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オーク×魔王様
1.1日の始まり
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漆黒の色を纏う魔王城の最上階で、今日も魔王様の1日が始まる。
最上階に位置する部屋には魔王様の寝室がある。
朝日を遮っていた黒色の遮光カーテンが開かれる。天井から床まである大きな窓からは、朝日が射し込んでベッドで寝ているフィリベルトを照らす。
せっかく気持ちよく寝ていたのに、睡眠を邪魔されてフィリベルトの眉間に皺が寄った。
邪魔されたくなくて、隣で眠っていたペットであるアルミラージのアルを胸に抱き寄せた。朝日から逃げたくて顔を毛に埋もれさせて抵抗を試みるが、重みのある遮光カーテンがバッサバッサと音を立てて「早く起きろ」とばかりにフィリベルトを急かす。
「ううー…、やめろ、眩しい…、……あと、5分待って……」
睡眠を邪魔されて、顔にくしゃっと皺を寄せてベッドに潜り込んで抵抗をする。
腕に抱いたアルが頬を擦りつけてきて、ふわふわの白い毛が擦れて胸元がむずむずする。寝るときはボクサーパンツ一枚で眠るため、ダイレクトに肌に毛が触れて擽ったいのだ。
「ふふ……、ちょっとアル、やだ、擽ったい」
額から生えている角の下を掌で押し返すも、甘えてくる動作が可愛くてフィリベルトの押し返す手には全然力が入っていない。
しばしベッドの中でアルと戯れた後、獣臭を肺いっぱいに吸い込んでから、フィリベルトは胸に抱いていたアルを離してベッドから這い出た。
抱きかかえられてキュンキュンと甘えた声を出していたアルは、寝ぼけたフィリベルトに抱き着かれた興奮のままにシーツの中でもぞもぞしている。
ペタペタと裸足で歩けば、スーッと音もなくスリッパが床の上を滑ってきた。
腰まで伸びた長い黒髪は寝ていたせいで絡まっていて、フィリベルトは髪を手櫛で解きながら足元に近付いたスリッパを履いて大きな窓に近付く。すると窓が勝手に開いて、朝の澄んだ空気が部屋に流れ込んだ。遠くの空には赤色のワイバーンが2匹飛んでいるのが見える。
ぐっと両手を上げて伸びをして寝て凝った身体を解していれば、ふわりと浮いたカーテンに口元をごしごしと拭われた。
「んーー、なに?…、もしかして、よだれついてた?」
問えば口元を拭っていたカーテンが、上下に揺れて頷いた。
この涎を拭ったカーテンも、勝手に開いた窓も、床の上を滑るように近付いてきたスリッパも、全部魔王城が動かしている。
フィリベルトが魔王になるはるか昔から魔王城は魔界の中心地に建っていて、幾人もの魔王と共に有った。
魔王城は生きて、意思を持っている。
魔王城はその時の魔王に合わせて意識を変化させる性質を持っている。
フィリベルトの前任者である魔王は好戦的な性格をしていて、その時の魔王城は魔王の性質に同調するように荒々しかったそうだ。魔王城は今よりももっと不気味で陰気で、窓を覆うカーテンは絶対に開けないという徹底ぶりだったらしい。
フィリベルトが魔王になってから暮らしている魔王城は穏やかな性質で、フィリベルトの世話をよく焼いてくれる。
お節介で世話好きな印象の魔王城しか知らないフィリベルトは、当時の魔王城の様子を聞くたびに「それってだれのこと?」と本気で思うほどだ。
今の魔王城は朝目が覚めてから夜眠りにつくまでせっせとフィリベルトの世話を焼いてくれる。たまにお風呂やトイレの介助までしようとするくらい世話好きだ。時々間違えて「お母さん」って呼んでしまいそうになるくらいには。
「今日もいい天気!昨日より暑くなりそうだな」
高い天井に向かって伸びをした両手を腰に当てて、大きな窓の前で仁王立ちする。
射し込む太陽の光が眩しい。
魔界と名の付く場所だが、環境は世界中のどの国とも違いはない。
人間の国では、魔界は暗雲が立ち込め、空はゴロゴロと唸りを上げて時々稲光を発生させ、巨大なドラゴンや蝙蝠が飛び交い、木々の葉は全て散り、花は咲かないと言われていたりするが、それらは全部勘違いで、人間たちによる勝手な妄想だ。
魔王城の窓から見える景色は、青空が広がって太陽の陽が降り注ぎ、空に浮かぶ雲は白くふわふわとしている。空にはワイバーンが飛んでいるが、機嫌よく鳴きながら滑空している。そして城から見下ろす町には沢山の人がいるのが見える。
遠くの森の木は生い茂っていて、ところどころに花畑が見える。
フィリベルトは窓から見えるこの魔界の光景が大好きだ。
最上階に位置する部屋には魔王様の寝室がある。
朝日を遮っていた黒色の遮光カーテンが開かれる。天井から床まである大きな窓からは、朝日が射し込んでベッドで寝ているフィリベルトを照らす。
せっかく気持ちよく寝ていたのに、睡眠を邪魔されてフィリベルトの眉間に皺が寄った。
邪魔されたくなくて、隣で眠っていたペットであるアルミラージのアルを胸に抱き寄せた。朝日から逃げたくて顔を毛に埋もれさせて抵抗を試みるが、重みのある遮光カーテンがバッサバッサと音を立てて「早く起きろ」とばかりにフィリベルトを急かす。
「ううー…、やめろ、眩しい…、……あと、5分待って……」
睡眠を邪魔されて、顔にくしゃっと皺を寄せてベッドに潜り込んで抵抗をする。
腕に抱いたアルが頬を擦りつけてきて、ふわふわの白い毛が擦れて胸元がむずむずする。寝るときはボクサーパンツ一枚で眠るため、ダイレクトに肌に毛が触れて擽ったいのだ。
「ふふ……、ちょっとアル、やだ、擽ったい」
額から生えている角の下を掌で押し返すも、甘えてくる動作が可愛くてフィリベルトの押し返す手には全然力が入っていない。
しばしベッドの中でアルと戯れた後、獣臭を肺いっぱいに吸い込んでから、フィリベルトは胸に抱いていたアルを離してベッドから這い出た。
抱きかかえられてキュンキュンと甘えた声を出していたアルは、寝ぼけたフィリベルトに抱き着かれた興奮のままにシーツの中でもぞもぞしている。
ペタペタと裸足で歩けば、スーッと音もなくスリッパが床の上を滑ってきた。
腰まで伸びた長い黒髪は寝ていたせいで絡まっていて、フィリベルトは髪を手櫛で解きながら足元に近付いたスリッパを履いて大きな窓に近付く。すると窓が勝手に開いて、朝の澄んだ空気が部屋に流れ込んだ。遠くの空には赤色のワイバーンが2匹飛んでいるのが見える。
ぐっと両手を上げて伸びをして寝て凝った身体を解していれば、ふわりと浮いたカーテンに口元をごしごしと拭われた。
「んーー、なに?…、もしかして、よだれついてた?」
問えば口元を拭っていたカーテンが、上下に揺れて頷いた。
この涎を拭ったカーテンも、勝手に開いた窓も、床の上を滑るように近付いてきたスリッパも、全部魔王城が動かしている。
フィリベルトが魔王になるはるか昔から魔王城は魔界の中心地に建っていて、幾人もの魔王と共に有った。
魔王城は生きて、意思を持っている。
魔王城はその時の魔王に合わせて意識を変化させる性質を持っている。
フィリベルトの前任者である魔王は好戦的な性格をしていて、その時の魔王城は魔王の性質に同調するように荒々しかったそうだ。魔王城は今よりももっと不気味で陰気で、窓を覆うカーテンは絶対に開けないという徹底ぶりだったらしい。
フィリベルトが魔王になってから暮らしている魔王城は穏やかな性質で、フィリベルトの世話をよく焼いてくれる。
お節介で世話好きな印象の魔王城しか知らないフィリベルトは、当時の魔王城の様子を聞くたびに「それってだれのこと?」と本気で思うほどだ。
今の魔王城は朝目が覚めてから夜眠りにつくまでせっせとフィリベルトの世話を焼いてくれる。たまにお風呂やトイレの介助までしようとするくらい世話好きだ。時々間違えて「お母さん」って呼んでしまいそうになるくらいには。
「今日もいい天気!昨日より暑くなりそうだな」
高い天井に向かって伸びをした両手を腰に当てて、大きな窓の前で仁王立ちする。
射し込む太陽の光が眩しい。
魔界と名の付く場所だが、環境は世界中のどの国とも違いはない。
人間の国では、魔界は暗雲が立ち込め、空はゴロゴロと唸りを上げて時々稲光を発生させ、巨大なドラゴンや蝙蝠が飛び交い、木々の葉は全て散り、花は咲かないと言われていたりするが、それらは全部勘違いで、人間たちによる勝手な妄想だ。
魔王城の窓から見える景色は、青空が広がって太陽の陽が降り注ぎ、空に浮かぶ雲は白くふわふわとしている。空にはワイバーンが飛んでいるが、機嫌よく鳴きながら滑空している。そして城から見下ろす町には沢山の人がいるのが見える。
遠くの森の木は生い茂っていて、ところどころに花畑が見える。
フィリベルトは窓から見えるこの魔界の光景が大好きだ。
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