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トレント×魔王様

1.大自然へ

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魔王城から数百キロ離れた山岳地帯。高く険しい山が見られるこの地は、グレートレンネル山地と呼ばれる。

山々が連なり、青々とした木々が長い歳月をかけて繁茂し、様々な植物が咲き乱れるこの場所は、高い標高ということもあり、空はとても近くて青い。
険しい見た目に反して、自然に囲まれたこの土地は穏やかな気候をしているので、休暇を楽しむためにやってくる魔物たちが沢山いる。

大自然といっても木々は整えられて、地面を覆う草は絨毯の様に刈り整えられている。緑の絨毯が生い茂る山間部には別荘がぽつぽつと建ち、広い土地を利用して畜産業と酪農業が盛んに行われている。
この土地で生産された乳製品や肉は品質がとても良い事で有名で、高級品として扱われている。


ここら一帯の山の管理を請け負っているのは、昔からこの地に住むオウルベアたちで、畜産や酪農、植物の手入れ、別荘や宿屋の管理などを一手に引き受けている。
フクロウの頭部とクマの体を持つ見た目をしているため気性が荒そうに見られがちだが、実際はとても温厚な種族である。

自然豊かな土地に暮らしている魔物で、個体数は多いため出生率の低い魔物の中でも少しずつではあるが数を増やしている。なので、数少ないフィリベルトのモンスタークリエイトが必要ない魔物なのである。

そんなオウルベアは定住しているこのグレートレンネル山地で働いている者が多い。
オウルベアの大多数の年齢は齢100歳を越える者たちばかりだ。ここ数十年の間に産まれた若いオウルベアたちは、魔王城のある都会に憧れがあるのか、出稼ぎにいって向こうで働いている者が多いらしい。なのでこの地で働いているオウルベアは成熟している壮年の者が殆どだ。


魔物たちの認識だとグレートレンネル山地は田舎という位置づけで、都会の喧騒を忘れて過ごせる場所という認識が根付いている。

前世の地球での知識があるためか、フィリベルトにしてみればここは田舎というよりも、どちらかといえば欧州にあるスイスやイタリアの山や渓谷に似ている。日本人だった記憶があるためか、田舎というよりテレビを通して見る海外の絶景スポットだ。
なので、このグレートレンネル山地を、数年に一度は休暇を楽しむために訪れるくらいフィリベルトは気にいっていた。





切り立った崖の側面に重力を無視してくっ付けられたような逆三角形の建物。
景観を考慮して色は白く、まるで巨大な豪華客船の船首の部分のような形をしたそれは、この地に訪れた魔物をターゲットとしたホテルだった。
ごちゃごちゃとした喧しい装飾はなく、スッキリとした佇まいのそのホテルは、ラグジュアリーホテルと称するに相応しい外観と内装をしている。

ホテルの屋上デッキのバーで、フィリベルトはアルミラージのアルと一緒に過ごしていた。
標高が高いため太陽が近く燦々と降ってくる太陽の光が眩しいが、フィリベルトは遮光の為のパラソルの下でサングラスを身に着けてトマトジュースを飲んでいた。
フィリベルトの膝の上で大人しくお座りしているアルはストローでウイスキーを飲んでいる。可愛い見た目に反して酒豪でワクだ。

トウモロコシが主原料のコーンウイスキーが魔界ではよく飲まれているお酒になる。
原料のトウモロコシの量によってはバーボンウイスキーとも呼ばれるが、その定義は前世のものになるので、この世界ではバーボンという名前はない。なのでこの世界では、トウモロコシを使っているウイスキーは全てコーンウイスキーと呼ばれる。荒々しい口当たりに対して後味は甘みが強いのが特徴だ。
フィリベルトはアルコールはあまり好きではないのでバーで頼むのはジュースばかりだ。



ホテルの支配人であるオウルベアのフスニー直々に給仕されながら、フィリベルトは飲み干したトマトジュースのグラスを置いた。
フスニーは空になったグラスをサッと下げて、テーブルについた結露の水滴をタオルで拭いながら言った。

「フィリベルト様は今回も休暇で?」
「いんや、今回はお仕事なんだ」
「おや、珍しい。仕事での滞在はワタクシの記憶では初めてかと」
「いつも休暇で来てはお世話になってばかりだもんね。今回は俺にしか出来ない仕事だから」
「と、いいますと、もしや……」
「うん、モンスタークリエイトだね」

フィリベルトの仕事の内容に思い当たりがあるのかフスニーは神妙な顔で頷いた。

「なるほど、でしたら今回の相手は……、トレントでしょうか?」
「流石、耳が早いね」
「この地の事は自然とワタクシの耳に入ってくるのです。確かにここ100年、彼らは数を増やしていません」
「やっぱりそっか。麓の森に住んでるトレントたちの数が全く増えてないらしいと知らせを貰ってね。この地のトレントたちが高齢になってしまう前に、子孫を残すお手伝いをしようと思って来たんだ。君たちみたいにトレントは数が多くないし、彼等は群れで生活してるから」
「ええ、ワタクシたちオウルベアは離れ住むことも殆ど無く、数が多く魔王様のお手をお借りする必要はございませんが、この地に住まうトレントたちには必要でしょう」
「うん。場所がグレートレンネルだったから、トレントたちに会うついでに、折角なら日帰りじゃなくて泊りにしようと思って来たんだ」
「魔王様がこの地を気に入ってくださり至極恐縮でございます」
「それで、頼みがあるんだけど…」
「?なんでしょうか」
「時間掛かると思うからアルを預かってもらってもいいかな?ダメだって言ったのに着いてきちゃって」
「……!?!?」
「ええ、いいですよ」


フィリベルトのもちもちお膝を堪能しながらお酒を飲みつつ二人の話に耳を傾けていたアルが、ガンッと衝撃を受けたような顔をした。


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