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トレント×魔王様
番外編:コスチュームをお披露目《後半》
しおりを挟むトトト…、と三歩下がってワイアットと距離を取ったフィリベルトは、指をパチンと鳴らした。
ワイアットの部屋に来る前に、自室のテーブルで紙に描いたコスチュームを脳裏に描く。魔法は想像力が大事なのだ。
それは、魔王の力で顕現しているコスチュームも一緒である。
フィリベルトが指を鳴らせば、着ているいつものコスチュームが黒い靄に変わった。ピッタリと肌にフィットした布もマントもブーツも消えて裸の状態だが、黒い靄に覆われて完全には見えない。
もう一度パチンと指を鳴らせば、黒い靄がパッとコスチュームに変化した。今度は先ほどまで着ていたデザインのものではなく、紙に描いて考えたデザインのものだ。
黒い色は相変わらずで、ブーツも高いヒールは変わらない。スラックスもピッタリと肌にフィットしている。変わったのは上半身だ。
腹部の淫紋はダイヤ型にカットされた布のせいで隠れていないのは変わらないのだが、ふっくらと盛りあがった両胸の中心が腹部と同じように乳首を中心にダイヤ型にカットされている。
ただ乳首をそのまま露出するのではなく、乳首が半分隠れるほどの黒のレースがついていた。風が吹くと乳首が丸見えになるくらいの気休め程度のレースだが。
レースが胸元だけだとバランスが悪かろうと、マントの裾と、襟元と袖口にもたっぷりとしたレースをあしらったのはフィリベルトのアイデアだ。たっぷりとしたレースだと俺も高貴な貴族に見えるんじゃないかというちょっとした下心だ。
「新しい衣装のデザインを考えてみたんだが、ど」
「ダメです」
踵のヒールをカツンと鳴らして腰に手をあて、ドヤァとポーズを決めたのだが、どうだ?と聞く前にワイアットからズバッと却下の声が上がった。
「なんで!!すごいいい考えじゃん!画期的と思わない!?」
「思いません!なぜ乳首丸出しがいいと思ったんです!?」
「これなら乳首責められた後も痛くない擦れない快適じゃん」
「貴方の言い分はわかりましたが、ダメなものはダメです!それに乳首全く隠れてないじゃないですか!風が吹いたら乳首丸出しになるような服は服ではありません」
「長年淫紋丸出しの服着てたことに対してはなんにも言わなかった癖に…」
「腹部の淫紋は、私たち魔物の王としてのシンボルですから、出してても問題ありません」
「じゃあ乳首も問題な、」
「問題あります。風邪引いたらどうするんですか」
「普段から腹出し着てる俺が乳首出したくらいで風邪ひかないっての…」
却下却下却下とズバズバずるワイアットが、ソファに掛けてあったカーディガンを取ってフィリベルトに羽織らせる。
「いいですか、フィリ様。淫紋は貴方が魔王たる証なので見えててもいいんです。私も長年貴方が腹部丸出しにしてても、何も言いませんでした」
カーディガンのボタンを全部とめて徹底して乳首丸出しの服を隠したワイアットは、語りかけるように話始めた。フィリベルトは少し背の高いワイアットを見上げる。真剣な表情だったので、フィリベルトも背中を伸ばす。
「でも乳首はダメです。安売りするものじゃありません」
「でもぉ…」
「でもじゃありません」
「いい考えだと思ったのになー…」
いい考えだと思ってデザインした自信作のコスチューム、ワイアットも手放しで褒めてくれるだろうと意気揚々と部屋を訪れたのに、頭ごなしにダメだと言われて正直ショックだった。
しゅん、と項垂れたフィリベルトの姿を正面から見てしまったワイアットは、ウッと声を詰まらせた。
目に入れても痛くないほど可愛いと思っている主が提案したコスチューム。勿論ワイアットだって一緒に喜んでやりたい気持ちはある。が、提案したのは乳首丸出しの衣装である。
ワイアットにとってもフィリベルトは、尊敬する主であり、魔王になったときから見守ってきた可愛い主である。そんな可愛い主が不埒な格好をしたいと言い出したのだ、止めるしかない。確かにエッチな格好は魔王としてモンスタークリエイトする場においては大事な事なのかもしれない。雄の劣情を煽り、子種を摂取して卵を孕み、魔物の種を存続させるのは、魔王としての仕事の一環。
だからといって、常日頃から不用意にその辺の雄を興奮させるような格好をしたら、ぷりんぷりんの可愛い乳首がスケベな視線を不躾に浴びてしまう。そんな事、フィリベルト過激派のワイアットには譲歩できないお願いだ。
ワイアットは同担歓迎ではあるが、フィリベルトのエッチで高貴な乳首は決して見せびらかしていいものではないのだ。
けれど、それで尊敬している可愛い主をへこませるほど、ワイアットは冷徹にはなれなかった。
ワイアットは深すぎる溜息を吐いたあと、観念したように呟いた。
「……分かりました、私の負けです。モンスタークリエイトの時だけの衣装としてなら許可します」
しゅんとしょげていたフィリベルトがその言葉を聞いてパッと表情を明るくした。日ごろから着る許可は出なかったものの、全否定されたわけではない返答に、フィリベルトが目の前のワイアットに飛びついた。
嬉しくて黒い翼がカーディガンを捲ってバサァと顕現される。
「やったー!ありがとう、ワイアット!!」
へへ、と嬉しそうに笑って飛びついたフィリベルトをワイアットは片手で抱っこして受けとめた。筋肉質なワイアットにとってはフィリベルトの体重など易々と受けとめれるほど軽い。
フィリベルトが嬉しさに翼をバサバサさせてソファに置いていた書類が風で巻きあがる。
風で散らばった書類を、窓から伸びてきたカーテンが一枚一枚キャッチして捕まえる。静かに成り行きを見守っていた魔王城が、慌てて書類を纏めている。
「…これからも私は貴方には敵わない気がします、フィリ様」
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