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14話、「食」

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 ゲームをそこそこ進めたところでセーブして。

「シロー。晩ご飯はどうしますか?」

「ああ、晩飯は……そろそろ肉が食いたいな」

「お肉ですか……高く付きますね」

 スラムの出、ということもあってか何でもかんでも金に行くようになっているのだろうか。思わず苦笑して「せっかくだから食いに行こうか」と提案するも、「それこそお高く付きますよ」と一蹴されてしまった。

「この世界の肉ってどんなのだっけ」

「イノッシというモンスターのお肉が主流ですね、……固いですが」

 それでも“食べたい”と言いたげな表情をするアリスに、今晩は肉で決定だな、と頷く。

 毎度のことのように市場へ行けば見慣れた顔ぶれが揃っていた。今じゃここも常連と言っても過言ではないだろう。

 ……いや、過言か。数日程度で常連はないな。

 そんなことを思いながら、それこそ毎度のようにアリスに手を引かれながら歩けば、肉を卸している露天の前へと辿り着く。

「らっしゃい! お、新顔さんだね! うちのイノッシは新鮮で美味いぞ~!」

 元気、を通り越した大きな声量で言われながらも、並べられた肉を見る。

「兄ちゃん、肉に合う塩は如何かな?」

 塩……塩。確かに肉を焼くなら必須だな。

「もらおうかな」と先に答えて、肉に鑑定をする。



『イノッシの肉 Lv3
 普通のイノッシの肉』

『イノッシの肉 Lv1」
 固いイノッシの肉』

『イノッシの肉 Lv5
 柔らかいイノッシの肉』



 ――これだ!

「このイノッシの肉を、600……くれ」

 Lv5のイノッシの肉を指差しながら、内心焦る。

 やべぇ、グラムとかキロとかそこらの互換の単元を忘れてた。

「あいよ! このイノッシの肉、600ジーな! 太っ腹だなぁ、新顔の兄ちゃん!」

 ジー……g、グラム? もしかしてローマ字読みで当てはめてくれてるのか? 日本人に優しいかよ。

 ありがとう、エルア王国。

「ああ、じゃあ代金は……これで」

 目を丸くしたアリスが、肉と塩の代金を支払う俺を見ていた。

 おかしいことをしただろうか。

「シロー、600ジーって……」

 どこか声が震えている気がする。まずいことをしたか――。

「そんなに買って大丈夫なんですか……?」

 ああ、これは金の心配だな。理解した。

「まだ金はあるし、飯にかける金をケチっちゃしんどくなるだけだから」

 にぃっと笑うと、「そういうものなのですか……」と、考え込んでいる様子だった。

 俺達日本人は食に興味があり、美味いものを食って、美味いものを欲する。それは当たり前だったし、美味いものなら金を惜しまないという人間のほうが少ないのではないかと思っている。

 ただそれは日本という、割りかし裕福であり、金銭的余裕があり、そもそも就労して定期的に金を入手できるという環境があったからだ。

 この世界のように、美味いものを食いたいからと命を捨てても良いと思っている日本人なんてきっと居ないのだろう。

 だから俺が異質に見えるだけで。だから、こう問うてやるしかなかった。

「……今後、節約するか?」

「…………」

 これは『俺の気持ちを尊重したい』と、『そうしてほしい』が混ざった沈黙な気がする。純粋に表情に表してくれるアリスだからこそ察せたようなものだが。

「まぁ、俺が主人ってなら付き合ってくれよ、な」

 黙りこくったアリスを見ながら、塩と肉を受け取り、今度は俺が手を引いて市場を出た。


 帰路の途中。

「……シローは……」

「ん?」

「シローはどうして、私にこんなに良くしてくれるんですか……?」

 ああ。そういう考えに至っていたのか。確かにアリスの生い立ちから考えれば、きっと“大切にされること”が少なかったのだろう。まぁ、そのことを考慮しても、しなくても……。

「一緒に行動して、飯食って、一緒に寝てさ。もう家族のようなもんだろ」

 だろ? そう笑いかければ、アリスは固まっていた。

「かぞく……」

 信じられない、その思いが籠もっているであろう小さな一言を零せば、涙を溢れさせる。

「家族って、思っていいんですか……」

「ああ」

 不安だったのだろうか。良くしていた代償に何かが必要だとかなんとか。それとも、優しさに慣れていないのか。

 慣れていないなら、少しずつ慣れていってもらおう。

 これが俺だから。

「アリスが俺をどう思ってるかはわからないけど、俺はアリスのことを家族だって思ってるよ」

 その言葉でアリスの涙がぼろぼろと滝のように流れていった。

「はい、……っはい……」

 泣きながらも笑うアリスは美しいと思った。……同性なのにな。

「今日は肉だし、明日は依頼が入ってるんだ、泣いてちゃ元気がなくなるぞ?」

 くっくと笑えば、「そうですね」と涙を拭いながら笑いかけてくれる。

「……じゃ、帰ろうぜ。俺達の家にさ」

「……はい!」


 そう言って、アリスは俺に満面の笑みを見せてくれたのだった。
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