死に別れた縁と私と異界の繋

海林檎

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 繋の身の回りの世話。
 秘書みたいな仕事内容をするのだろうか。

「秘書っつーのはよくわかんねぇけどまぁ茶を組んできたり着替えを手伝ったり飯を持ってきたり下げたり·····」

 そう言う事ならと首を縦にふろうとしたが····

「休憩中に膝枕したり風呂の時背中流したり、夜寝る時の抱き枕になったり」

「スケベ!!」

 まだ頷かなかった自分を褒めてあげたい。

「閨事を強要したわけじゃねぇ。そんくらいも出来ねぇなら何が出来んだァ?」

 それを言われれば結はぐうの音も出ない。


 この世界の住人の様に優れた能力なんて結は持っていないのだ。

「ゃる····やります」

 それが今自分に出来る唯一の事ならと結は覚悟を決めた。

「魂売るわけじゃないんだから気楽にやれよ」

 そう言って繋は雇用契約書を結に渡した。
 それに名前を書けば正式に屋敷の従業員として雇われる事となる。

「筆は····」

 繋が細筆を手渡そうとした時だ。

「あ、ペンなら持ってる」

 と、胸ポケットに入れていた油性ペンで結はサインを書いていた。

「·····何だそれ?」

 細筆よりも細い文字で名前を書いている。
 この世界にはそんな書く道具は無い。

「ちょっと見せてくれ」

「あ、はい」

 手渡されたペンをまじまじと見る繋。
 現代日本の普通の家庭に置いてある油性ペンはこの世界では珍しい物のようだ。

 繋が紙を敷いて何かを書けば「おぉ」と、驚いた声を上げた。
 それが少し面白くて可愛いだなんてつい思ってしまった結の顔が綻ぶ。

「暫くこれ、借りてもいいか?」

「え?あ···どうぞ」

 一緒に持ってきた学校指定のリュック型の鞄の中にまだあるから別に一本くらい持っていても問題ない。
「良かったらあげる」と結が言えば「良いのか?」と、驚かれた。

「すげぇな。人間界の癖に俺らよりも画期的なもん持ってんじゃねぇか····」
 目をキラキラさせて失礼な事を言う繋が何だか子供のようだった。

 子供····と、言うより生前元気だった頃の縁の面影と被る。

 この人と縁を一緒にしてはお互いに失礼だと思った結は首をブンブンと横に振った。

「·····どうした?」

 それが怪しく見えたのだろうか。
 繋が不審な目でこちらを見る。

「何でもない!」

 何はともあれ結の就職先はこれで決まった。
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