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第二部
逃走
しおりを挟む「ミシェル、何か禍々しいものが出てきましたね。あれが呪詛というのですか?」
ここに来る前、ティアとミシェルが話していた通りでした。
それにしてもあんな感じだとは想像していませんでしたね。
少しびっくりです。
「そうですよ。危ないので触っちゃダメですからね。それにしてもあんなにため込んでいたなんて。人を呪わば穴二つって言葉を知らないんでしょうか」
「? どういう意味ですか?」
「あ~……知らないですよね。簡単に言えば、人を呪ったりすると自分も同じ目にあうぞ、っていう忠告みたいなものです」
「なるほど。それではあのおじいさんも?」
「そうなるかも……と言うか、あれじゃそうなるとしか。何が起こるかわかりませんけどね。もしかしたら私たちがここにいることがあれにとってはそうなのかもしれません」
それはどうなのでしょうかね。
ですが、ミシェルの言うこともわからないではないです。
確かにあの黒いモノは禍々しいと思います。しかし、不思議と恐怖は感じていません。
……もしかして、森暮らして私も少しは逞しくなったのではないですか!
最近筋肉もついてきましたしね。ほら、見てくださいこの力こぶ。
「何を勘違いしているか知りませんけど、お嬢様に筋肉はほとんどついていないですよ。むしろ付けないように私が調整しています。せっかくのお嬢様の柔らかい肢体を筋肉で頑強にするなど、ありえません!」
「…………どうしてそんなことするのよ! 王城にいた女騎士とか憧れていたのに!」
「そんな憧れ、そこら辺の砂場にポイッしてください。お嬢様には不要のものです。というか、武器も持てないのに女騎士に憧れるとかどういうことですか」
た、確かに、練習用の木剣くらいしか持てないけど。それも振り回せないけど。
憧れるくらいいいじゃないですか。
「か、格好良かったのです。なんか、こう、キリッとしていて。…………ってそんな話は良いのです。今はあれをどうにかしましょう」
「お嬢様が話を逸らしたのですけどね。それに私たちが何かする必要もなさそうですし」
それもそうですね。
もうすぐ、というかすぐそこに彼女がいますし。
「…………何やらまた忘れられていたような気がしますが、まあいいでしょう。それより、怪我をしたくなかったらこれ以上わしに関わらないことです。この力の奔流を見たでしょう。お嬢さん方には少々酷なものかと」
「いえ、別に大したことはありません。正直どうとでもなります。この場から逃げたいのであればいくらでもどうぞ。…………逃げられるのであれば、の話ですが」
「っ!? 強がりを。ここまでして動じないとは、これは珍しいご令嬢と巡り会えたものですな。こんな時でなければ実験サンプルにしたいところです」
その言葉にミシェルが反応を示しましたが、手を握って収めました。
今、私たちがすることはありません。
おじいさんは黒い靄を翼のような形にし、おそらく飛び去ろうとしたのでしょうか。
「それでは、わしはこれで失礼しますよ。またどこかで会えるといいですな」
『あら、つれないわね。そんなこと言わずに今、あたしとお話ししましょうよ』
おじいさんの翼が消失しました。
今まさに飛んでいこうとしたおじいさんは翼がなくなったことで地面に落ちてきました。
「い、一体何が!?」
『あたしの前でそんな汚らしいモノを晒すなんて、いい度胸ね』
私たちとおじいさんの間には美しい羽を広げた絶世の美女――――精霊王のティアがいました。
それも迫力のある微笑を浮かべて。
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