おじ専女子の望まぬモテ期

蛭魔だるま

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 家に帰ってからも考えるのは真琴のことばかりだった。真琴は自分の嫌いな人にはとても厳しい。あのグループの中で一番気を付けるべき人物だから。

 私は鞄を放り投げ、ベッドに倒れこんだ。
 思い出したくない記憶の蓋が開き始めた。

『緋色ちゃんあーそーぼ』

 小学4年生のとき、一番仲の良かった凛ちゃん。遊ぶとき、どこかへ行くとき、グループになるときいつも私を誘ってくれる子だった。

 小学4年生は、男女を意識し始め、学年でも1組や2組カップルが成立し、女子は女子、男子は男子という雰囲気が出来始めていた。
 でも私は、男女を気にせず接していたし、むしろ馬鹿なことをしてくれる男子と話す方が楽しいとさえ思っていた。クラスの席は男女隣同士、授業や休み時間は男子と、放課後は凛ちゃんや女子と遊ぶ感じだった。
 皆もそうだったら幸せだったと思う。

『緋色ちゃん、あのね、私冬弥君のこと好きなんだ。緋色ちゃん、応援してくれるよね?』

 当時私が一番仲の良かった男子だった。でも、一番仲の良い男子と女子が付き合ってくれるなら私も嬉しい気がして、彼女をサポートした。

『緋色ちゃん、冬弥君の好きなタイプ聞いてきて』
『冬弥は、髪はショートで可愛くて元気な子がいいって』
『緋色ちゃん、一緒のグループに誘って』

 私は凛ちゃんの手となり足となり動いた。

 問題はバレンタインに起こった。

『チョコミルクでいいかな。甘すぎるかな』
『ビターも買っておいたら?』
『そうする』

 バレンタイン当日、私が教室に入ると凛ちゃんは泣いていた。

『どうしたの?』
『緋色ちゃん最低ー。凛ちゃんのチョコにビター入れて苦くしたんでしょ?』
『そのせいで冬弥君に振られたんだって』
『謝りなよ』

 今思えばレシピ通り作れ、ビター全部入れるなとか色々思うところもあるが、当時の私からすると、女子全員から敵意を向けられたことが怖くてそのまま家に逃げ帰った。
 その日、家に冬弥がやってきた。

『大丈夫?ごめん、俺緋色のこと好きで、だから凛の告白断ったんだ。俺のせいでごめんな』
『…帰って』

 怒りよりも先に気持ち悪いと思ってしまった。友達だと思っていた人は私に好意を向けていた。裏切られたような気持ちがあった。彼が自分に酔っている感じも、彼の断り方のせいで嫌われたのも全部全部嫌になった。

 私は朝、家の扉を開けるのが怖くなった。
 それは、5年生になっても続き不登校になっていた。

 私を助けてくれたのは、母の友達の息子だった。小さいころはよく遊んでいたが、6歳も年が離れているので疎遠になっていた。
 彼との再会は突然だった。私がいつものように朝家の扉を開けれずに蹲っていたとき、扉が急に開き、私に彼の手が伸びてきた。私の手を掴む…ではなく、私をそのまま持ち上げ、小脇に抱え学校へ連れてかれた。

『帰り、迎えに来る。いいか、お前が早退とかしたら俺はずっとここで待つことになる。通報されてお前のせいで捕まるかもしれない。絶対に来いよ』

 私は何度も頷いた。顔見知りとは言え、小柄な小学5年生に対し、大柄な男子高校生は怖く、大人のように見えた。なにより、彼が私のせいで逮捕されるのは駄目だと思い、そのまま学校で1日過ごした。

『よう』

 私が校門で待っていると藍ちゃんは来てくれた。手を繋いで、一緒に家に帰ってくれた。

『どうだった?学校は』
『普通だった』
『普通って?』
『もっと虐められると思ってたし、なんか言われると思ってた。話しかけてくる子もいたけど、でも、特に何も起こらなかった』
『漫画じゃねぇんだ、そんなもんだろ。明日からも来てやる。寝坊すんなよ』

 藍ちゃんは、私が小学校を卒業するまで一緒に登下校してくれた。放課後はどこかへ連れて行ってくれたり、彼が行っている地域の剣道クラブを見学したり、一緒に勉強したりと面倒を見てくれた。

 中学に入ってからは、私に高校生の恋人がいると噂になっており、寄ってくる男子はいなかった。自分に近い男性が担任だったため、恋をしながら快適な中学校生活を送った。

 藍ちゃんはいいお兄ちゃんって感じで恋愛感情はなかったと思っていたけれど、今思えば彼が初恋相手だったのかもしれない。お互いこれが原因で恋愛対象はこじれていったし。

 少し落ち着いた私は、藍ちゃんに電話をかけた。

「もしもし、今大丈夫?」
「大丈夫じゃなかったら出てねぇよ。なんかあったのか?」
「今度暇なときご飯行きたいなーって。かっこいい人見つけた、聞いて」
「そっ。後でスケジュール見て連絡するわ」

 電話はそっけなく切られたがいつものことなので気にしない。
 私は助けてくれた彼のように自分を守ってくれそうな大人を好きになったし、彼はロリコンへと成長した。彼曰く、背が小さくて頭が弱い合法ロリがいい、らしい。
 お互い後悔はしていない。
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