婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは

文字の大きさ
上 下
25 / 123
第一部

王国の現状

しおりを挟む
 アルフレッド様ってこんなに残念な方でしたのね。
 今になって気づくとは、私もまだまだということでしょう。

「貴様ら! 全部聞こえているぞ! 私をバカにしているのか!」

 あら。ミシェルとの会話が聞こえていたそうです。
 あんなにお顔を真っ赤にして怒っていらっしゃいます。
 ミシェルは『聞こえるように言ってるんですよ。バカ王太子~』と、こらこら、煽らないの。

「気に障ったのなら謝罪いたします。ですが、私は王国に戻るつもりはありません。ですので、早急にお帰り願いたいと思っております」

「ふん。貴様の意思など聞いていない。王国ではすでに罪人となっている。逃げ出した罪人を連れ戻すのに理由などいるか」

「罪人ですか……。冤罪にもほどがありますね。私が何をしたというのでしょうか」

「しらばっくれるな! 貴様が仕事を放りだしたせいで王宮は混乱状態となっている。さらに王都を出た記録もない。極めつけは我が国の神獣を勝手に連れていったことだ! 言い逃れはできんぞ」

 ……やっぱりバカな人なのですね。
 呆れて言葉も出ません。
 まあ記録についてはミシェルが……いや、ちゃんと書いてもらったそうですね。おそらくもみ消したのでしょう。
 そんなことをする暇があるなら、もっとお国のためにできることを考えたほうがいいと思うのですが。

「一応言っておきますが、私がしていた仕事は王妃教育の一環です。婚約破棄されたことで私の仕事ではなくなりました。その仕事はアルフレッド様の新しい婚約者である……………………え~と、お名前なんでしたっけ? 忘れてしまいましたが、その方のお仕事ですので、私に文句を言うのはお門違いというものです。
 それと、神獣の件ですが、私が連れてきたわけではありません。私についてきたのです。つまり神獣の意思です。私は何もしていないことをご理解ください」

「何をたわけたことを。そのようなことが信じられるとでも思っているのか」

「信じる信じない以前にこれが事実です。神獣が国を離れた理由は、あなた方貴族のせいでもあるのです。いい加減現実を見てください」

「バカにするのも大概にしろ! そんなわけあるか!」

 話が通じないというのはこんなにもイライラするのですね。
 どうしたら理解していただけるのでしょうか。
 頭を悩ませているとミシェルが空を見上げました。
 同じように見上げると虎のようなシルエットが見えました。
 ……戻ってきたみたいですね。これでアルフレッド様以外の方は納得してくれることでしょう。

「お、おい。上からないか降ってくるぞ!」
「なんだあれは! 警戒態勢!」
「ん? なんだ騒がしい」

 皆さん気づいたみたいです。
 騎士や冒険者の方々が警戒する中、カイが私の横に降りてきました。

「ま、まさか、神獣様……」

 魔導士姿の方が呟いた声が伝播していきました。
 私とミシェル以外顔を青くしています。神獣が出て来るとは思っていなかったのでしょうか。
 いえ、アルフレッド様だけは険しい顔をしていました。
 おそらく、やっぱりお前じゃないかとか、これで神獣が戻ってくるとか、そんなことを考えているに違いありません。

「おかえりなさい、カイ。どうでしたか?」

『主の言っていた通りだったな。長くは持つまい」

「そうですか。ありがとうございます」

 カイのふわふわの毛を撫でます。
 冒険者の方たちはとてもびっくりした顔で私を見ていました。
 どうしたのですかね。

「やはり貴様の側にいたか。神獣よ、我が国に戻ってくるのだ。そのような小娘の側など其方のいるべき場所ではないはずだ」

『………………なんだこの愚か者は? 主よ、この小僧は知り合いか?』

「クィンサス王国の王太子様ですよ。こんなですけど」

『こんな奴がか? これならやはり主についてきて正解だったな』

 神獣にまで哀れまれてますよ、アルフレッド様。
 なんだかかわいそうな人に思えてきました。不憫な方。

「なっ!? 私は王太子だぞ! いくら神獣だからと言って不敬であるぞ!」

「何を言ってんですか、このバカは。不敬なのはどっちだって話ですよ」

「ミシェル、はっきり言いすぎよ」

『いや、ミシェルの言う通りだ。不敬なのは貴様だ小僧。我は神獣。どっちが格上か言わずともわかるであろう』

 カイが唸り声を出すと、周囲にいた人たちは腰を抜かしました。
 膝をついて祈り出す人もいます。なんだかんだ言っても神獣ですからね。
 さすがの王太子様も顔を青くしています。ようやく理解してくれたのではないでしょうか。

『この場で咬み殺しても良いのだが、それよりも面白い話をしてやろう。貴様の国の話だ』

「……い、一体、何だ?」

『クィンサス王国では現在反乱が起きている』

「……………………は?」

『平民が貴族たちに対して暴動を起こしている。理由は神獣である我が国を離れたこと。そして――ユミエラを不当に婚約破棄し追放した上、罪人として指名手配していること』

「あら? 私も理由の一つなのですか?」

「当然です。以前お話ししましたでしょう」

 そうですね。ミシェルからなんとなく話は聞きました。
 国民の方たちからアイドルのように思われているとか。お恥ずかしいです。

「な、なぜそんなことで!?」

『国民にとっては重要なことなのだろう。この話には隣国の帝国と共和国も関与しているそうだ。よかったじゃないか、王太子とやら。一足先に逃げ出せて。まあ、帰る場所はなくなっているがな』

 おそらく戻ったところで捕まるでしょう。
 私を追放する原因となった人ですもの。

 ……しかし一つ言っておきますが私、別に追放されたわけではないのですが。勘当です。か・ん・ど・う。そこを勘違いしないでいただきたいですね。ぷんぷん。

「お嬢様、どちらも変わらないかと。ですが、そのお顔はとてもいいです! 最高です! こちらに目線をください!!」

 ミシェルは相変わらずです。
 いつの間にか「カメラ」というものを持って私を撮影しています。
 あれもミシェルの記憶にあったものです。景色や人の一瞬を切り取って残しておくことができるとか。
 すごい技術ですね。私も時々使わせていただいています。

「……そんな……どうして私が……王太子の……私が……」

 あのアルフレッド様が絶望したような顔をなさっています。
 これでおしまいですね。これ以上は話ができないかと。
 それでは最後の仕上げと行きましょうか――。










しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...