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オーク×魔王様

3.運動の前に腹ごしらえ

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「で、意気揚々とオークの集落に向かおうとしていた割には、のんびり朝食はお食べになるのですね」

テーブルの向かいに腰掛けたワイアットはコーヒーを片手に、朝食を食べているフィリベルトに言った。

このワイアットという男は魔王補佐として魔王城に居住している。日々の仕事を緊急性の高い案件から低い案件までを見分けて仕訳けてくれている。それから魔界の知識が豊富で、フィリベルトが魔王になって駆け出しの頃は、よく助けてもらっていた。そして魔界に住んでいる魔物達の取り纏め役をしているので、魔物たちの会合の席に魔王代理として出席してもらうこともある。

「いや、俺もパッと行ってヤってこようと思ったんだけど、前にオークと子作りした時の事思い出してさ」

広い食堂の中央に置かれた5メートルはあろう仰々しく長いテーブルの端に座って、フィリベルトは魔王城手作りの朝食に舌鼓をうっていた。向かいの席でコーヒーを呑んでいるワイアットは先に朝食を食べ終えたらしい。
いつも食堂にやってくるとテーブルの上に出来立ての食事が用意されている。これも魔王城が準備してくれているのだ。
魔王城にはまだまだ不思議が多く、何かの創造魔法なのだろうという事はわかるのだが、それ以外はさっぱりだ。でもこうして美味しい食事を食べさせて貰っているので、フィリベルトとしては特に深く考える事はしていない。
カリカリに焼けたパンにべったりとバターを塗って食べる。温かいパンに塗ったバターが溶けて、なんだかアレみたいだなとフィリベルトは思った。

「…前に?フィリ様がオークと前回致した時は、確か……50年程前ではありませんでしたか?」
「そうそう。50年も経っててすっかり忘れてたんだけど、オークとヤるのってかなり体力消耗した記憶があって」
「なるほど、それで腹ごしらえですか。確かに、フィリ様の身体は食物からの栄養を直ぐにエネルギーに変換しますしね」
「うん。だから途中で疲れないように、しっかり食べておこうとおもって」

パリっと焼けたウインナーをもぐもぐと咀嚼しながら、フィリベルトは肩を竦めた。


魔王の身体は特殊な構造をしている。
魔王のユニークスキルにはモンスタークリエイトというものがあり、その名の通りモンスターを作り出す能力だ。
ただ、いくら魔王とて命を無から生み出す事はできない。ではどうやって作るのかと言えば、魔王が身体の中に有する胎で作るのだ。
胎の位置に浮かんでいる淫紋。魔王の下っ腹にある逆さハートの事だ。
この淫紋に魔物の魔力を注ぐと、それがスイッチになり魔王の胎が起動する。その後24時間以内に、淫紋に流した魔力と同種の魔物の精子を魔王の身体の中に取り込めば、受胎が完了し卵が生成される。生成される卵の数や大きさは魔物の種類に沿うことになるので、大きな卵を一回産んで終わりの場合もあるし、小さな卵を100個以上産む場合もある。これに関しては受胎してみなければわからない。
取り込む精子は口から飲んでもいいし、尻の孔から注がれてもいい。ただ胎に近い場所の方が受胎率が上がるので、推奨しているのは尻の孔だ。
生成された卵はその場で出産し、その後は相手の魔物が大事に温めて孵化させて新たな生命が誕生する、といった流れだ。
沢山精子を取り込めば、それだけ強い魔物が産まれるので、モンスタークリエイトにおける交尾は時間がかかる。


「今回相手を務めるオークは、まだ年若い雄でしたね」
「確か、嘆願書には25歳って書いてあったな」
「25歳ですか…。なるほど、オークの里もなかなか子に恵まれなかったんでしょうね」
「仕方ないよ。魔物の出産率って凄く低いし。だからこそ俺がいるわけなんだけど」

魔物の出産が少ないのは今に始まった事ではない。
魔物は皆身体の中にある魔力が強いため、寿命は平均300年。短くて100年、長くて1000年以上生きるものもいる。その代わり魔力が強すぎて、魔物同士で子作りに励んでも、お互いの強い魔力で精子と卵子が反発し合い受胎する確率がとても低い。それならば別々の種族同士ではどうかという話なのだが、そもそも種族が違うと子供ができない。
人間が相手の場合はまた別で、魔力の少ない人間だと魔力反発は無く、魔物と人間の要素をあわせもつハーフが誕生するのだが、現在人間の国とは国交断絶状態なのでハーフは殆ど見かけない。
だから魔王という特殊なユニークスキルを持った強者が存在している。

今回フィリベルトが相手を務めるオークは、珍しい同種同士の交尾で産まれたオークだ。久し振りのオーク同士での子供の誕生に、オーク達は喜びに沸いたらしいのだが、その後25年間新しいオークは誕生していないのだという。

「そんなわけで、まだ25歳のピチピチ君が今回の俺の相手」
「25歳なら性欲も旺盛でしょうし、貴方様が相手なら直ぐに子供も授かるでしょうね」
「うん。そ、れ、に」

デザートのバニラアイスを乗せたスプーンを咥えたまま、フィリベルトは目を細めて笑いながら内緒話をするようにワイアットの方へと身を乗り出した。

「25歳のピチピチのオーク君にも興味あるんだー、俺」

にっこりと笑ったフィリベルトの様子に、ワイアットがこめかみに指を当てて溜息をついた。頭が痛いとばかりに頭を振っている。

「まったく、貴方という人は。くれぐれもオークの青年を弄ばないように」
「ええ?やだなー弄ぶだなんて、俺そんなに残虐な魔王じゃないよ」
「……そういう意味ではありません」
「ちがうの?」
「どこぞの吸血鬼野郎みたいになったらどうするんですか」
「いや、あれはアイツが特殊だっただけだから」

数十年前に相手を務めた吸血鬼の顔色の悪い優男が浮かぶ。
一発やって子供を作った後、何を思ったのか激しいエッチでフィリベルトが気絶していた隙に枷をはめて監禁しようとした変態だ。
「貴方には白がよく似合う」と言って、真っ白なウエディングドレスを着せられて精液をぶっかけられたのは正直上級者すぎて吃驚してしまった。未だに強烈な記憶として残っている。
魔王城に戻ってこないフィリベルトを心配したワイアットが助けにきてくれて何とか事なきを得た。
そういえば最近あの変態吸血鬼を見かけないなとフィリベルトはふと思った。考えすぎるとどこからかやって来そうな気がするのであまり考えないようにしよう。

「今回のオークは25歳の若い雄なんですから、純情を弄ばないように」
「わかってるって。羽目は外さないようにするね」

フィリベルトはワイアットの言葉に大人しく頷いてから、バニラアイスの最後の一口をぱくりと口に入れた。




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