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第二部
呪詛
しおりを挟む「呪い――ですとな? 確かにそのようなものをかけた覚えはありますが、はて、あなたとどのような関係がおありでしょうか?」
「関係、というとどう言えばよいのか難しいところですが、私の友人がその呪いについて酷くお怒りなのです。それに悲しんでもいました。彼女の友人として私はどうにかしたいと言うのは、おかしいと思いますか?」
あえて質問を返してみました。
こういう時、質問を質問で返すな、と言われるのが定石というものだと本で読みました。
果たして本当なのでしょうか。
「ほうほう、友人のためと。わしには想像もつかない感情ですので、その疑問は無意味でしょう。他を当たりなさい」
ダメでした。
なぜか裏切られた気分です。
あの本は間違いだと認識しておきましょう。
「――それと質問に質問を返すのは失礼ですよ。そういうマナーを教えてくれる方はいらっしゃらなかったようですな」
「わぁわぁ! ミシェルミシェル! 聞きました? あの本の通りでした! 実際にこんなこと言う人がいたのですね! なんだか嬉しいですっ!」
一度期待を裏切ってからとは、このおじいさんもなかなか趣向というものを理解していますね。
帰ったらあの本は正しかったとティアにも教えてあげましょう。
「……かわいい。本当に私と同じ人間なのでしょうか。天使…………いえそれでは足りません。ああ…………どうすれば! 私の語彙力が憎いっ!」
なぜかミシェルが泣いています。
何か悲しいことでもあったのでしょうか。
仕方ないですね、なでなで。
「――かはっ!!」
「ミシェル!?」
「……お嬢さんたちは本当、何しに来たのですかな?」
ああ、おじいさんが呆れたような顔をしています。
ちょっと興奮してて忘れてました。
心の中で謝っておきます、ごめんなさい。
「は、話を戻します。どうしておじいさんはあのようなものをお作りになられたのですか?」
「普通なら、その質問に答える義務はないのですが、お嬢さんの知識欲に免じて答えましょう」
一呼吸おいて、話始めた。
「お嬢さんはご存じかな? 何百年、いや、もっと昔は精霊という存在は当たり前のようにいた。それこそ人間と共存してその力を貸し与えていたそう。魔導士でなくとも精霊と契約するのは当たりまえ。ただの少年少女ですら精霊と契約していたと。それほど精霊と言うのは、人間にとって隣人のような存在であった。
それが今はどうか。精霊は人間に姿を見せず、特定の誰かにのみ力を貸す。わしにとっては喉から手が出るほど欲しい力を、その者らは何も気づかずに利用している。そんなこと、許せるはずもない。許すわけにはいかない。
特に光の巫女。あれはわしにとっては悪だ。ひと際珍しいとされる光精霊の恩恵を受けながら、さも自分の力のように振舞う。そうとは知らず聖女とほざき民に愛される存在。
これはわしの正当な怒りだ。故にかの巫女の妹を利用し、呪いをかけた。その力は貴様のものではないと。その恩恵を受ける資格はないと。貴様に、精霊に愛される資格などないと、そう知らしめるために。
我が魔法の粋、そしてある老魔導士からもらい受けた法術書を最大限発揮し、作成したものだ。
それを…………何が神獣だ! そのようなおとぎ話にわしの計画が乱されるなぞ。会ってはならぬ。
…………次は殺す。絶対にだ」
そう語る老魔導士からは言い知れぬ迫力を感じた。
そしてその言葉はどす黒い何かを生み出し、形を成す。
そう、あれは――――呪詛だ。
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