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トレント×魔王様

10.プールを満喫

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「あ゛ー……、やっぱ魔王城にもプール欲しいな~…、ね、アル」
「きゅ~~……」
「帰ったらお城くんに頼んでみよっか」
「きゅきゅっ」
「でっかい魔王城は使ってない部屋もいっぱいあるし、一個くらい室内プールに改装してもいいと思うんだ」
「きゅっ」
「な、アルもプール気持ちいいだろ」
「ぷきゅうぅ~~……」



無事にモンスタークリエイトも終わり、フィリベルトはグレートレンネルの標高高い場所に建っているホテルへと帰ってきていた。
昼間に出て行ってから、麓の森に住んでいるトレントとのモンスタークリエイトに時間を費やしていたら、とっぷりと陽が沈んでいた。
月の光が届かない森の中は鬱蒼として方向感覚が分からなくなる程だが、翼を生やして飛べるフィリベルトには問題ない。
計41個の卵を大事に抱えたトレントに別れを告げて、空を飛んでホテルまで帰ってくれば、夕飯の時間はとうに過ぎていた。
ホテルで待ちぼうけをくらっていたアルは、寂しさで夕飯のステーキをやけ食いして、ベッドの真ん中でひっくり返ってふて寝をしていた。
着いてくるなと言ったのに、それでも着いてきたのはアルの意思なので、フィリベルトが仕事で不在になるのは受け入れて貰わなければいけないのだが、その姿を見るとフィリベルトの方が罪悪感を覚えてしまう。
なのでホテルに帰ってきてフィリベルトが一番にしたことは、アルのお腹に顔を埋めてご機嫌を取ることだった。



魔王の経済力を発揮して予約した部屋は、最上階のスイートルーム。
今はスイートルームにしかない室内プールで、アルと一緒に食後の運動をしたところだった。
広々としたスイートの部屋でアルのご機嫌を取りながら、オウルベアのフスニーに頼んで用意してもらった遅い夕食を取った後、仕事で酷使した身体を解すためにアルと一緒になってプールで泳いだのだ。

一頻り泳いだ後は持参した浮き輪でぷかぷかと浮いて遊んでいる。フィリベルトがドーナツタイプの黄色い浮き輪で、アルが馬モチーフの子供用の浮き輪だ。
プールに浸かってスッキリとする心地良さに、魔王城にも欲しいなぁ、なんてアルと話していた。
機嫌が直ったアルも、きゅっきゅっとフィリベルトの言葉に同意するように鳴いている。

部屋に流れるのんびりとした時間を優雅に楽しんでいた二人に第三者の声が割って入った。

「ああ、ここにいましたか。ベッドルームの方にいないので、まだ帰ってらっしゃらないのかと思いましたよ」

スイートのリビングと室内プールとを繋ぐドアが開いて、ワイアットが顔を覗かせた。
仕事を終えて転移でこちらまでやてきたのだろう。
転移の魔法は便利で魔力も豊富にあるフィリベルトやワイアットなら一瞬で遠くの地までやってこれる。ただし転移の魔法は転移先の場所を明確に思い浮かべる必要があるので、知らない場所や曖昧な記憶だと転移の魔法は発動しなかったりする。このホテルには休暇を楽しむために何度か訪れているので、転移門を使わなくても転移の魔法で直ぐにやってこれるというわけだ。

スイートルームに泊っていると伝えていたので、転移で飛んできてフスニーに頼んで、予備の鍵を用意してもらったのだろう。ワイアットも支配人のフスニーとは、長い付き合いになる。

「やっ、ワイアット。遅かったね」

浮き輪に尻をはめ込んで寝そべってぷかぷか浮きながら、フィリベルトはパッと片手を上げた。
水着しか着ていないラフな格好のフィリベルトと違い、ワイアットはかっちりとしたスーツ姿に短い白髪をオールバックにしている。仕事中の姿のままなので、仕事が終わり次第こちらにすぐやってきたのだろう。

「ああ、対処に急がねばならない案件が入ってきまして…。実家の方に顔を出していたんです」
「実家というと、お兄さんに頼まなきゃいけない案件でもあったの?」

ワイアットには兄が一人いる。
ワイアットに似て真面目な男性だが、体格はワイアットよりも筋肉質で腕っぷしが強そうな豪傑といっても可笑しくない風貌をしている。
歳がいくつ離れているかは聞いたことが無いが、悪魔の種族は長命なので、きっと人間の親子以上の歳の差があるのだろうと思う。

「ええ、私の実家でもある土地で魔素溜まりが発生しそうだと調査団から連絡が届きましてね」
「え!?それ大丈夫なの?俺、応援行った方がいい?」
「いえ、フィリ様が行かれる程大規模なものではないそうなので。今回の魔素溜まりの件は兄にお任せする事にしました」
「そう、お兄さんはなんて?」
「任せろと言っていましたよ。あと、フィリ様によろしく、と」

魔素溜まりは自然災害の一種である。
魔素溜まりができる場所は決まっているわけではなく、土地に魔素が溜まってきたら地底から沼のようにドス黒い水が湧き出してくるのだ。
その現象で出来た水溜まりの事を魔池と呼び、魔池からは人体に影響を及ぼす毒素が噴き出す。
その毒素を吸ったり魔池の水を飲むと、生き物は魔獣へと変化してしまい、理性の無い生き物に成り果ててしまう。一旦魔獣となってしまった生物は元に戻すことができないので、非常に危険な自然災害だ。
そうならないように、魔素が濃い場所を発見し対処に当たるのが、魔素調査団たちだ。
今回調査団からの連絡では、ワイアットの実家がある土地に魔素の濃い場所があるので、魔池ができる前に対処をしたいとの話だったのだという。

「魔池ができると対処に時間がかかるからね、その前に見つかって良かった」
「ええ、ここ数十年は実家の方で魔素の濃い場所が見つかる事はなかったので、大丈夫だろうと慢心していました。早めの対処ができそうで、兄もホッとしていましたよ」

プールサイドに屈んで目線を下げてくれるワイアットの姿に、フィリベルトも両手でプールの水を掻き分けて傍へと近寄っていく。
フィリベルトが水を掻き分ける音に、近くで馬の浮き輪に揺られていたアルもぱしゃぱしゃと小さい音をさせながら水を掻いていたが、普通に泳いだ方が早いと水に飛び込んで、犬かきでフィリベルトの傍までやってきた。
アルの額から伸びた一角が浮き輪に刺さらないように先端を握りながら構ってやっていれば、プールサイドに屈んだままのワイアットがワナワナと震えていた。

そういえば水を掻いてワイアットの傍に近付くにつれて、顔が顰められて眉間に皺が増えていた。仕事でいつも眉間に皺を寄せている姿を目撃するので、あまり気にしていなかったが、今の表記の変化は完全にフィリベルトの何かに反応して浮かべたものだ。

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