を理解せず喚いている王子。
その姿を見て、どこか憐れに感じてしまったのは私だけではないはず。
ただ、あれをどうしようかしら。
何を言っても聞いてくれないでしょうね。
面倒だから彼も一緒に連れて言ってくれないかなぁ。
そんなことを考えていると、将軍さんが私たちの前にやってきた。
「聖女様。此度は誠に申し訳ございませんでした。まさか、謀られているとは知らず、聖女様には酷い仕打ちをしてしまいました」
そう言って将軍さんは膝をつき頭を下げた。
声からもその姿からも謝意が感じられた。
彼はどうやら自分で判断を下せる人みたいだ。将軍さんの後方では王子がさらに喚きたてている。
「気になさらないでください。私にも至らないことがあったのです。全てを妹のせいにはできません。ですので、どうか……。妹の命だけでも救うことはできませんか?」
「…………難しいでしょう。事が事ですので、何とも。ですが、私なりの罪滅ぼしとして、できる限り聖女様の願いに沿えるよう尽力いたします」
「……ありがとう、ございますっ」
どうか、生きていて。
最後に一度でいい。笑って一緒にお話しできたらいいな。
私は静かに祈った。
「……――っ。やはり聖女様で間違いなかった。今回は本当に悪いことをした……」
将軍さんが小声で何かを呟いた。
私には聞こえなかったけれど、カナリアの「……バカね」って声が聞こえたような気がした。
「――そうやって聖女のふりをしたって認めるものかっ! いい加減洗脳を解け!」
さすがにうるさくなってきたわ。
それにだんだん腹も立ってきた。
シュウや私の護衛騎士たちは怒りで震えている。
今にも王子に斬りかかりそうなものだが、よく我慢している。
「……申し訳ありません。本当は殿下もお連れしてこの場を去りたいのですが、私の位ではかの方に逆らうことはできません。ですので、すぐに然るべき方をお連れして参ります。それまで、どうか……」
将軍さんはこの場から駆け出していきました。
できるだけ早く連れてきていただきたいものです。
というか、私たちも早くこの場から立ち去りたいのですが、どうしましょうか。
「シュウ、どうしますか?」
「戻るにしても彼女たちを待たなくてはならない。あのバカ王子に対応できる人となると王族とかになる。そんな方が連れてこられたら、アリアはまた聖女として国に拘束されるかもしれない。それは嫌だろ?」
「嫌。もう聖女なんてうんざり。絶対にこの国には残らない。私はもう……自由に生きるんだから!」
「……ああ、そうだ。アリアはもう自由だ。やりたいことを好きなだけやろう」
「ええ、私もユミさんみたいに」
もう私は聖女ではない。
ただのアリアよ。だからこんな国とはおさらばするの。
そのためにはこの王子をどうにかしましょう。
「聞いているのか、貴様ら! 偽物の分際で私を無視しおってぇ……。許さんぞ!」
「偽物でもなんでも構いません。私はもう聖女なんじゃない! 私はアリア。あなたの言うことを聞く必要もないし、義理もない。いい加減帰ってください!」
私が王子に向かってそう言うと共に、足元でヴィルが吠えた。
神獣に吠えられたためか、それとも単なるビビりだったのか、王子は驚いて尻もちをついた。
「お、おのれぇ……。王子である私に恥をかかせるとは、不敬罪だっ!! 今ここでその首、刎ねてやる!!」
王子が腰に佩いた剣を抜いて斬りかかってくる。
そんな見え見えの行動にシュウたちは私を守るように前に出る。
しかし、王子が近づいてくることはなかった。
なぜなら――。
「お待たせしました。では、帰りましょうか」
巨大な虎に乗った美少女が二人、私たちの間に降りてきたから。
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