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トレント×魔王様

2.巨木のキミ

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滞在しているホテルから数キロ離れた麓の森をフィリベルトは歩いていた。
木々は密集しているが木漏れ日が注がれ、葉は風に揺れてさわさわと心地良い音色を奏でている。
地面は歩きにくいという程荒れてはいなく、森を管理しているオウルベアが整えているのか石も転がっていなくて道に雑草もない。フィリベルトが普段履いているヒールのあるブーツでも余裕で歩けるくらいだ。
道端には紫と白の可愛らしい花が咲いていて、フィリベルトの気持ちも自然と穏やかになる。森林浴という言葉があるように、自然に囲まれると精神的に安らぐのがよく分かる。
フィリベルトは森を歩きながら、森を管理するオウルベアに事前に聞いていた場所へと向かって歩みを進めた。

「うーん、このへんかな?トレントといえば、大きくて太い幹が目印でー…、触ると温かいんだっけ」

この辺りのはずなんだけど…、とぼやきながら道を逸れてガサガサと草を掻き分けて道の無い方へと向かう。
一人で森の中へ入っていくなんて自殺行為だが、道に迷ったら出し入れ自由な翼で飛べばいいだけなので、フィリベルトは躊躇い無く道なき道を進んでいく。

トレントの特徴は樹齢数百年にも及びそうな太い幹が目印で、移動するために根は全部地面に埋まっておらず、触手を伸ばして物を掴んだりするため枝には葉が少ない。
それから植物と違って、体温が高く37度と温かいのもトレントという種族の特徴だった。

「どーこーかーなー、こっち、かな、っと、うわっ!」

腰まである草を掻き分けて歩けば、足元が見えず大きな岩に足を引っ掻けて転びそうになる。
フィリベルトの運動神経は良い方なので、足を引っ掻けて前に傾いた重心を利用して、宙で一回転して転倒を避けようと体勢を立て直そうとするも、それよりも先に伸びてきた太い枝がフィリベルトの腰に巻きついた。

「お、おお?何、枝……ってことは」

腰に巻きついた枝に身体を支えられたフィリベルトは、枝を辿るように視線を動かす。
腰に巻きついた枝は、少し距離のある巨木から伸びていた。腰に回った枝は服越しにも分かるくらい温かく、じわりと肌に伝わってくる。トレントの特徴と一致する。

「君がトレントか。やっと会えた!転びそうなところ、助けてくれてありがとう」

自分でも体勢を立て直す事は十分できたけれど、それより先に助けてくれたのは事実。腰に回された腕を撫でてお礼を言えば、地面に下ろされてシュルッと腰に巻きついた枝が離れていった。
生い茂る草を掻き分けてトレントがフィリベルトの前にやってくる。沢山の根が蠢いて土を掻き分けるようにして地面を這っている。
まるでミミズの大群のようで、なんともいえない光景だ。フィリベルトは平気だが、虫が苦手な人は鳥肌が立ちそうな光景だ。
ズズズ……、と這ってやってきたトレントをフィリベルトは見上げた。大きさに圧倒される。


(うわ、でっかー……、ワイアットから大きいって聞いてはいたけど、想像よりでっかいな。背も高いけど、幹の太さが半端ない…、これどうやって交尾すればいいんだ?っていうか顔見当たらないけど、目とか口とかどこなんだろ。いや、もしかして最初から顔がないのかな…?それと、重要なおちんちんどこ?)


木の魔物なのは知っていたし、転生前の地球に存在していたゲームにはトレントと名の付くモンスターがいたが、どのビジュアルにも顔や口がついていたので、当然この世界のトレントにも顔や口がついているとばかり思っていた。

こういうことなら、今回のトレントとのモンスタークリエイトの話が、この森を管理するオウルベア経由で上がってきたのも頷ける。

魔物の中には声帯が無く、テレパシーや身振り手振りでコミュニケーションを取る種族がいる。そういう種族は、同じ土地に住まう他の種族と手を取り合って暮らしている。
なので、今回のトレントたちの増えない子孫の問題を解決するべく、魔王城へコンタクトを取ってもらうようトレントがオウルベアに頼んだのだろう。

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