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トレント×魔王様
番外編:コスチュームをお披露目《前半》
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夜空に月が輝く時間、フィリベルトは寝室に籠り、テーブルに向かってカリカリとペンを動かしていた。紙に書いていたのは文字ではなく人の絵だ。それもかなり綿密に、あーでもあいこーでもないとボソボソと言いながら。
魔王城が良かれと思って準備した紅茶とクッキーには全く手を伸ばす事なく、ひたすらにカリカリカリ。
ベッドにはアルが横たわっていて、眠たそうな顔でフィリベルトの背中を見つめている。時々カクンと頭が落ちてスピスピと寝息を立たせ、少ししてからハッと目を冷ます、という動作を繰り返していた。
フィリベルトから「眠かったら寝ていいからね」と言われているのに、フィリベルトがまだ寝ないからなのかアルは起きて律儀に待っている。
そのフィリベルトはというと、テーブルの上の紙にペンを走らせ、時々紙を斜めにしたりしながら描きこんでいく。
小一時間ほどサササッとペンを動かしていた手が、ようやくピタリと止まった。
「…できた!」
描きこみを終えた紙を掲げて満面の笑みを浮かべたフィリベルトは、魔王城が準備してくれていた紅茶をぐいっと一気飲みした。
時間が経って冷めてしまったその紅茶は、集中して乾いた喉には丁度いい温度だった。
クッキーをひとつ口に放り込んでから、フィリベルトは席を立った。
「早速ワイアットに見せてこよーっと!」
寝室の窓を開け放ってぴょんと外へと飛び出したフィリベルトの背後には、眠気には勝てなかったアルがベッドの中でスピスピと寝息を立てていた。
♢♢♢♢♢
魔王城にはワイアットのプライベートルームがある。
ワイアットの執務室や図書室や資料室に近いこの場所に部屋を構えているのは、ワイアットが仕事依存の悪魔だからだ。眠る前、朝起きた時、読書中、ティータイム中、いつ何時でも仕事の事を考え、調べ物が出来る環境がいいとワイアット自ら望んだ場所だ。社畜も吃驚な仕事脳である。
しかも、ここは魔王様の部屋の真下に位置する場所。窓を開けて飛んでいけば、直ぐに魔王様に会えるという移動にも便利な場所なのだ。
フィリベルトが魔王になって100年、その間この部屋に不満など何一つ湧いたことはない。
「フィリ様と休暇を過ごすのはとても良いのですが、二日空けるとやはり仕事が溜まってしまっていけませんね」
シャワー上りのワイアットはソファに腰掛け、サイドテーブルに飲みかけのワインを置いたまま、二日で溜まった仕事の書類を眺めていた。いつもは纏めてオールバックにしている白髪も、今は下ろしている。
大人5人は座れそうなほど大きなソファの端で、優雅に組んだ膝の上に書類の束を置く。
ワイアットの元にやってくる書類は全て魔王城が先に検分してくれている。
重要な書類を優先度の高いものから分け、魔界の各領地から上がってくる内容は見やすく纏められている。
数字等の経理関係は魔王城が全て担当してくれているので、最終チェックだけワイアットかフィリベルトがすればいいだけだ。ワイアットは魔王に仕えて長く、フィリベルトも魔王になって100年。仕事で数字に触れていれば自然と難しい計算も得意になっていくので、最終チェックもそう大変なことではない。
魔界の常識でも、本来は休暇は休暇として取ることが望ましいとされているので、グレートレンネル山地から帰ってきたばかりのワイアットは仕事をしなくてもいいのだが、こればっかりは本人の性分なので仕方ない。
コンコン。
明日行うべき仕事の優先順を脳内で組み立てながらワインを三分の一ほど飲み干した頃、窓をノックする音が聞こえた。
パッと顔を上げれば、黒い翼を生やしたフィリベルトが窓の向こうに浮いていた。フィリベルトがワイアットの部屋に、廊下や階段を使わずに飛んでくるのはいつもの事だった。
「申し訳ありません、フィリ様。気が付きませんでした。さ、どうぞ」
気配に敏感なワイアットも、のんびりとした休暇の余韻と考える事に集中していて、窓をノックされるまで気配に気付かなかった。足早に窓に近寄って窓を開け、フィリベルトが入って来れるように身体をずらした。
パッと大きな翼を消して、フィリベルトが窓枠に足をかけて部屋の中へと入る。
「ごめんね、夜に。もう寝るところだった?」
「いいえ、まだでしたのでお気になさらず」
「………お前もしかして仕事してたの?」
「はい」
「そんないい笑顔ではいって言わない!今日旅行先から帰ってきたばっかりなのに、もう仕事?休みの日くらいちゃんと休まないと、いざって時の仕事効率落っちゃうぞ」
「大丈夫ですよ。私が何年この生活を続けていると思っているんですか」
「…筋金入りだ」
青い目を細めて微笑んだワイアットに、フィリベルトがげんなりする。お休みの日も常に仕事に従事しようとするワイアットには身体や頭を休めてほしいと思うが、ここまでくると仕事が趣味かと思ってしまうほどだ。なので最近はフィリベルトも休め休めと煩く言うことはない。諦めているともいう。
「ところで、何か用事があって私の部屋に来たのでは?」
「あ、そうだった!」
ソファに置かれた書類の束に気を取られてうっかりしていたが、フィリベルトがワイアットの部屋にやってきた目的を思い出した。
「あのさ、俺いいこと思いついちゃって」
「いいこと?」
「昨日俺の腫れてた乳首、ワイアットが丁寧に軟膏塗ってくれたから早く落ち着いたじゃん」
「ええ、まあ、そうですね。貴方の腫れあがった乳首を私自ら念入りにケアしましたから」
昨夜プールで勝負した後に部屋で乳首をケアしてもらった話をフィリベルトが始めると、ワイアットが何かを噛み締めるような顔をした。
プールから上がった後、ワイアットが軟膏を丁寧にフィリベルトの乳首に塗ってくれて、朝起きた時にはすっかり元通りの乳首に戻っていてホッとしたのだが、夜寝る時の事を思い出してフィリベルトは顔を顰めた。
「乳首弄られたばっかりでホテルに帰って来るときは仕方ないかなって思ったんだけど、寝るときに着てた服にも乳首が擦れてヒリヒリして大変だったじゃん、俺」
「確かに、乳首の腫れが引くまでは痛そうでしたね、腫れて敏感にもなっていましたし」
トレントとのモンスタークリエイトを終えた後は、まだ時間も経ってなかったので、魔王のコスチュームに乳首が擦れて痛いのは仕方ないと思っていた。
けれどホテルで寝るとき、ワイアットもいるので裸で寝るのはどうかなと思いTシャツを着ていたのだが、寝返りを打つたびに乳首が擦れてジンジンしたのだ。
乳首責めは好きだが痛いのは好きじゃないフィリベルトは、ワイアットに許可をもらって、裸で寝させてもらった。魔王城以外ではちゃんと服を着て寝ることにしているフィリベルトだが、今回ばかりは裸族という救済措置を取らせてもらった。
隣のベッドで素数を数えるワイアットは気になったけれど、快適な睡眠が取れたし、軟膏のおかげか朝には元通りの乳首に戻っていた。
「だから俺考えたんだ。乳首責めは好き。でも、プレイ後の敏感になった乳首が擦れて痛いのはいや……」
「何やらとてもしょうもなさそうな予感しかしませんが、続きをどうぞ」
「一生懸命考えたんだから、しょうもないって言うなよ!画期的なんだから!…ゴホン。でね、俺はいいことを思いついたんだ。だったら、乳首が擦れないようにしたらいいんじゃないかって」
魔王城が良かれと思って準備した紅茶とクッキーには全く手を伸ばす事なく、ひたすらにカリカリカリ。
ベッドにはアルが横たわっていて、眠たそうな顔でフィリベルトの背中を見つめている。時々カクンと頭が落ちてスピスピと寝息を立たせ、少ししてからハッと目を冷ます、という動作を繰り返していた。
フィリベルトから「眠かったら寝ていいからね」と言われているのに、フィリベルトがまだ寝ないからなのかアルは起きて律儀に待っている。
そのフィリベルトはというと、テーブルの上の紙にペンを走らせ、時々紙を斜めにしたりしながら描きこんでいく。
小一時間ほどサササッとペンを動かしていた手が、ようやくピタリと止まった。
「…できた!」
描きこみを終えた紙を掲げて満面の笑みを浮かべたフィリベルトは、魔王城が準備してくれていた紅茶をぐいっと一気飲みした。
時間が経って冷めてしまったその紅茶は、集中して乾いた喉には丁度いい温度だった。
クッキーをひとつ口に放り込んでから、フィリベルトは席を立った。
「早速ワイアットに見せてこよーっと!」
寝室の窓を開け放ってぴょんと外へと飛び出したフィリベルトの背後には、眠気には勝てなかったアルがベッドの中でスピスピと寝息を立てていた。
♢♢♢♢♢
魔王城にはワイアットのプライベートルームがある。
ワイアットの執務室や図書室や資料室に近いこの場所に部屋を構えているのは、ワイアットが仕事依存の悪魔だからだ。眠る前、朝起きた時、読書中、ティータイム中、いつ何時でも仕事の事を考え、調べ物が出来る環境がいいとワイアット自ら望んだ場所だ。社畜も吃驚な仕事脳である。
しかも、ここは魔王様の部屋の真下に位置する場所。窓を開けて飛んでいけば、直ぐに魔王様に会えるという移動にも便利な場所なのだ。
フィリベルトが魔王になって100年、その間この部屋に不満など何一つ湧いたことはない。
「フィリ様と休暇を過ごすのはとても良いのですが、二日空けるとやはり仕事が溜まってしまっていけませんね」
シャワー上りのワイアットはソファに腰掛け、サイドテーブルに飲みかけのワインを置いたまま、二日で溜まった仕事の書類を眺めていた。いつもは纏めてオールバックにしている白髪も、今は下ろしている。
大人5人は座れそうなほど大きなソファの端で、優雅に組んだ膝の上に書類の束を置く。
ワイアットの元にやってくる書類は全て魔王城が先に検分してくれている。
重要な書類を優先度の高いものから分け、魔界の各領地から上がってくる内容は見やすく纏められている。
数字等の経理関係は魔王城が全て担当してくれているので、最終チェックだけワイアットかフィリベルトがすればいいだけだ。ワイアットは魔王に仕えて長く、フィリベルトも魔王になって100年。仕事で数字に触れていれば自然と難しい計算も得意になっていくので、最終チェックもそう大変なことではない。
魔界の常識でも、本来は休暇は休暇として取ることが望ましいとされているので、グレートレンネル山地から帰ってきたばかりのワイアットは仕事をしなくてもいいのだが、こればっかりは本人の性分なので仕方ない。
コンコン。
明日行うべき仕事の優先順を脳内で組み立てながらワインを三分の一ほど飲み干した頃、窓をノックする音が聞こえた。
パッと顔を上げれば、黒い翼を生やしたフィリベルトが窓の向こうに浮いていた。フィリベルトがワイアットの部屋に、廊下や階段を使わずに飛んでくるのはいつもの事だった。
「申し訳ありません、フィリ様。気が付きませんでした。さ、どうぞ」
気配に敏感なワイアットも、のんびりとした休暇の余韻と考える事に集中していて、窓をノックされるまで気配に気付かなかった。足早に窓に近寄って窓を開け、フィリベルトが入って来れるように身体をずらした。
パッと大きな翼を消して、フィリベルトが窓枠に足をかけて部屋の中へと入る。
「ごめんね、夜に。もう寝るところだった?」
「いいえ、まだでしたのでお気になさらず」
「………お前もしかして仕事してたの?」
「はい」
「そんないい笑顔ではいって言わない!今日旅行先から帰ってきたばっかりなのに、もう仕事?休みの日くらいちゃんと休まないと、いざって時の仕事効率落っちゃうぞ」
「大丈夫ですよ。私が何年この生活を続けていると思っているんですか」
「…筋金入りだ」
青い目を細めて微笑んだワイアットに、フィリベルトがげんなりする。お休みの日も常に仕事に従事しようとするワイアットには身体や頭を休めてほしいと思うが、ここまでくると仕事が趣味かと思ってしまうほどだ。なので最近はフィリベルトも休め休めと煩く言うことはない。諦めているともいう。
「ところで、何か用事があって私の部屋に来たのでは?」
「あ、そうだった!」
ソファに置かれた書類の束に気を取られてうっかりしていたが、フィリベルトがワイアットの部屋にやってきた目的を思い出した。
「あのさ、俺いいこと思いついちゃって」
「いいこと?」
「昨日俺の腫れてた乳首、ワイアットが丁寧に軟膏塗ってくれたから早く落ち着いたじゃん」
「ええ、まあ、そうですね。貴方の腫れあがった乳首を私自ら念入りにケアしましたから」
昨夜プールで勝負した後に部屋で乳首をケアしてもらった話をフィリベルトが始めると、ワイアットが何かを噛み締めるような顔をした。
プールから上がった後、ワイアットが軟膏を丁寧にフィリベルトの乳首に塗ってくれて、朝起きた時にはすっかり元通りの乳首に戻っていてホッとしたのだが、夜寝る時の事を思い出してフィリベルトは顔を顰めた。
「乳首弄られたばっかりでホテルに帰って来るときは仕方ないかなって思ったんだけど、寝るときに着てた服にも乳首が擦れてヒリヒリして大変だったじゃん、俺」
「確かに、乳首の腫れが引くまでは痛そうでしたね、腫れて敏感にもなっていましたし」
トレントとのモンスタークリエイトを終えた後は、まだ時間も経ってなかったので、魔王のコスチュームに乳首が擦れて痛いのは仕方ないと思っていた。
けれどホテルで寝るとき、ワイアットもいるので裸で寝るのはどうかなと思いTシャツを着ていたのだが、寝返りを打つたびに乳首が擦れてジンジンしたのだ。
乳首責めは好きだが痛いのは好きじゃないフィリベルトは、ワイアットに許可をもらって、裸で寝させてもらった。魔王城以外ではちゃんと服を着て寝ることにしているフィリベルトだが、今回ばかりは裸族という救済措置を取らせてもらった。
隣のベッドで素数を数えるワイアットは気になったけれど、快適な睡眠が取れたし、軟膏のおかげか朝には元通りの乳首に戻っていた。
「だから俺考えたんだ。乳首責めは好き。でも、プレイ後の敏感になった乳首が擦れて痛いのはいや……」
「何やらとてもしょうもなさそうな予感しかしませんが、続きをどうぞ」
「一生懸命考えたんだから、しょうもないって言うなよ!画期的なんだから!…ゴホン。でね、俺はいいことを思いついたんだ。だったら、乳首が擦れないようにしたらいいんじゃないかって」
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