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9話「お帰り」
しおりを挟む「よっちゃんいい?猫田運送、今日休みでしょ」
「いいよ。初子さん。今洗濯物干し終えるから入って」
「猫田運送は休みだけど、午後からお弁当屋さんとお掃除の仕事には行くよ」
「サッチャンもいないんだし、3つも掛持ちなんて体持たないよ。ひとつに絞ったら」
「あれから7年か・・・サッチャンから連絡は?」
頭を横に振るよっちゃん。
「安男さんが亡くなったってハガキと次の年に『元気だけどいろいろあって帰れない』って」
「安男さんのことだ、借金の肩代わりさせられているのかも知れない。
サッチャンも、詳しく知らせるとうちらに迷惑かけると思ってんだ。水臭いね本当に・・・」
「サッチャン、 ちゃんと食べているかな?大丈夫かな・・・」
「よっちゃん、駄目だよ泣いちゃ、午後から仕事だろう。あたしまで泣けてきちゃうよ」
よっちゃんと初子さんが抱き合って泣いていると、
ドアの下の方を小さくコツコツ叩く音がする。
「ん?何の音?」
よっちゃんが開けるとそこには3歳くらいの小さな男の子とサッチャンが立っていた。
「サッ・・チャン・・・」
その声を聞きつけ初子さんも飛び込んできて、三人は抱き合って号泣。
真ん中に挟まれた男の子が
「苦ちい・・」
三人は一挙に飛びのき、初子さんが
「誰?・・・」
サッチャンはちょっと照れながら
「私の子、私の幸とよっちゃんの良で幸良(ユキヨシ)って言うの」
よっちゃんはかがみ込み幸良(ユキヨシ)の頭を撫でながら、
「じゃあユッキーちゃんかな?よっちゃんだよ。よろしくね」
「初子おばちゃんだよ。よろしく」
幸良は初めてなのに すぐに二人になついた。
「よっちゃん、初子さん、ただいま」
「無事でよかった。お帰り サッチャン・・・」
「待ちくたびれたよ。サッチャン、お帰り」
『やっと帰れたんだ』
「サッチャン、初めてあった時と逆だね。安男さんとサッチャンが、今度はサッチャンとユッキーちゃん」
「本当だ、男女が逆だわ」
今度は笑い始める3人、つられてユッキーも笑う。
「そんなことよりお腹空いてるんじゃない?ご飯だ、ご飯だ出前を取るか!
あっ、よっちゃん午後の仕事どうするの?休んだら?」
迷うよっちゃん。
「よっちゃん、行ってきなよ。もう逃げも隠れもしないよ。ユッキーと待ってるから、
積もる話が山のようにあるし」
「そうだ、そうだ。その間私が逃げないように見張っとくよ」
「もう やだ初子さんたら」
そわそわ しながら出て行くよっちゃん
「よっちゃんは相変わらず律儀だね」
「そうだよ。だからみんなも信用するし、慕いもするんだ。
ああ見えて、猫田運送の経理もやってるんだよ」
「そうなんだ。よっちゃん、頑張ったんだ」
「サッチャンがいなくて寂しいのもあったんだろうけど、あれからずいぶん勉強したからね」
「初子さん本当にごめんなさい。よっちゃんにも謝らなきゃ」
家の中は何も変わらず7年前のまま、綺麗にして自分がずっとここにいたような気持ちにすらなる。
ちょっと古いけど天気のいい日には干していたのだろう、お日様の匂いのするふかふかの私の布団に
ユッキーを寝かしつけながら、
「よっちゃんは疑うことなく、変わることなく、私を待っていてくれた。だから私は帰ってこれたんだ』
そう思うと有難くて涙が止まらなかった。
あの時のようによっちゃんの夜食の用意を始めていると、あの足音とは違ういつもの よっちゃんのでも、
慌てたような足音が近づい来て、
「ただいま、サッチャン!」
この足音で親父に連れ出された時のトラウマは消えた。
「ああ、居てくれた」
ほっとした顔で微笑む よっちゃん。
「お帰りなさい。よっちゃん、夜食出来てるよ。あの日のやり直しだ」
「ありがとうサッチャン、あ・・あ 7年前の?そうだね。でも、ユッキーチャンが・・ユッキーちゃんは?」
「ふっかふかの布団でもう寝てるよ。布団干して待っててくれたんだね。よっちゃん、ありがとう。
それから居なくなってごめん。ああ、また涙出てきた・・・」
よっちゃんは昔と同じように優しく私の頭を撫でながら、二人は泣いた。
そして、17歳の日に連れ出され癌の父の面倒を見ながら、介護の勉強とバイトをし、あんなに憎んでいたのに
父の若い頃の話、母との話、よっちゃんとの話、いろんな話をして父の最後は感謝して逝き、海に返したこと。
よっちゃんのもとに帰ろうと思ったが、今迄の分と病院代などで300万近くの借金を抱え、
返すために仕事を掛け持ちしてたこと。
そんな時、寂しさから魔が差したようにバイト先で優しくしてくれた男と同棲し、子供が出来た途端に
男がいなくなり、その後、子供を抱え借金を返しながら生きてきたこと。
借金を返し終わった時、どうしてもよっちゃんに会いたくなって来てしまったことを、
時を忘れて夢中で話し続けた。
「サッチャンも苦労したね」
よっちゃんは涙ぐみながら静かに聞いてくれた。
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