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行幸前夜

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シャルロッテは念のため、インクを使って髪を染めていた。
王都の関所を通る時、同じような手段を使ったのが遥か昔のように思える。
(まだ数年しか経っていない)
今のところ、お尋ね者の似顔絵を見比べて銀髪のシャルとオツェアン侯爵令嬢が同一人物であると気づいた人間は居ないが、ドゥム王やチェルシーのような、シャルロッテのことを昔から知っている人物の前に銀髪のシャルとして現れれば気づかれる危険性は高まる。
ちなみに斥候によると、庶民の間でもシャルロッテ逃亡から1ヶ月ぐらいは破格の賞金や貴族のゴシップということで話題になっていたらしいが、何の続報も無かったことで徐々に興味が失われていったらしい。
「まさか盗賊になってるとは思いませんよねぇ」というのが斥候の感想。
顔も隠しておいた方が良かろうということで雑用係に適当な布を頼んでおいたところ、猫耳のついた頭巾を渡されたので無言で引き裂き、ただの布きれにして顔を覆う。
「あっ、うちがせっかく夜なべして作った猫耳頭巾を」
「お気持ちだけいただいておくわ」
「棒読み~!」
シャルロッテと雑用係がじゃれあっている(?)傍らで、エリーゼと斥候は額を突き合わせて新興盗賊団の襲撃計画を立てていた。
「あまり王の行列に近づくとまずいな、色んな意味で」
「そうですね、標的はおそらく予め伏せておいた仲間を使って一気に王の行列を囲む可能性が高いでしょうし、伏せるために移動してる時を狙ってやっちゃいます?」
「そうだなぁ。アジトにかちこむと周辺の他の盗賊も出張ってきそうで面倒だし、アジトから伏せるポイントにぞろぞろ移動してる奴らを先に狩って、返す刀で残りの連中をやっちまうか」
エリーゼはわしゃわしゃと豊かな黒髪をかきまわし、「それにしてもこいつら、ぽっと出の割には随分な人数だな」とポツリと呟く。
「背後にパトロンみたいなのが居るみたいですよ。ただ、それにしては雑魚多めなのが妙に引っ掛かるんですよねぇ。このところ盗賊増えてきてるんだし、どうせケツモチするならもっとマシなのスカウトすれば良かったのに」
ボスも図体がデカいだけのイキリ雑魚って感じですしね、と、歓楽街の酌婦に化けて情報を集めてきた斥候は首をひねる。
「パトロンの正体はわからないのか?」
「それが、徹底して自分に繋がる線を消してまして、一切不明です」
「何だそりゃ、なんかキナ臭いなぁ」
「同感ですねぇ」
斥候とエリーゼが頷き合い、予備の猫耳頭巾を用意していた雑用係と断固拒否するシャルロッテの仁義なき戦いが行われているうちに、行幸前夜は更けていった。
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