婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは

文字の大きさ
上 下
15 / 123
第一部

冒険者の街 *王太子視点あり

しおりを挟む
 やってまいりました、冒険者の街ガッフです。
 冒険者の街と言うだけあって、すれ違う人たちのほとんどは冒険者のようですね。
 そしてすれ違うたびに皆さんの視線を感じます。
 私、何か変なものでもついているのでしょうか。

「いやいや。お嬢様のような可愛い子がいたら見るに決まってます。しかし、いけませんね。私のお嬢様をあのような目で見るとは。少し成敗してきます」

「ダメよ、ミシェル。それに私ではなくティアを見ていたのだと思うわ」

『人がいっぱいいるわ! 人間てこんなにたくさんいたのね。森の中ではわからなかったことだわ』

 初めての街で少し興奮しているようです。周りの視線も感じないほど。
 なんだか危ないのでしっかりと見ておかないといけませんね。

『主。あそこの屋台の肉はうまそうだ。僕は腹が減ったぞ』

「わかりました。ここまで運んでくれたお礼です。ミシェル」

「もう買ってあります。どうぞ、お嬢様も」

「あら、さすがね。ありがとう」

 これはなんのお肉かしら。
 ミシェルが食べやすいように串から外し、お皿に盛りつけてくれたものを観察します。
 カイは気にすることなく一口で食べてしまったみたいです。

『何それ、美味しそうね。一口もらうわ』

「あ、こら。お行儀が悪いですよ。手で食べるなんてまったく……」

 ティアの指を拭いてあげます。
 タレのついた指を舐めようともしていました。はしたないですから、今度しっかりとマナーというものを教えて差し上げましょう。

「これはロックリザードの肉ですね。岩のようなごつごつした見た目のトカゲとは思えない柔らかさです。お嬢様、美味しいですよ」

「へー、それでは私も……」

 確かに美味しいですね。冒険者の方が好みそう濃厚な味付けで、それでいてお肉との相性も良いです。
 それにしても、お肉は久しぶりに食べましたね。お屋敷のお食事はパンと薄味のスープしかなかったものですから。
 それに忙しくて食事をする時間もあまり。半年ぶりくらいかしら?

「大丈夫です。これからはこういうものもいつでもお召し上がりになれます。それに私がもっと美味しいものをお作りします」

「ありがとう。でも食べすぎては太ってしまうわ。それだけは注意してね」

「もちろんですとも! お嬢様の美貌を損なうような食事は作りません! よりお嬢様が輝くように毎日三食プラス間食の栄養バランスを考えベストな食事をお約束します。具体的に言うと……」

 と、ミシェルが一人で話し始めたので少し放置しておきます。ええ、長くなるのでこういうのは触れない方がいいのです。

「ティアは何処か行きたいところはありますか?」

『そうねぇ……こうして人間の街の中に入れただけでいいのだけど、せっかくなら服とか見てみたいわ。ユミエラが着ているのとか可愛いし、あたしもおしゃれしてみたいわ』

「精霊王様もおしゃれに興味を持つのですね」

『そういうわけではないわよ。私はただユミエラと同じことがしたかっただけ……って、い、今のなし! そうじゃなくて! そ、そうよ。人間がどんな服を着ているのか参考にして、自分で作るの! あたしの服は魔力で作ってるからねっ!』

 な、なんて愛らしいのでしょうか!
 こんなお顔を真っ赤にしてあわあわしている姿はとても、とてもっ。
 思わず抱きしめてしまいました。ぎゅー。

『ちょ、ちょっとっ。何してるのよ。いきなり抱き着くなんて』

 おっと。いけません。こんな往来ですることではありませんでしたね。
 でも仕方ないのです。ティアが私と同じことがしたいだなんて可愛いことをおっしゃったのはいけないのですから。
 しかし、変に目立ってしまいました。ミシェルが吐血して倒れているので余計に。

 とりあえず場所を移しましょう。
 目的はお肉の購入ですが、せっかく街に来たのです。少しくらい楽しんでも構いませんよね。
 ということで、まずは服屋さんに向かいましょう――。



 ◇◇◇



 ~~クィンサス王国某会議室~~

「さて、集まってもらったのは他でもない。皆も話は聞いていると思うが、聖域が消えたそうだ。原因は神獣が帰還しないこと。そこで諸君らには神獣を探してもらう。どんな些細な情報でもいい。必ず我が国の神獣を取り戻すのだ」

 私がそう言うと、集まった貴族たちは渋い顔をして黙った。
 せっかくタニアと婚約をしてこれからという時にこのような事をしている場合ではないのだ。
 なんとしても早急に事態を収めなければならない。

「しかし、殿下。神獣を探すと申されましてもどこに行ったのかさえ分かりません。痕跡もないとなると不可能ではないでしょうか」

「だとしてもだ。我が国は神獣と共に繁栄してきた。神獣にとって居心地のいい国はここ以外にあるまい。故になんとしても戻ってきてもらわねばならぬ。それにこのような事が国民に知れ渡ってしまっては大変な事になるぞ」

 クィンサス王国は建国から神獣と共にある。
 故に国民は神獣がいることが当たり前のように思っている。そしてそれは長い歴史をかけ信仰のようなものになった。
 それゆえ神獣が国を離れたなどと噂にでもなれば……。

「恐れながら、殿下」

「なんだ。落ち目のアマリリス公爵。何か?」

 周りの貴族たちからくすくすと笑い声が上がる。
 あの女を追放してからというもの、アマリリス公爵家は屋敷の維持もままならなくなるほど困窮しだした。
 大方、あの女に仕事を押し付け豪遊でもしていたのだろう。私も人のことを言える立場ではないが、こ奴らよりはマシだ。

「実は娘がいなくなった日と神獣がいなくなった日が同じだということがわかったのです」

 娘がいなくなったか。自分たちで追放しておいて何を……待て。今なんと。

「もしや、あの女と神獣が共にいると言いたいのか?」

「その可能性は大きいかと」

 ふむ……。
 もしそうならやることは一つだな。

「では、諸君らには人探しをしてもらおう。ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢の捜索。見つけたものには褒美をやろう」

 そういうと皆一様にやる気を出す。
 あの女がいなくなってからまだ一週間。まだ近くにいるはずだ。
 いなくなってさえ私に迷惑をかけるとは傍迷惑な女だ。
 必ず見つけ出して報いを与えてやる。必ずだ――。










しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...