転生魔王様の淫紋モンスタークリエイト

黒川クロ

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オーク×魔王様

11.仕事の後は

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夜空に輝く三日月をバックに、フィリベルトは鼻歌を歌いながら飛んでいた。
バサリと黒い翼を羽ばたかせながら飛んでいるフィリベルトの周りを、小さな蝙蝠たちがくっ付いて飛んでいる。この蝙蝠たちは、魔王城の近くに塒をもつ子たちだ。腕に抱えたバスケットの中の、アップルパイの匂いに釣られてやってきたらしい。
 
「ごめんなー、これ君たちは食べれないんだ」
 
鼻をひくひくさせていた蝙蝠たちにそういえば、「ピー……」と哀しそうな鳴き声が聞こえた。
前世では蝙蝠と触れ合う機会なんてとんと無かったけれど、魔界には蝙蝠が沢山生息していて、ちょっとお出かけすれば必ず目に入るくらいメジャーな動物だ。
魔物とは違って蝙蝠は純粋な動物だけれど、この世界の蝙蝠は前世の犬やイルカくらい知能が高く馴染みのある生き物だ。
可愛いけれど流石に動物にアップルパイは食べさせられないので、水魔法で生成したお水を掌に出して飲ませてあげた。魔力を含んだ水はとても美味しくて栄養がいっぱい含まれている。小さい口で美味しそうに飲んでくれた。
 
お水をあげたり遊んだりしながら一緒に飛んでいた蝙蝠達は、フィリベルトが魔王城に着く手前でお別れした。自分たちの塒へと帰っていったのだろう。
 
フィリベルトは去っていく蝙蝠たちに大きく手を振りながら、バスケットを抱えたまま魔王城のバルコニーに降り立った。
黒い羽を数枚散らしながら、シュンッと翼を消す。移動には頗る便利な翼だが、如何せん大きいので歩くときや建物内だと邪魔なのだ。
 
部屋の中へと通じる扉を開けると、そこはフィリベルト専用の書斎がある。
執務室は別にあるのだが、部屋の壁一面に本を並べているこの空間が落ち着くので、書類仕事の場合は大抵この部屋をつかっている。
 
「フィリ様、お帰りなさいませ」
「ワイアット、居たんだ」
 
誰もいないと思っていたのに、ワイアットの姿を見つけてフィリベルトがパチパチと目を瞬かせる。
しかもカートにお茶の用意がしてあって、書斎の中央テーブルには、ポットとカップ二つが用意されていた。
丁度淹れたてなのか、ワイアットが執事よろしくカップに紅茶を注いでいるところだった。
 
「ええ、そろそろお帰りの頃かと思いまして、お茶の準備をしていたのですが、ジャストタイミングでしたね」
 
紅茶の注がれたカップを目の前のテーブルに差し出されて置かれたので、フィリベルトは有難くいただくことにした。モンスタークリエイトという仕事を終えて、オークの集落から直ぐに帰ってきたので、まだ休憩を取っていなかった。

直ぐに体力回復してしまう魔王の身体は疲れ知らずだが、気力はそうはいかない。
無事にお仕事を終えた達成感からか、紅茶で喉を潤せばホッと息が漏れて肩の力が抜けた。ふわっと香るこれは、柑橘の…ベルガモットのような香りが僅かに感じられるので、アールグレイだろうか。
紅茶に詳しくないフィリベルトでも、この紅茶の香りは何となくわかる。ワイアットが好んで淹れる茶葉の一つだ。
 
「流石、紅茶の淹れ方が上手いな」
「私が何年紅茶を淹れ続けてきたと思っているんですか」
「ははっ、そうだった。君の紅茶趣味は前任の魔王の時からだったね」
 
ワイアットの紅茶趣味は、好戦的でアウトドアな前任の魔王様が仕事を全くしないために、押し付けられた書類仕事のストレスを発散したくて紅茶を淹れ始めたのが趣味の始まりだと聞いている。
 
「そうだ、紅茶があるならこれ一緒に食べない?オークの子がお土産にってくれたんだ」
 
オークの集落で宿屋を経営する女将さんが、モンスタークリエイトをしにやってきたフィリベルトの為に焼いてくれたアップルパイだ。
実はオークの宿屋を経営している女将さんは、50年前、フィリベルトが産んだ卵から孵ったオークの一人だ。なので実質フィリベルトの子供ということになる。
慕ってくれる子が持たせてくれたアップルパイは良い匂いがして、実は空を飛んでいた時から食べたくてうずうずしていた。
 
「いいですね。では相伴にあずからせていただきます」
 
ワイアットがフィリベルトからアップルパイを預かれば、テーブルがガタリと揺れた。
見ればテーブルの上には、お皿が二枚とフォークとケーキナイフがセッティングされている。二人の会話を聞いていた魔王城が気を利かせてテーブルに必要なカトラリーを置いてくれたようだ。
「ありがとう」と言えば、バタバタと窓が開閉した。フィリベルトの言葉に喜んでいるらしい。
 
 「ピチピチ25歳のオークに興味を持たれていましたが、いかがでしたか?」

切り分けたアップルパイの乗った皿を差し出しながらワイアットが聞いてきた。
朝食を食べながらフィリベルトが言っていた言葉をちゃんと覚えていたらしい。

「いい子だったよ。真面目で責任感が強そうでこれから更にイイ男に成長するんだろうなって思える若者だった」
「おお、それは良うございましたね。それで、卵は幾つお産みに?確か…、50年前は5つでしたか?」
「50年前は6つだよ」

50年前だとかなり昔に感じるが、魔王の性質上、フィリベルトの魔力を分けた子の事は記憶としてしっかりと海馬に刻まれる。

「今回は7つだったよ」
「7つ!…それは凄いですね。それだけフィリ様の相手を務めたオークが優秀だったというわけですね」
「いや、まあ、優秀ではあったんだけど……」
「? なんです、その歯切れの悪さ……。ま、まさか、25歳ピチピチボーイの初恋を本当に奪ったんじゃないでしょうね!全く、気をつけてください。恋愛は個人の自由なので私も煩くあれこれ言いたくありませんが、流石に魔王様の相手に25歳のオークは若すぎます。却下です。推せません。せめて私くらい歳のいった相手なら考えなくもないですが、」
「いや、待て待て待て!一体何の話をしてるんだ!初恋?恋愛?そんな要素どっから出てきた!?」
「違うんですか?」
「ぜんっぜん違う!」
「では何故歯切れが悪くなったので?」
「あーーー……、…、……し、ちゃって」
「え?なんです?」

フィリベルトは視線を逸らしてフォークを咥えたままもごもごと答えるが、声が小さすぎて聞き取れなかったワイアットが聞き返してきた。

「だから、調子に乗って搾り取っちゃったの!魔力も精根も!尽き果てるまで!」

まさか、7個目の卵を生んだ後にロイドがぶっ倒れて気絶するだなんて思わなかったのだ。

ロイドだってフィリベルトとのモンスタークリエイトにノリノリだった。そんなの、嬉しくて調子に乗てしまうしかない。
魔力が豊富で体力もあると聞いて、舌舐りして喜んで押し倒したのに、相手が性行為の経験が浅いピチピチボーイだということを忘れていたのだ。体力精力底なしのフィリベルトに付き合わせてしまい、最後にはヘロヘロになっていた。
フィリベルトがオークの集落を後にしたとき、まだロイドは寝込んでいた。そんなロイドを後目に、7個の卵にオークの集落は喜びに沸いていたけれど。

「なるほど…、それはそれは。フフフ…」
「……おい、なんで笑ってるんだよ」
「いえいえ、貴方の相手を務めたそのオークは幸せ者だと思いましてね」
「………えぇ?俺に搾り取られて寝込んだんだよ。それが、幸せだってぇ?」

フィリベルトとしては「悪い事しちゃったなぁ」という心境なのだが、ワイアットは正反対の意見らしい。なんだか腑に落ちない。搾り取られて寝込んでいるのに、それが幸せ?
フィリベルトにはよく分からないが、ワイアットは知悉しているらしい。

「よくわかんないけど、次オークを相手にするときは、今日みたいに調子に乗らないようにするよ。モンスタークリエイトは大事な仕事だけど、体調を壊してまで相手に強要することじゃないしね」
「絞り取られて倒れることを体調不良と称すのは初めて聞きましたが、まあ何事も無ければ次のオークの集落でのモンスタークリエイトも50年後くらいでしょう。それまでには、本日の卵から産まれたオークが立派に成長しているでしょうし、もしかしたら貴方の相手として再会するかもしれませんしね」
「それは嬉しいね。今日の相手は魔力も豊富だったし。その子供だ、さぞ強い魔力を持ったオークに成長するだろうな」

フィリベルトは長い脚を組みながら、アップルパイの残りの欠片をフォークに刺してぱくりと口に放り込む。
今日自分が産んだ卵から孵るオーク達は、どんな成長を遂げるのだろうか。再会がとても楽しみだ。

「でもその前に、他の魔物たちの卵も産まないと」

食べ終えて空になった皿とフォークを掲げれば、瞬きの僅かな瞬間にパッとフィリベルトの手から皿とフォークが消えていた。これも魔王城の力によるものだ。魔王城の魔力のよって生成された物質は、魔王城の意思で跡形も無く消すことができる。

「他にも沢山の魔物たちが俺のモンスタークリエイトを待ってるからね。僕の子であるオーク達との再会のお楽しみは、未来の僕に託すことにするよ」

明日からも続く魔王としての「お仕事」を思ってニコニコと笑うフィリベルトの前に、察したワイアットが肩を竦めながら魔物達から上がってきた嘆願書をテーブルの上に滑らせるように並べ置いた。

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