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第二部
*カナリア視点 (3)
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「――――その必要はございません。私はここにいます」
凛とした声が響いた。
聞きなれた、愛しくて恋しくて憎らしい声。
しかし、周囲にはあの女の姿はない。
では、一体どこから。
「……お、おい、あれって」
兵士たちの動揺した声が上がる。
皆一様に同じ場所に視線を向けている。
私もそれに倣い視線を上に。
――空には見たことのない魔法陣が浮かびあがっていた。
何事かと警戒し、その場にいた者全てに緊張が走った。
そして魔法陣からは円筒状に光が降り、砂地の上に同じ魔法陣を描く。
すると光の中に数人の人影が現れる。
「……まさか、わしと同じ魔法を使うものがおるとは。いや、どこかわしの物とは何か違う。一体……」
魔導士が一人ぶつぶつと呟いているが、まったく気にならなかった。
なぜなら。
「まさか、私が会いに行く前にそっちから来るなんてぇ。よっぽど私に会いたかったのねぇ。お姉様ぁ?」
「……そうね。そろそろあなたと向き合わないといけないみたいだから。私が前に進むために」
ひと際強い光が収まると、そこには逃亡した姉の姿と、協力者の騎士たちがいた。
あれだけの瀕死の重体が、一週間かそこらで綺麗に完治しているのには少し驚いた。
「変わったわね、お姉様。以前とは見違えたわ。一体何があったのかしら」
「いろいろと考えさせられることが多かったわ。貴重な経験もしたしね。だからこうして過去を清算しに来たの」
「随分な言い草ね。過去を清算? 何を言っているのかさっぱりだわ」
「そう。あくまでも白を切ると言うのね。それなら私から言ってあげる。私に呪いをかけてまで聖女の座が欲しかったのでしょう? どう? 気分は」
姉がそう言うとにわかに周囲がざわつく。
おそらく呪いという言葉に反応しているのだろう。
だが、今となっては姉の言葉を信じる者はいない。
なんせあの女はもう偽聖女なのだから。
「なんのことかしら。呪い? そんなもの知らないわ」
「そうだ。偽聖女が何を馬鹿馬鹿しいことを言っている。そんな言葉を弄しても貴様の処罰は変わらない。聖女という地位に縋る愚か者め」
わざわざそんなこと言わなくても。
というかそれを言うためだけに前に出てきたのかしら。
だったら下がっててほしいのだけど。邪魔だし。
「別に私はもう聖女なんかどうでもいいわ。それよりあなたと――そこの魔導士さん。あなたたちをどうにかしないとね」
……聖女なんか、ですってぇ?
その称賛を得るために、私が今までどれだけ費やしてきたと。
それを、この女は。だから嫌いなのよ。
「おやおや、わしが何かしましたかな? そんなに睨まんでもいいでしょうに。嫌われたものですな」
「これからするじゃない。それを止めるために私はここにいる。これ以上恩人に迷惑を掛けられないもの」
「ふん、強がりね。そんな虚勢がいつまで持つかしら」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。……ねぇ、カナリア。あなた今、魔法使えないでしょ?」
呪いについて知られていた時点で、その言葉は予想していた。
あの女が側にいない限り私は魔法を使えない。
しかし、今はこうして目の前にいる。使えないわけがないわ。
それをわかっているのにこんなところまでわざわざ転移してきたのかしら。
そう思うとなんだか笑えるわね。
「何をバカなことを言っているの。使えないのはお姉様の方でしょう。現にこうして……――――うそ、でしょ。なんで!? 私の魔法が!」
使えない。
なんで、どうして、私が魔法を使えないのよ。
呪いはちゃんとかかっているはずでしょう。
なのに、どうして!?
「やっぱり。よかったわ。呪いはちゃんと解呪できているみたい。この子のおかげね」
よく見ると、あの女に寄り添うように真っ白な大型犬がいた。
白というより白銀と言った方がいいかもしれない。
今までどうして気づかなかったのか。
こうして存在を確認すると圧倒的な迫力を感じる。
一体あの犬は……?
凛とした声が響いた。
聞きなれた、愛しくて恋しくて憎らしい声。
しかし、周囲にはあの女の姿はない。
では、一体どこから。
「……お、おい、あれって」
兵士たちの動揺した声が上がる。
皆一様に同じ場所に視線を向けている。
私もそれに倣い視線を上に。
――空には見たことのない魔法陣が浮かびあがっていた。
何事かと警戒し、その場にいた者全てに緊張が走った。
そして魔法陣からは円筒状に光が降り、砂地の上に同じ魔法陣を描く。
すると光の中に数人の人影が現れる。
「……まさか、わしと同じ魔法を使うものがおるとは。いや、どこかわしの物とは何か違う。一体……」
魔導士が一人ぶつぶつと呟いているが、まったく気にならなかった。
なぜなら。
「まさか、私が会いに行く前にそっちから来るなんてぇ。よっぽど私に会いたかったのねぇ。お姉様ぁ?」
「……そうね。そろそろあなたと向き合わないといけないみたいだから。私が前に進むために」
ひと際強い光が収まると、そこには逃亡した姉の姿と、協力者の騎士たちがいた。
あれだけの瀕死の重体が、一週間かそこらで綺麗に完治しているのには少し驚いた。
「変わったわね、お姉様。以前とは見違えたわ。一体何があったのかしら」
「いろいろと考えさせられることが多かったわ。貴重な経験もしたしね。だからこうして過去を清算しに来たの」
「随分な言い草ね。過去を清算? 何を言っているのかさっぱりだわ」
「そう。あくまでも白を切ると言うのね。それなら私から言ってあげる。私に呪いをかけてまで聖女の座が欲しかったのでしょう? どう? 気分は」
姉がそう言うとにわかに周囲がざわつく。
おそらく呪いという言葉に反応しているのだろう。
だが、今となっては姉の言葉を信じる者はいない。
なんせあの女はもう偽聖女なのだから。
「なんのことかしら。呪い? そんなもの知らないわ」
「そうだ。偽聖女が何を馬鹿馬鹿しいことを言っている。そんな言葉を弄しても貴様の処罰は変わらない。聖女という地位に縋る愚か者め」
わざわざそんなこと言わなくても。
というかそれを言うためだけに前に出てきたのかしら。
だったら下がっててほしいのだけど。邪魔だし。
「別に私はもう聖女なんかどうでもいいわ。それよりあなたと――そこの魔導士さん。あなたたちをどうにかしないとね」
……聖女なんか、ですってぇ?
その称賛を得るために、私が今までどれだけ費やしてきたと。
それを、この女は。だから嫌いなのよ。
「おやおや、わしが何かしましたかな? そんなに睨まんでもいいでしょうに。嫌われたものですな」
「これからするじゃない。それを止めるために私はここにいる。これ以上恩人に迷惑を掛けられないもの」
「ふん、強がりね。そんな虚勢がいつまで持つかしら」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。……ねぇ、カナリア。あなた今、魔法使えないでしょ?」
呪いについて知られていた時点で、その言葉は予想していた。
あの女が側にいない限り私は魔法を使えない。
しかし、今はこうして目の前にいる。使えないわけがないわ。
それをわかっているのにこんなところまでわざわざ転移してきたのかしら。
そう思うとなんだか笑えるわね。
「何をバカなことを言っているの。使えないのはお姉様の方でしょう。現にこうして……――――うそ、でしょ。なんで!? 私の魔法が!」
使えない。
なんで、どうして、私が魔法を使えないのよ。
呪いはちゃんとかかっているはずでしょう。
なのに、どうして!?
「やっぱり。よかったわ。呪いはちゃんと解呪できているみたい。この子のおかげね」
よく見ると、あの女に寄り添うように真っ白な大型犬がいた。
白というより白銀と言った方がいいかもしれない。
今までどうして気づかなかったのか。
こうして存在を確認すると圧倒的な迫力を感じる。
一体あの犬は……?
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