一番のクズは…

蛭魔だるま

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私10

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彼の要望で居酒屋に来た。 私たちは個室に通され、いつも通り私は夫の向かいに座った。 

「なぁ、こういうときって普通夫婦が隣に座るもんじゃねぇの?」 

「そうか?」 

「そうなの?」 

「あーはいはい、お前は俺の隣がいいもんねー」 

彼はそう言って私の頭を撫でながら横に座った。 

「後から座ってきたくせに」 

彼はお酒に強くガンガン飲んでいく。夫はそんな彼にペースを乱されたのかしばらくすると酔いつぶれた。 

「あーりゃりゃ、寝ちゃったか」 

彼は夫の頬をツンツンと突いた。 夫が寝ているのを確認し、満足した彼はあろうことか私を引き寄せそのままキスしてきた。 

「いやっ」 

私は引きはがそうとするが、彼はびくともしなかった。 

「ねぇ、今あいつが起きたらどんな反応するかな」 

彼は悪戯っ子のような笑顔で聞いてきた。 

「…反応するのかなぁ。この人、私にきっと興味ないよ」 

「…ふーん」 

無抵抗になった私を彼は抱きしめ、至る所にキスしてきた。 私はされるがままになりながらも、じっと夫を見ていた。

 本当に今起きたらどうなるのだろう。彼は怒るのだろうか。 

結局夫は酔いつぶれたまま終わった。彼が夫を背負い、タクシーに乗せ、家についた後も寝室まで運んでくれた。 

「ありがと」 

彼は私に軽いキスをした。 

「お駄賃ね」 

彼は私の頭を撫でて帰っていった。 

次の日、私は少し実験をしてみた。 朝洗面所で顔を洗っているとき、首元にキスマークをつけられていたことに気付いた。 

私はあえて隠さずそのままにしてみた。ただ、夫がどんな反応するのかが見て見たかった。 

浮気してさらに夫の愛を試すだなんて私もクズだなと思う。私にも彼と同じクズの血が流れているのだろう。 

怒られても、別れを切り出されても、取り乱されても、刺されようとも全て受け入れる気ではいた。 

ドアが開いて夫が顔を出した。 

「おはよう」 

「おはようございます」 

彼の目線が下がり、目を見開いた。

気付いた。

しかし、彼は何もしなかった。 

「ご飯は?」 

「…あ、うん」 

何事もなくいつも通りご飯を食べ、会社へ向かっていった。 

夫は私をどう思っているのだろうか。
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