婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは

文字の大きさ
上 下
55 / 123
第二部

 *カナリア視点 (3)

しおりを挟む
「――――その必要はございません。私はここにいます」

 凛とした声が響いた。
 聞きなれた、愛しくて恋しくて憎らしい声。
 しかし、周囲にはあの女の姿はない。
 では、一体どこから。

「……お、おい、あれって」

 兵士たちの動揺した声が上がる。
 皆一様に同じ場所に視線を向けている。
 私もそれに倣い視線を上に。

 ――空には見たことのない魔法陣が浮かびあがっていた。

 何事かと警戒し、その場にいた者全てに緊張が走った。
 そして魔法陣からは円筒状に光が降り、砂地の上に同じ魔法陣を描く。
 すると光の中に数人の人影が現れる。

「……まさか、わしと同じ魔法を使うものがおるとは。いや、どこかわしの物とは何か違う。一体……」

 魔導士が一人ぶつぶつと呟いているが、まったく気にならなかった。
 なぜなら。

「まさか、私が会いに行く前にそっちから来るなんてぇ。よっぽど私に会いたかったのねぇ。お姉様ぁ?」

「……そうね。そろそろあなたと向き合わないといけないみたいだから。私が前に進むために」

 ひと際強い光が収まると、そこには逃亡した姉の姿と、協力者の騎士たちがいた。
 あれだけの瀕死の重体が、一週間かそこらで綺麗に完治しているのには少し驚いた。

「変わったわね、お姉様。以前とは見違えたわ。一体何があったのかしら」

「いろいろと考えさせられることが多かったわ。貴重な経験もしたしね。だからこうして過去を清算しに来たの」

「随分な言い草ね。過去を清算? 何を言っているのかさっぱりだわ」

「そう。あくまでも白を切ると言うのね。それなら私から言ってあげる。私に呪いをかけてまで聖女の座が欲しかったのでしょう? どう? 気分は」

 姉がそう言うとにわかに周囲がざわつく。
 おそらく呪いという言葉に反応しているのだろう。
 だが、今となっては姉の言葉を信じる者はいない。
 なんせあの女はもう偽聖女なのだから。

「なんのことかしら。呪い? そんなもの知らないわ」

「そうだ。偽聖女が何を馬鹿馬鹿しいことを言っている。そんな言葉を弄しても貴様の処罰は変わらない。聖女という地位に縋る愚か者め」

 わざわざそんなこと言わなくても。
 というかそれを言うためだけに前に出てきたのかしら。
 だったら下がっててほしいのだけど。邪魔だし。

「別に私はもう聖女なんかどうでもいいわ。それよりあなたと――そこの魔導士さん。あなたたちをどうにかしないとね」

 ……聖女なんか、ですってぇ?
 その称賛を得るために、私が今までどれだけ費やしてきたと。
 それを、この女は。だから嫌いなのよ。

「おやおや、わしが何かしましたかな? そんなに睨まんでもいいでしょうに。嫌われたものですな」

「これからするじゃない。それを止めるために私はここにいる。これ以上恩人に迷惑を掛けられないもの」

「ふん、強がりね。そんな虚勢がいつまで持つかしら」

「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。……ねぇ、カナリア。あなた今、魔法使えないでしょ?」

 呪いについて知られていた時点で、その言葉は予想していた。
 あの女が側にいない限り私は魔法を使えない。
 しかし、今はこうして目の前にいる。使えないわけがないわ。
 それをわかっているのにこんなところまでわざわざ転移してきたのかしら。
 そう思うとなんだか笑えるわね。

「何をバカなことを言っているの。使えないのはお姉様の方でしょう。現にこうして……――――うそ、でしょ。なんで!? 私の魔法が!」

 使えない。
 なんで、どうして、私が魔法を使えないのよ。
 呪いはちゃんとかかっているはずでしょう。
 なのに、どうして!?

「やっぱり。よかったわ。呪いはちゃんと解呪できているみたい。この子のおかげね」

 よく見ると、あの女に寄り添うように真っ白な大型犬がいた。
 白というより白銀と言った方がいいかもしれない。
 今までどうして気づかなかったのか。
 こうして存在を確認すると圧倒的な迫力を感じる。
 一体あの犬は……?








しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!

幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23  女性向けホットランキング1位 2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位  ありがとうございます。 「うわ~ 私を捨てないでー!」 声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・ でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので 「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」 くらいにしか聞こえていないのね? と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~ 誰か拾って~ 私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。 将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。 塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。 私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・  ↑ここ冒頭 けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・ そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。 「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。 だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。 この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。 果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか? さあ! 物語が始まります。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

処理中です...