死に別れた縁と私と異界の繋

海林檎

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 これは異性と一緒に同じ布団で寝ているだけ。
 ただの添い寝。

 頭の中でひたすら呪文のように結は言葉を繰り返す。

 そんな結を抱き締めている本人はすっかり熟睡して夢の中。



 その寝顔は反則。




 ダメだダメだと頭では分かっているが心臓が痛い程鳴っている。


 助平だ何だの叫んで文句を言って少しづつ心が近づいているのを無理やり引き剥がすのにも限界がある。


 寝ている時は少し幼さを感じるその寝顔は見れば見るほど縁に似ている。





 縁の代わりにはしたくない。




 きっと一緒にいるから脳が勘違いしているのだろう。

 そう心の中で自己完結した。










 結が寝静まった頃、繋がゆっくりと目を開ける。


「···········」


 眠る結の髪を触り目を細める。




「このままここに居ればいい」



 ぽつりと呟いた繋の声は眠る結には聞こえていなかった。






 -----------










「結」

 出掛けるから準備しろと繋が結に何かを手渡す。

「その格好じゃ目立つ」

 制服はこの辺では珍しすぎる格好だ。

 だから、着物を用意した。

「······あの~···実は私···」


 着物の着方を知らない。

「だろうな」

 だからいつも制服を着ていたのだろうと言うのは把握済みだ。

「じゃなきゃ、タンスに入っている着物を肥やしにしねぇだろ」

 一応、屋敷の着物をいくつか支給していたのにも関わらず結は同じ制服を毎度洗濯して着ていた。

「この際だから着物の着方を覚えろ」

「······はい」

 それにしても手渡された着物だが、随分と綺麗な柄の着物だ。

「よそ行き用のだ」

「でも、これ····」


 見るからに高そうなその着物に自分が袖を通すのは気が引けると返そうとするが、たまには洒落て外に出ろと繋が言う。

「着付けは私に任せて~」

「え?!」

 いつの間にか後ろにいたムギに手を引かれて自室の方へと結は連れていかれた。


「しっかり別嬪にしてくれや」


 そんな二人を笑いながら見送りながら振り返ると


「何処に行くの?」


 姫雛が壁によりかかって繋に聞く。


「ちっとした買いもんだ」

「その割に随分といい着物渡してたじゃないの」

 あんな小娘にと姫雛が不服そうに呟く。


「そんなにあの子が気に入ったの?」


 相手は人間。
 そんな下等生物の何処がいいのか姫雛にとって理解出来ない。
 

「あの子は長を縁とか言う死んだ恋人と面影を被らせてんのよ」

 人間の分際で繋を利用しようとしている。

 姫雛はそんな人間の子供を傍になんて置くなと忠告をする。


「結はそんな奴じゃねぇよ」


 縁のことは既に聞いている。
 葛藤をしている姿も見てきた。

 それに、仮にもし利用をしていたとしてもだ。


「上塗りすればいいだけだろ」


 そんな死んだ奴の事なんて忘れさせてやればいい。

 少しづつ少しづつゆっくりと。
 そんな事を言いながら繋は小さく笑った。
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