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平和な日常
12.5話
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部活対抗が終わった後、伊織と的庭が知り合いだったことを知り、「世間は狭いもんだねぇ」なんて千里は少し感心しながら呟く。それに釣られて伊織も「ほんとだねぇ」なんてへらりと笑いながら告げる。知り合った経緯はどうやら伊織の家の近くに的場が引っ越してきたのがきっかけらしい。それで、色々お世話になっていたらしい。時々勉強を見てもらっていたらしい。特に受験の時に。伊織は推薦だが、ある程度は成績ないとやばい、との事で勉強を教えて貰っていたらしい。
体育祭終了後、的庭と共に自宅へと向かう。
「……ここが、今の俺の家。……伝えんの遅くなってごめん」
「仕方が無いですよ。僕も連絡先交換していなかったですし……。だから千里ちゃんは気にしないでください」
千里の言葉を聞くと困ったように笑いながら的庭は千里に気にしなくていい、と伝える。千里は「そっか」と短く返すと、玄関の鍵を開け、中に入る。
「的場お兄ちゃ……お兄さんも入って。とりあえず……一番奥の部屋で待ってて。……話すのにちょっと的庭兄さんに迷惑かけちゃうかもだけど……ちゃんと……話す、から……」
「……千里……ちゃん?」
これから話すと思うだけでも吐き気がする。普通に話したら恐らく、この後仕事に行けなくなるのは目に見えている。
ということになれば、恐らく隠すべきところがある。それは、とある家の存在、さらには親の死因だ。ここは深く話さなければ大丈夫だが、深いところは話せなくなる。
「はぁ……、一応キツめの吐き気止め飲んでおくか……」
居間に入ると両親の仏壇が目に入る。今、もしあの時に戻れるなら両親に謝りたい。弱くて、ごめんなさい。救えなくてごめんなさい、と。
居間の引き出しに入っている如一の家に居る医療班と科学班に所属している人から貰った吐き気止めを簡単に飲むと、一息つく。その後、二人に手を合わせてから的庭が待っている居間へと向かう。
「ごめんね、待たせた?」
「大丈夫ですよ、千里ちゃん」
「ありがとう。……まず、俺のお父さんもお母さんも小3の時に交通事故で、死んじゃった」
千里が居間に現れると、キョロキョロと椅子に座りながらあたりを見渡していた。千里が申し訳無さそうにしながら待たせたか、と尋ねると、そんなことない、という旨を伝えられ、良かった……、なんて思いながらお礼を述べた。その後、何でもないかのようにけろりとへらりとした笑みを貼り付けながら告げた。正直簡単にけろりと吐けたことに自分自身驚いていた。
千里の言葉に的庭は絶句していた。何よりも、軽く言っていた千里の口調があまりにも短調で、これ以上は何も話したくない、という世を物語っていたからだ。
「それでね、今お母さんの仕事、継いでるんだ。この後も仕事なの」
「千里……ちゃん、無理しなくていいんですよ……?」
「あはは、無理なんてしてないよ。大丈夫だよ的庭兄さん。俺は平気」
千里の言葉は、拒絶そのものだった。これ以上は触れるな。そう目が語っていた。的庭がこの地を去る前にはできなかった瞳。する事が無かった瞳が向けられていた。しかし、言葉からは裏腹に、震えていた。
「……っ、ごめん!!もう仕事行かないとだから、ここからの帰り道わかるよね、積もる話もあると思うけど、また今度ね!」
「……分かりました。とりあえず、今日は帰りますね。話せる時が来たら、連絡して下さい」
的庭は無理だということがわかると、机の上に連絡先を書いた紙を置くと、「これ、連絡先です」と言って、笑った。
「ん……、ごめん。的庭兄さん……。話すって言ったのにね」
「大丈夫ですよ、誰にだって話したくないことの一つや二つ持ってます。……話せるようになったら話してください」
本当は、話して欲しかった。それで千里の肩の重荷が降りるのなら。そう思ったが、話せそうになかった。無理に話そうとしている千里を見るのが辛かった。苦しめたくは、なかった。
「……今はまだ、俺が弱くて、まだ認めたくなくて、過去に縋ってるけど、俺が強くなって、乗り越えられたら、ちゃんと説明するから……」
────だからそれまで待ってて。
首元に手を置いてガリガリと書きながら目を合わせようとせず、そう告げる。的庭はそれを見ると、一瞬悲しげに眉を下げてから、「待ってますよ」と告げる。
千里は、的庭のその一瞬を見逃さなかった。それでも、口を開くことは出来なかった。自分を今は守りたかった。倒れる訳には行かなかったからだ。それじゃいつまで経っても変われないのは分かっている。それでも、怖かった。
「ん……、じゃあ俺もお仕事だから、的庭兄さん、ここからの帰り道、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫ですよ。……千里ちゃんも、お仕事、気をつけて下さいね」
「大丈夫だよ、ありがと」
体育祭終了後、的庭と共に自宅へと向かう。
「……ここが、今の俺の家。……伝えんの遅くなってごめん」
「仕方が無いですよ。僕も連絡先交換していなかったですし……。だから千里ちゃんは気にしないでください」
千里の言葉を聞くと困ったように笑いながら的庭は千里に気にしなくていい、と伝える。千里は「そっか」と短く返すと、玄関の鍵を開け、中に入る。
「的場お兄ちゃ……お兄さんも入って。とりあえず……一番奥の部屋で待ってて。……話すのにちょっと的庭兄さんに迷惑かけちゃうかもだけど……ちゃんと……話す、から……」
「……千里……ちゃん?」
これから話すと思うだけでも吐き気がする。普通に話したら恐らく、この後仕事に行けなくなるのは目に見えている。
ということになれば、恐らく隠すべきところがある。それは、とある家の存在、さらには親の死因だ。ここは深く話さなければ大丈夫だが、深いところは話せなくなる。
「はぁ……、一応キツめの吐き気止め飲んでおくか……」
居間に入ると両親の仏壇が目に入る。今、もしあの時に戻れるなら両親に謝りたい。弱くて、ごめんなさい。救えなくてごめんなさい、と。
居間の引き出しに入っている如一の家に居る医療班と科学班に所属している人から貰った吐き気止めを簡単に飲むと、一息つく。その後、二人に手を合わせてから的庭が待っている居間へと向かう。
「ごめんね、待たせた?」
「大丈夫ですよ、千里ちゃん」
「ありがとう。……まず、俺のお父さんもお母さんも小3の時に交通事故で、死んじゃった」
千里が居間に現れると、キョロキョロと椅子に座りながらあたりを見渡していた。千里が申し訳無さそうにしながら待たせたか、と尋ねると、そんなことない、という旨を伝えられ、良かった……、なんて思いながらお礼を述べた。その後、何でもないかのようにけろりとへらりとした笑みを貼り付けながら告げた。正直簡単にけろりと吐けたことに自分自身驚いていた。
千里の言葉に的庭は絶句していた。何よりも、軽く言っていた千里の口調があまりにも短調で、これ以上は何も話したくない、という世を物語っていたからだ。
「それでね、今お母さんの仕事、継いでるんだ。この後も仕事なの」
「千里……ちゃん、無理しなくていいんですよ……?」
「あはは、無理なんてしてないよ。大丈夫だよ的庭兄さん。俺は平気」
千里の言葉は、拒絶そのものだった。これ以上は触れるな。そう目が語っていた。的庭がこの地を去る前にはできなかった瞳。する事が無かった瞳が向けられていた。しかし、言葉からは裏腹に、震えていた。
「……っ、ごめん!!もう仕事行かないとだから、ここからの帰り道わかるよね、積もる話もあると思うけど、また今度ね!」
「……分かりました。とりあえず、今日は帰りますね。話せる時が来たら、連絡して下さい」
的庭は無理だということがわかると、机の上に連絡先を書いた紙を置くと、「これ、連絡先です」と言って、笑った。
「ん……、ごめん。的庭兄さん……。話すって言ったのにね」
「大丈夫ですよ、誰にだって話したくないことの一つや二つ持ってます。……話せるようになったら話してください」
本当は、話して欲しかった。それで千里の肩の重荷が降りるのなら。そう思ったが、話せそうになかった。無理に話そうとしている千里を見るのが辛かった。苦しめたくは、なかった。
「……今はまだ、俺が弱くて、まだ認めたくなくて、過去に縋ってるけど、俺が強くなって、乗り越えられたら、ちゃんと説明するから……」
────だからそれまで待ってて。
首元に手を置いてガリガリと書きながら目を合わせようとせず、そう告げる。的庭はそれを見ると、一瞬悲しげに眉を下げてから、「待ってますよ」と告げる。
千里は、的庭のその一瞬を見逃さなかった。それでも、口を開くことは出来なかった。自分を今は守りたかった。倒れる訳には行かなかったからだ。それじゃいつまで経っても変われないのは分かっている。それでも、怖かった。
「ん……、じゃあ俺もお仕事だから、的庭兄さん、ここからの帰り道、大丈夫?」
「えぇ、大丈夫ですよ。……千里ちゃんも、お仕事、気をつけて下さいね」
「大丈夫だよ、ありがと」
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