婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

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第二部

逃亡。そして――

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「――急いでください! 追手がそこまで」

 逼迫した声。
 そこには一人の少女と護衛と思われる数人の騎士がいた。

「ランバーは用意してあります。あとは砂漠を越えられれば逃げ切れるでしょう」

「……私のためにこのような無茶を。感謝をここに。あなたたちのおかげで私は」

「それは後にしましょう。今は奴らから逃げ切ることが先です」

「……そうですね。急ぎましょう」

 少女らは暗い夜の街を物音一つ立てず進んでいく。
 目的は国を出ること。

「もうすぐです。この先に抜け道があるのでそこを抜ければ国を出ることができます」

 護衛の騎士が言う。
 少女はホッと安堵の息を漏らす。
 その時頭上で眩しい光が放たれた。

「――まずいっ! 走って!!」

「いたぞ! 逃がすな!」

 少女たちを追っている者は魔法で光を生み出した。
 その結果、暗がりを移動していた少女たちは見つかってしまう。
 即座に走り出したが、かなりの追手が後ろをついてきていた。

「……私が囮になります。その間に『巫女様』はお逃げください」

「――ダメです! 皆で逃げなくては」

「今ここで『巫女様』が捕まるわけにはいかないのです。幸い私はデコイの魔法を使えます。『巫女様』を逃がす時間くらいは稼げるでしょう。お前たち。後は頼んだぞ」

「「「はっ!!」」」

 一人の騎士が『巫女様』と呼ばれた少女を抱え走る。
 残った騎士は詠唱し、共に行動していた少女たちと同じ姿のデコイを作り、少女たちとは別の方向に走り去っていく。

「待って! ダメです! 皆も彼を止めてください!!」

「……『巫女様』、どうかご容赦ください。隊長の意思を汲んで今は逃げるのです」

 そう言って少女を抱えている騎士は苦悶の表情を浮かべる。
 騎士の言葉に少女は悔し涙を流し、血が滲むほどに唇をかみしめた

「……私に力がないばかりに。ごめんなさい。ごめん……なさい……」

 街の外に抜けた少女たちは、用意されていた「ランバー」という砂漠の移動に使われる魔物に乗る。
 そのまま東に向かって走りだした。

「このままいけば逃げ切れます。三日ほどで帝国につくはず――くそっ! そこまでして『巫女様』を! 『巫女様』が何をしたって言うんだ!!」

 騎士が少女に話している最中に聞こえた地鳴り。
 後方に視線を向けると、十を超えるワームと呼ばれる砂漠の巨大な魔物が少女たちを追いかけていた。
 ワームの背には特徴的な旗を掲げた騎士の姿が多数。
 その中心には身なりの整った男女が寄り添っていた。

「そこまでだ『偽聖女』。このワームたちからは逃げられることはできまい」

「そうですよぉ。お姉さまぁ、そろそろ観念なさってぇ」

「……そんな……王家の秘宝を用いてまで私を……。そこまでして私を貶めたいのですね」

 少女は嘆くようにつぶやいた。
 護衛の騎士たちもあまりの状況に困惑。
 そして一喝。

「最低限の護衛をつけ『巫女様』をお連れする! 残りは私と共に足止めだ!……………………すまないな、お前たち。俺と共に死んでくれ」

「「この命は『巫女様』のために!!」

「ダメよ、シュウ! 私のためにそんな……。諦めて私が捕まれば」

「それこそダメだっ!!……………………君はここで死んでいい人ではない。生きてくれ。……それでは『巫女様』――――いや、アリア。元気で」

 シュウと呼ばれた騎士はワームの群れ、多数の騎士に向かって突撃する。
 手には煌々と輝く炎の魔剣。彼の意思を示すかのように激しく炎上している。
 残された二人の騎士は少女を連れ、東に向かって駆け出した。

「いやっ! シュウ……! どうしてよ……私が戻ればそれで」

「いいえ。『巫女様』をお守りするのが我らの使命。元より命を賭してお守りする覚悟でいます。……どうか、彼らの意思を尊重してください」

 そういう騎士の目からは一筋の雫がこぼれる。
 少女――アリアは悔し気な表情を浮かべワームに向かっていった騎士たちを見送る。
 数の暴力に負け、彼らはすでに満身創痍の状態だった。
 それでもアリアを連れた騎士たちが戻ることはなかった。
 しかし、突然前方で大きな砂山が生まれた。それはどんどんと大きくなっていく。

「くそっ! まだいたのか!」

 砂山からは三体のワームが出現。
 アリアたちは前方を塞がれた。

「せめて『巫女様』だけでも!」

「お逃げください!」

 二人の騎士はアリアだけをランバーに乗せワームに向かっていく。
 しかし、二人だけでは三体のワームに数秒と抗うことは叶わなかった。
 守りもなく逃げ場も失ったアリアは最後の抵抗としてその場で祈りを始めた。

(私はどうなっても構いません。彼らをお救いください。ああ……神よ)

 突然アリアの体が光を放ち、それは護衛の騎士たちにも伝播した。
 光が砂漠にいたアリアたちを包み込むと、視界を埋め尽くすほどの眩い光を放った。
 そして光が収まったとき

 ――――アリアたちの姿は消えていた。



 ◇◇◇



 今日もいい天気ですね。
 絶好のお散歩日和です。
 ミシェルは珍しく忙しくしているみたいなので、カイとその他動物さんたちを連れお花畑に向かいましょう。
 ここ最近のお散歩はかなりの大所帯になることが多いです。
 動物さんたちとは仲良しになったのでこうしてお散歩についてくる子たちが徐々に増えていった結果です。

 十数分歩いてお花畑に到着です。
 しかし、普段のお花畑とは様子が異なりました。
 なんと人がいたのです! 
 びっくりですね。それに見たことのない服を着ていらっしゃいます。
 人数は十人ほど。草陰から覗いているとおかしいことに気が付きました。

 女の子が一人、何か祈りを捧げている様子。
 その周囲におそらく騎士のような格好の人たちが倒れ伏していました。
 大変です! 怪我をなさっているようです!
 それが分かった私は思わず飛び出してしまいました。
 カイが何か言っていますが今はそれどころではありませんよ。

「だ、大丈夫ですか!?」

 声をかけると少女がこちらを見ました。

「……人……それにここは……? いえ、どうかお願いです。彼らを……助け……て……………………」

 そう言って少女も倒れてしまいました。
 これは本当に大変ですね。
 とりあえずミシェルのところまで連れていきましょう。
 幸い人ではたくさんありますから問題ないです。

「それじゃみんな。この人たちを家まで運ぶからお手伝いを。怪我をしているから丁寧にね。ゆっくり急いで。頑張ってくれた子にはご褒美がありますよ」

 そう言うとみんな張り切ってくれるのです。
 競ったりはしません。みんな仲良しなので自分たちで協力してくれるのです。
 働き者で頼れる子たちなんですよ。
 運ぶ準備ができたみたいなので行きましょう。

「カイ、急いで家まで戻りますよ」

『…………また厄介事な気がする』

 カイに乗って家に向かいます。
 その際カイが何か言っていましたが気にしません。
 とにかく急遽お散歩から人命救助に変更です。









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