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化け物
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身長百八十センチを優に超えるだろう大男が廊下の角に手を突き、こちらを覗いている。なにやらプロレスのマスクのようなものを被っている。つぎはぎでかなりボロボロだったが顔の肌は一切見えなかった。
ただ二つの穴から覗く爛々とした目からするに、明らかに様子がおかしく、その挙動、風貌から海外ホラー映画に登場する殺人鬼のようだった。
人は本当に恐怖した時、声が出ない。息を飲んだまま、体が硬直した。
総合格闘技で使うオープンフィンガーグローブを付けていて、その拳を振り上げた。まるで話が通じそうにない。目は血走っているし、何やらずっと唸っている。
「部長さん、どいてな」
雷伝の背後から、拳銃を握り人格が変わった一風が銃口を向けた。左腕で雷伝を庇い、発砲する。
プロレス男の顔面飛ばされた弾丸は大根のように太い腕で全て弾かれた。距離として数メートルから放たれたBB弾は秒速七十メートルで皮膚に食い込む。上腕で受け止めたにせよかなり痛いはずだ。
だがこのプロレス男、全く効いていない。
それどころが拳銃に対して手を覆いかぶせてきた。本当に痛みを知らない怪物ではないか。学校の七不思議でも深夜に徘徊するプロレスマスクの怪物なんて聞いていないぞ。
「灯! いったん離れろ!!」
「畜生!」
一風が背後に飛び上がり、攻撃を回避する。覆いかぶされた手は床に打ち付けられ、畏怖する音が響いた。あんな馬鹿力で殴られた日には死んでしまう。
一風は効果が無かった拳銃をバックパックの中にしまい、他の拳銃を取り出した。先程まで使っていたのがベレットM92Fであるのに対し、次にバックパックから引っ張り出したのは長物、名称はレミントンだった。
第二次大戦時から継承されてきたアメリカの名銃である。同じおもちゃの銃でも種類があり、それぞれの威力が異なる。
そこへさらにリロードしたのは一風が違法に製造したゴム式BB弾だった。通常のBB弾比べて重く、威力が半端なく強い。ハリウッド映画の刑務官が持っているゴム弾を踏襲した改造であり、あれほどではないが当たれば尋常じゃなく痛いだろう。
一風は膝をつき、目をサイトに近づけた。立ち上がる対象に狙いを定めて、トリガーを引く。
放たれた銃弾はプロレス男の額に命中した。男はぐっとのけ反り、大きな図体が後ろに倒れそうになる。それでもなお悶絶していないのだから恐ろしい。本当に悪魔の類でないかと思われる。
「今のうちに逃げるぞ部長」
「ああ、とにかくここは一旦離れて……」
二人が背を向け、立ち去ろうとした瞬間、背中に悪寒が走った。あの男まさか……
先ほどまで狼狽えていた男がもうそこまで迫っている。拳を振り上げ、蛍光灯のすぐ下まで飛びあがっているではないか。
まずいっ
咄嗟にレミントンの銃身で防御するが、その力が込められた拳の一撃で背後に飛ばされた。一風の小さな体は消火栓に打ち付けられ、衝撃でレミントンが手から離れた。
むなしく滑っていく切り札をうつろな目で眺める。近代兵器が効かない男は鋭い目を雷伝に向けた。
「貴様、何者だ!」
男は答えない。じっと見つめるだけで、会話ができるようには思えない。
「裏サイト陣営の手先というわけでは無さどうだな……」
雷伝は立ち上がると、眼帯に手をかけた。そして大きく息を吸い、眼帯を脱ぎ捨てる。
そして瞑っていた目をかっと見開き、口上を上げた。
「この銀河の英雄と謳われし我の失われた隻眼を解放する! もうこれで死角はない!!」
雷伝はファイティングポーズを取り、不気味な笑みを浮かべた。
真打登場、そんな雰囲気を放ち、強い存在感を放った。ただし距離は十メートル近く離れている。戦う気満々で堂々している〝風〟に見せている。雷伝はあろうことか一風の亡骸を置いて、高速で後退していた。
「この我を怒らせてしまったな、貴様!」
などといういかにもな台詞を吐き、いかにもな態勢を取っているのに下半身は正直にバック走行をしていた。
だがこの男、力がある上に足も速い。そんな熊と出会った時のような逃げ方ではすぐに追いつかれる。
瞬きをするたび、コマワリのように距離を詰められているではないか。このままだとやられる。
ヤバい……
そしてコツン……
バック走行が止まった。ついに行き止まりまで来てしまったらい。気が付いた時には壁があった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て……」
がくがくになった膝から力が抜け、体は勝手に座り込む。
「窮鼠猫を嚙む」
ということわざを思いのまま口に出したが、口に出しただけである。言霊はそこまで便利ではない。
「そ、そうだ。話し合おうではないか。貴様の要求は何だ?」
男はそんな言葉を無視して、拳を振り上げた。
やられる!
そう思い、顔を覆ったが、痛くない。
何が起こったのだ。恐る恐る目を開けると、そこには亀甲縛りをした背中があった。
「部長、ご無事ですか」
「岩寺!」
ただ二つの穴から覗く爛々とした目からするに、明らかに様子がおかしく、その挙動、風貌から海外ホラー映画に登場する殺人鬼のようだった。
人は本当に恐怖した時、声が出ない。息を飲んだまま、体が硬直した。
総合格闘技で使うオープンフィンガーグローブを付けていて、その拳を振り上げた。まるで話が通じそうにない。目は血走っているし、何やらずっと唸っている。
「部長さん、どいてな」
雷伝の背後から、拳銃を握り人格が変わった一風が銃口を向けた。左腕で雷伝を庇い、発砲する。
プロレス男の顔面飛ばされた弾丸は大根のように太い腕で全て弾かれた。距離として数メートルから放たれたBB弾は秒速七十メートルで皮膚に食い込む。上腕で受け止めたにせよかなり痛いはずだ。
だがこのプロレス男、全く効いていない。
それどころが拳銃に対して手を覆いかぶせてきた。本当に痛みを知らない怪物ではないか。学校の七不思議でも深夜に徘徊するプロレスマスクの怪物なんて聞いていないぞ。
「灯! いったん離れろ!!」
「畜生!」
一風が背後に飛び上がり、攻撃を回避する。覆いかぶされた手は床に打ち付けられ、畏怖する音が響いた。あんな馬鹿力で殴られた日には死んでしまう。
一風は効果が無かった拳銃をバックパックの中にしまい、他の拳銃を取り出した。先程まで使っていたのがベレットM92Fであるのに対し、次にバックパックから引っ張り出したのは長物、名称はレミントンだった。
第二次大戦時から継承されてきたアメリカの名銃である。同じおもちゃの銃でも種類があり、それぞれの威力が異なる。
そこへさらにリロードしたのは一風が違法に製造したゴム式BB弾だった。通常のBB弾比べて重く、威力が半端なく強い。ハリウッド映画の刑務官が持っているゴム弾を踏襲した改造であり、あれほどではないが当たれば尋常じゃなく痛いだろう。
一風は膝をつき、目をサイトに近づけた。立ち上がる対象に狙いを定めて、トリガーを引く。
放たれた銃弾はプロレス男の額に命中した。男はぐっとのけ反り、大きな図体が後ろに倒れそうになる。それでもなお悶絶していないのだから恐ろしい。本当に悪魔の類でないかと思われる。
「今のうちに逃げるぞ部長」
「ああ、とにかくここは一旦離れて……」
二人が背を向け、立ち去ろうとした瞬間、背中に悪寒が走った。あの男まさか……
先ほどまで狼狽えていた男がもうそこまで迫っている。拳を振り上げ、蛍光灯のすぐ下まで飛びあがっているではないか。
まずいっ
咄嗟にレミントンの銃身で防御するが、その力が込められた拳の一撃で背後に飛ばされた。一風の小さな体は消火栓に打ち付けられ、衝撃でレミントンが手から離れた。
むなしく滑っていく切り札をうつろな目で眺める。近代兵器が効かない男は鋭い目を雷伝に向けた。
「貴様、何者だ!」
男は答えない。じっと見つめるだけで、会話ができるようには思えない。
「裏サイト陣営の手先というわけでは無さどうだな……」
雷伝は立ち上がると、眼帯に手をかけた。そして大きく息を吸い、眼帯を脱ぎ捨てる。
そして瞑っていた目をかっと見開き、口上を上げた。
「この銀河の英雄と謳われし我の失われた隻眼を解放する! もうこれで死角はない!!」
雷伝はファイティングポーズを取り、不気味な笑みを浮かべた。
真打登場、そんな雰囲気を放ち、強い存在感を放った。ただし距離は十メートル近く離れている。戦う気満々で堂々している〝風〟に見せている。雷伝はあろうことか一風の亡骸を置いて、高速で後退していた。
「この我を怒らせてしまったな、貴様!」
などといういかにもな台詞を吐き、いかにもな態勢を取っているのに下半身は正直にバック走行をしていた。
だがこの男、力がある上に足も速い。そんな熊と出会った時のような逃げ方ではすぐに追いつかれる。
瞬きをするたび、コマワリのように距離を詰められているではないか。このままだとやられる。
ヤバい……
そしてコツン……
バック走行が止まった。ついに行き止まりまで来てしまったらい。気が付いた時には壁があった。
「ちょ、ちょ、ちょっと待て……」
がくがくになった膝から力が抜け、体は勝手に座り込む。
「窮鼠猫を嚙む」
ということわざを思いのまま口に出したが、口に出しただけである。言霊はそこまで便利ではない。
「そ、そうだ。話し合おうではないか。貴様の要求は何だ?」
男はそんな言葉を無視して、拳を振り上げた。
やられる!
そう思い、顔を覆ったが、痛くない。
何が起こったのだ。恐る恐る目を開けると、そこには亀甲縛りをした背中があった。
「部長、ご無事ですか」
「岩寺!」
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