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平和な日常
10話
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あれから一週間。千里の中での一番の怒涛の日々は駆け抜けていった。というのもこの一週間千里は体育祭の準備が終わり次第、警察庁へ通って二年前の事件の詳しい資料探しに、その資料を纏めつつ家に帰ってからは、事件についての考察、実行委員の仕事、といった具合だ。因みに二年前の事件については依然と進展もつかめず、報告書についても薄っすらとした情報しか書かれていなくて、進展という進展はしていない。
唯一分かったことと言えば、どの遺体も左腕、足腰のいずれのどれかが鋭利な刃物で切り取られている、ということと、切り取られてしまった死体は見つかっていない、ということだけだった。そんなのは事前に下調べをしていたネットでも書いてあったことなので、今更過ぎてものが言えなくなったのがつい昨日のことだ。徹夜で調べたのにも関わらず、獲得できた情報はネットと変わらないとなるとあの頃の事件の取り扱いの雑さに呆れすぎて何も言えなくなっていた。
千里は一つ溜息を吐くと一つの荷物を持ち上げる。その荷物じたいは持てない、というほどではないにせよずっしりとしていて徹夜明けである千里の体には聊かきついものがあった。普段よりも力が出ないのは確かで、ねなきゃまずいかなぁとか、そろそろ本腰入れて捜査に踏み切りたいなぁとか色々考えながら歩く。捜査が生きず待っているし、睡眠不足でかなりラいらしている千里はぶつぶつと悪態をつきながら荷物をもって少しふらふらと覚束ない足取りで校庭を突っ切ろうとしていた時のこと。
「だぁああ……、死ぬ……。この野郎重いんだよ……。マジ徹夜明けの体にはくっそきついわ……。てか、母様死んだ後の事件の報告書マジカスじゃない??何あれ事件なめてんの?しかもあの事件の時なんかもっと酷かったし。あにあの連中。トップに誰かいないと仕事もできない脳みそカスだったのかよ、特に上島とか……」
「千里ちゃん元気ないねぇ、大丈夫ぅ?顔色も悪いし……。あ、そうだその荷物、重そうだし僕持ってあげるよぉ」
「うわああ?!……て、なんだよ、縁君か~。別に持てるから気にするなし」
「もぉ、無理しなくてもいいのっ!ふらふらしてるしぃ、顔色も悪いよぉ?倒れちゃったら大変だから僕がやってあげるよぉ。貸して」
不意に楔に声をかけられ、千里は声を上げながら肩を揺らした。聞かれたら困るような話しはしてはいないし、バレたらバレたでそこまでの話しだが、この学校に通いにくくなる、ぐらいなので問題は無かった。が、しかしいきなり声をかけられたら誰だってビビる。おそるおそるといった感じで声をかけられた方へ振りかえると、心配げに眉を下げている楔が立っていた。ほっと胸をなで下ろす気持ちになりながら千里は安堵に近い声色で口を開く。
楔はどうやら荷物を持とうか?と提案をしてくれていた。こいつが普通に自分なんかのためにわざわざ手伝いを申し出ることはないだろうと考え軽くあたりを見渡すと、その予想は的中だとでも言いたげにやや前方に伊織の姿を見つけていた。あたりを見渡しながら千里が大丈夫だ、というと楔は無理をするな、と言いながら千里の荷物を反対側から持つ。千里は段ボール越しに小さな声で話しかける。
「どうせおめぇ伊織にいいとこ見せてぇだけだろこのクソサイコパスストーカー」
「ちょっと地雷おまえそれ伊織ちゃんにばらしてみろよ、ぶっ殺す。……っち……。いいから貸せって。……それにふらふらしてんのも本当だし、顔色悪いのも本当だから。何があったのかは知らねーし、興味ないからきかないけど、無理しすぎんのも俺はよくないと思うけど?仕事だとしても。実行委員と仕事両立しようとするとか馬鹿のすることだからね。……とりあえず、これ、どこ置けばいいのか分かんねえから、地雷案内頼むわ」
千里がクソサイコパスストーカー、と言うと楔も若干睨みながら半場無理矢理荷物を奪い取りながら、ぶっ殺す、というとすたすたと歩き始める。しかし流石ふわふわしているとはいえ男子だ。千里が少し重たいな、と思っていた荷物を軽々と持ち上げてさらにすたすたと歩けているのだ。しかし、千里が考えているのはそんなんじゃなかった。無理矢理荷物を奪い取られた腕を見ながらかすかに驚いていた。楔相手に、胸が高鳴ったことに。楔が思っていたよりも周りのことを見ていたことに。自分のことを気にかけてくれたことに。以外と優しかったことに。
気のせいだ、そう思いたくて頭を振る。あれはただ伊織にいいところを見せたかっただけなんだと言い聞かせてもしかし頬が先ほどのことを思い出すと暑くなってくるのが分かり、少し焦りが生まれる。――おかしい、”この感情は捨てたはずなのに、持っていたら傷つくだけなのに――”いくらそう考えても胸の高鳴りは収まらない。先に行っていた楔もいつまでたっても来ない千里にしびれを切らしたのか楔が近くまで来ると「大丈夫?顔真っ赤だけどぉ……。もしかして風邪引いちゃった?」と顔をのぞき込みながらじっと見つめる。先ほどよりも遙かに胸の高鳴り方が違った。顔に熱が集まっていくのが分かる。それをごまかすように楔から一歩離れると、
「いや!大丈夫!ちょっと暑くって。ほ、ほらそれ片付けに行くんだろ。案内するからついて来いよ!」
そう答えてから校舎に向かって歩き始める。置いて枯れた楔が後ろから「あー!待ってよ千里ちゃぁん!」と言いながら追いかけてくるのが分かる。頬が赤いのを隠すために少し歩調を速めながら、この気持ちに嫌な記憶がよみがえりそうで、ぼそりと呟く。
「まさか……なぁ?」
先ほどのどきどきもすっかり消えた頃、先ほどの荷物をしまう予定の用具室に荷物をしまい終わった。楔は中でワイルドに手についた土埃を払っている。千里は外で誰も来ないように見張っている。ある程度終わったところで千里は中に居る楔に声をかける。
「っと、ありがとな、楔」
「……は?」
「え?」
「あ、いや、お前、前まで縁とか嫌がらせで縁君とか言ってたじゃねえか……。それが何で楔呼び?」
「あー、いや。何となく……」
千里がお礼を告げると、楔は目を見開きながら驚いていた。何のことで驚いているのかと思えば、名前の呼び方だったらしく、今までは縁呼びだったくせに、というと千里は誤魔化すように「なんとなく」と告げた後にふい、と目をそらすのだった。他の人に聞けば分かることなのだが、千里は普段から友達や、大切だ、と言うくくりになると、名前の呼び方を変える。しかしそれを告げるのが恥ずかしかったから千里はごまかした。後は勢いだった、と言うのもある。あともう一つあるがこれには気がつきたくない気持ちだし、捨てたはずの感情だった。室内にはなんとも言いがたい気まずい空気が流れており、逃げ出したいとかそういうことを考えていたが、その時都合よく姉妹校との会議の時間を知らせる放送が校内に響く。
「ほら、次姉妹校との連絡会議だろ?行くぞ」
千里はその思いに気が付きたくない、わかりたくない、ふたをしていたい。捨てたままの方が辛くない、悲しくない――、そういう考えが頭の中でぐるぐると回る。しかし、もう遅かった。千里は取り戻してしまっていた。友達としての好きではない好き、と言う感情を。その感情を振り払いたくて走り出す。
「なんだ?あいつ」
そんなことを知りもしない一人残された楔はいきなり走り出した千里のことを不審そうに見つめ首をひねった。悩みながら用具室に鍵をかけてから一人のんびりとした足取りで、会議室へと向かうのだった。
千里が一足先に教室に入ると、近くで見覚えのある顔が二つが伊織と話していた。千里は呼吸を整えてから伊織の元へ向かう。
「いーおり。誰と話して……ん……の……」
近くまで来ると誰かがすぐに分かった。あいつらだった。如一とは犬猿の仲である天城光と陽だった。
「あ、千里さん。こんにちわ。……ほら、ぴかも挨拶」
「分かってるっての。こんにちわー、千里さん。相変わらずちっさいねー」
「陽と光じゃん。あ、ちわっす。久しぶりだなぁ。最後にあったのってサイドの髪の事件以来だよな?ちっさいは余計なお世話だよ」
房日差にあった二人に対し、千里は近くの席から椅子を引っ張ってくると、そのちかくにすわる。
「つーかお前らって知り合いだったの?なんか意外……」
「もー千里忘れたの?僕には姉妹校に双子の幼馴染みが居るよってこの間教えたじゃん」
「あー、それがこの二人だったのか」
千里は如一の付き合いで天城sとも顔見知りだった。しかし、肝心の 陽、光、如一はとことん仲が悪い。顔を合わせれば如一は吐血をするし、喧嘩が始まる。それを止めるととばっちりが来るのでいつもほっておいているが、正直言って面倒くさい。
「あれれぇ~?千里ちゃんも伊織ちゃんも誰と話しているの~?」
「あ、楔。うんとねー僕の幼馴染み~。楔は初めましてだっけ?」
「あ、うん。そぉだよ」
「ひーく……じゃなかった。天城陽君とひーちゃ……天城光ちゃん。昔僕の家で稽古してたんだ~」
「へ、へ~。あ、僕縁楔っていいますぅ~。光ちゃんかあいいね~?」
「はぁ……」
いつの間にか楔が後ろに立っていて声をかけてきた。いつの間にか後ろに立たれていた千里はびっくりして会話に混ざることができなくなる。暫くどうしようかと悩んだあとにその三人から離れることを決め、椅子を元に戻し、窓際まで移動すると、ぼんやりと外を眺める。
「おい、地雷」
「ん……?楔じゃん。お前、伊織の所居なくていいの?」
「伊織ちゃんが"僕この二人と話したいから、楔千里と話してきてよ。なんか離れて居ちゃったし……。気分悪くしちゃったのかもしれないし”って言ってたから来てみただけ」
「あ~、俺なら大丈夫だけど、お前の方が機嫌悪そうだな?」
楔に声をかけられ、千里は視線を楔に向けると口を開く。楔は千里の問いに対して少しむすりとしながら答える。むすりとはしてても答えてくれるだけでも嬉しく思えた。
しかし、それ以来会話か途切れる。何か会話がないものかと考え込むが、特に何も浮かばない。千里は自分のコミュニケーション能力の低さに改めてショックを受けながらも、伊織をじっと見つめたまま、動かない彼に声をかける。
「あの……さ、そんなに気にする事ねぇって。お前らだって幼馴染みだし、それに……。お前は同じ学校で同じクラスメイトで、仲良しじゃん。
だからそんなに気にすんなって。それにさっき聞いたけど、陽は救護じゃなくてなんか荷物出し入れするやつだって言ってたから、係りも別々だろ?心配しなくても平気だよ」
「……。うん」
「……!?ほ、ほら、縁楔がそんな伊織に対して弱気でどーするんだって」
千里の言葉に一度的を疲れたかのように驚いた後に優しげな顔で笑いながら頷いた。その顔に熱が集まるのが分かる。それをごまかしたくて、へらへらと笑いながら励ましに乗っかる。
「おう。なぁ、地雷」
「ん?」
「ありがとうね?俺が伊織ちゃんのこと気にしてたの気がついてくれて」
「べっつにー。楔らしくねぇなって思ったからさ。それにだってずっと 伊織のこと見つめてるし、心ここにあらずって感じ」
お礼を告げられると、顔を逸らしながら千里は口を開く。「なんだよ、それ」という楔の押さえながらも少しむっとした声が聞こえる。振り返って「わりぃわりぃ」と告げた。
唯一分かったことと言えば、どの遺体も左腕、足腰のいずれのどれかが鋭利な刃物で切り取られている、ということと、切り取られてしまった死体は見つかっていない、ということだけだった。そんなのは事前に下調べをしていたネットでも書いてあったことなので、今更過ぎてものが言えなくなったのがつい昨日のことだ。徹夜で調べたのにも関わらず、獲得できた情報はネットと変わらないとなるとあの頃の事件の取り扱いの雑さに呆れすぎて何も言えなくなっていた。
千里は一つ溜息を吐くと一つの荷物を持ち上げる。その荷物じたいは持てない、というほどではないにせよずっしりとしていて徹夜明けである千里の体には聊かきついものがあった。普段よりも力が出ないのは確かで、ねなきゃまずいかなぁとか、そろそろ本腰入れて捜査に踏み切りたいなぁとか色々考えながら歩く。捜査が生きず待っているし、睡眠不足でかなりラいらしている千里はぶつぶつと悪態をつきながら荷物をもって少しふらふらと覚束ない足取りで校庭を突っ切ろうとしていた時のこと。
「だぁああ……、死ぬ……。この野郎重いんだよ……。マジ徹夜明けの体にはくっそきついわ……。てか、母様死んだ後の事件の報告書マジカスじゃない??何あれ事件なめてんの?しかもあの事件の時なんかもっと酷かったし。あにあの連中。トップに誰かいないと仕事もできない脳みそカスだったのかよ、特に上島とか……」
「千里ちゃん元気ないねぇ、大丈夫ぅ?顔色も悪いし……。あ、そうだその荷物、重そうだし僕持ってあげるよぉ」
「うわああ?!……て、なんだよ、縁君か~。別に持てるから気にするなし」
「もぉ、無理しなくてもいいのっ!ふらふらしてるしぃ、顔色も悪いよぉ?倒れちゃったら大変だから僕がやってあげるよぉ。貸して」
不意に楔に声をかけられ、千里は声を上げながら肩を揺らした。聞かれたら困るような話しはしてはいないし、バレたらバレたでそこまでの話しだが、この学校に通いにくくなる、ぐらいなので問題は無かった。が、しかしいきなり声をかけられたら誰だってビビる。おそるおそるといった感じで声をかけられた方へ振りかえると、心配げに眉を下げている楔が立っていた。ほっと胸をなで下ろす気持ちになりながら千里は安堵に近い声色で口を開く。
楔はどうやら荷物を持とうか?と提案をしてくれていた。こいつが普通に自分なんかのためにわざわざ手伝いを申し出ることはないだろうと考え軽くあたりを見渡すと、その予想は的中だとでも言いたげにやや前方に伊織の姿を見つけていた。あたりを見渡しながら千里が大丈夫だ、というと楔は無理をするな、と言いながら千里の荷物を反対側から持つ。千里は段ボール越しに小さな声で話しかける。
「どうせおめぇ伊織にいいとこ見せてぇだけだろこのクソサイコパスストーカー」
「ちょっと地雷おまえそれ伊織ちゃんにばらしてみろよ、ぶっ殺す。……っち……。いいから貸せって。……それにふらふらしてんのも本当だし、顔色悪いのも本当だから。何があったのかは知らねーし、興味ないからきかないけど、無理しすぎんのも俺はよくないと思うけど?仕事だとしても。実行委員と仕事両立しようとするとか馬鹿のすることだからね。……とりあえず、これ、どこ置けばいいのか分かんねえから、地雷案内頼むわ」
千里がクソサイコパスストーカー、と言うと楔も若干睨みながら半場無理矢理荷物を奪い取りながら、ぶっ殺す、というとすたすたと歩き始める。しかし流石ふわふわしているとはいえ男子だ。千里が少し重たいな、と思っていた荷物を軽々と持ち上げてさらにすたすたと歩けているのだ。しかし、千里が考えているのはそんなんじゃなかった。無理矢理荷物を奪い取られた腕を見ながらかすかに驚いていた。楔相手に、胸が高鳴ったことに。楔が思っていたよりも周りのことを見ていたことに。自分のことを気にかけてくれたことに。以外と優しかったことに。
気のせいだ、そう思いたくて頭を振る。あれはただ伊織にいいところを見せたかっただけなんだと言い聞かせてもしかし頬が先ほどのことを思い出すと暑くなってくるのが分かり、少し焦りが生まれる。――おかしい、”この感情は捨てたはずなのに、持っていたら傷つくだけなのに――”いくらそう考えても胸の高鳴りは収まらない。先に行っていた楔もいつまでたっても来ない千里にしびれを切らしたのか楔が近くまで来ると「大丈夫?顔真っ赤だけどぉ……。もしかして風邪引いちゃった?」と顔をのぞき込みながらじっと見つめる。先ほどよりも遙かに胸の高鳴り方が違った。顔に熱が集まっていくのが分かる。それをごまかすように楔から一歩離れると、
「いや!大丈夫!ちょっと暑くって。ほ、ほらそれ片付けに行くんだろ。案内するからついて来いよ!」
そう答えてから校舎に向かって歩き始める。置いて枯れた楔が後ろから「あー!待ってよ千里ちゃぁん!」と言いながら追いかけてくるのが分かる。頬が赤いのを隠すために少し歩調を速めながら、この気持ちに嫌な記憶がよみがえりそうで、ぼそりと呟く。
「まさか……なぁ?」
先ほどのどきどきもすっかり消えた頃、先ほどの荷物をしまう予定の用具室に荷物をしまい終わった。楔は中でワイルドに手についた土埃を払っている。千里は外で誰も来ないように見張っている。ある程度終わったところで千里は中に居る楔に声をかける。
「っと、ありがとな、楔」
「……は?」
「え?」
「あ、いや、お前、前まで縁とか嫌がらせで縁君とか言ってたじゃねえか……。それが何で楔呼び?」
「あー、いや。何となく……」
千里がお礼を告げると、楔は目を見開きながら驚いていた。何のことで驚いているのかと思えば、名前の呼び方だったらしく、今までは縁呼びだったくせに、というと千里は誤魔化すように「なんとなく」と告げた後にふい、と目をそらすのだった。他の人に聞けば分かることなのだが、千里は普段から友達や、大切だ、と言うくくりになると、名前の呼び方を変える。しかしそれを告げるのが恥ずかしかったから千里はごまかした。後は勢いだった、と言うのもある。あともう一つあるがこれには気がつきたくない気持ちだし、捨てたはずの感情だった。室内にはなんとも言いがたい気まずい空気が流れており、逃げ出したいとかそういうことを考えていたが、その時都合よく姉妹校との会議の時間を知らせる放送が校内に響く。
「ほら、次姉妹校との連絡会議だろ?行くぞ」
千里はその思いに気が付きたくない、わかりたくない、ふたをしていたい。捨てたままの方が辛くない、悲しくない――、そういう考えが頭の中でぐるぐると回る。しかし、もう遅かった。千里は取り戻してしまっていた。友達としての好きではない好き、と言う感情を。その感情を振り払いたくて走り出す。
「なんだ?あいつ」
そんなことを知りもしない一人残された楔はいきなり走り出した千里のことを不審そうに見つめ首をひねった。悩みながら用具室に鍵をかけてから一人のんびりとした足取りで、会議室へと向かうのだった。
千里が一足先に教室に入ると、近くで見覚えのある顔が二つが伊織と話していた。千里は呼吸を整えてから伊織の元へ向かう。
「いーおり。誰と話して……ん……の……」
近くまで来ると誰かがすぐに分かった。あいつらだった。如一とは犬猿の仲である天城光と陽だった。
「あ、千里さん。こんにちわ。……ほら、ぴかも挨拶」
「分かってるっての。こんにちわー、千里さん。相変わらずちっさいねー」
「陽と光じゃん。あ、ちわっす。久しぶりだなぁ。最後にあったのってサイドの髪の事件以来だよな?ちっさいは余計なお世話だよ」
房日差にあった二人に対し、千里は近くの席から椅子を引っ張ってくると、そのちかくにすわる。
「つーかお前らって知り合いだったの?なんか意外……」
「もー千里忘れたの?僕には姉妹校に双子の幼馴染みが居るよってこの間教えたじゃん」
「あー、それがこの二人だったのか」
千里は如一の付き合いで天城sとも顔見知りだった。しかし、肝心の 陽、光、如一はとことん仲が悪い。顔を合わせれば如一は吐血をするし、喧嘩が始まる。それを止めるととばっちりが来るのでいつもほっておいているが、正直言って面倒くさい。
「あれれぇ~?千里ちゃんも伊織ちゃんも誰と話しているの~?」
「あ、楔。うんとねー僕の幼馴染み~。楔は初めましてだっけ?」
「あ、うん。そぉだよ」
「ひーく……じゃなかった。天城陽君とひーちゃ……天城光ちゃん。昔僕の家で稽古してたんだ~」
「へ、へ~。あ、僕縁楔っていいますぅ~。光ちゃんかあいいね~?」
「はぁ……」
いつの間にか楔が後ろに立っていて声をかけてきた。いつの間にか後ろに立たれていた千里はびっくりして会話に混ざることができなくなる。暫くどうしようかと悩んだあとにその三人から離れることを決め、椅子を元に戻し、窓際まで移動すると、ぼんやりと外を眺める。
「おい、地雷」
「ん……?楔じゃん。お前、伊織の所居なくていいの?」
「伊織ちゃんが"僕この二人と話したいから、楔千里と話してきてよ。なんか離れて居ちゃったし……。気分悪くしちゃったのかもしれないし”って言ってたから来てみただけ」
「あ~、俺なら大丈夫だけど、お前の方が機嫌悪そうだな?」
楔に声をかけられ、千里は視線を楔に向けると口を開く。楔は千里の問いに対して少しむすりとしながら答える。むすりとはしてても答えてくれるだけでも嬉しく思えた。
しかし、それ以来会話か途切れる。何か会話がないものかと考え込むが、特に何も浮かばない。千里は自分のコミュニケーション能力の低さに改めてショックを受けながらも、伊織をじっと見つめたまま、動かない彼に声をかける。
「あの……さ、そんなに気にする事ねぇって。お前らだって幼馴染みだし、それに……。お前は同じ学校で同じクラスメイトで、仲良しじゃん。
だからそんなに気にすんなって。それにさっき聞いたけど、陽は救護じゃなくてなんか荷物出し入れするやつだって言ってたから、係りも別々だろ?心配しなくても平気だよ」
「……。うん」
「……!?ほ、ほら、縁楔がそんな伊織に対して弱気でどーするんだって」
千里の言葉に一度的を疲れたかのように驚いた後に優しげな顔で笑いながら頷いた。その顔に熱が集まるのが分かる。それをごまかしたくて、へらへらと笑いながら励ましに乗っかる。
「おう。なぁ、地雷」
「ん?」
「ありがとうね?俺が伊織ちゃんのこと気にしてたの気がついてくれて」
「べっつにー。楔らしくねぇなって思ったからさ。それにだってずっと 伊織のこと見つめてるし、心ここにあらずって感じ」
お礼を告げられると、顔を逸らしながら千里は口を開く。「なんだよ、それ」という楔の押さえながらも少しむっとした声が聞こえる。振り返って「わりぃわりぃ」と告げた。
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