むしょうのあい

池 尚穂

文字の大きさ
上 下
4 / 13

4話「サッチャン、学校行かなきゃ・・・」

しおりを挟む
 初子さんは、よっちゃんと同じぐらい優しく、物知りで面倒見の良い仲良しのおばちゃんだ。

 「よっちゃん、こりゃ あんたの苦手な役所で調べるしかないよ」
 「サッチャンのだめだものやるよ」
 『よっちゃんの苦手・・・?』
 私をよそに慌てまくる二人。 

 よっちゃんは休みを取って、初子さんと私を連れて役所に行った。
 初子さんは 、役所のカウンターに行ったり、指示された場所に行ったり慌しく動いていたが、血相変えて飛んできた。
 「よっちゃん、あンた安男さんの籍に入ってないよ。安男さんもせめてサッチャンの入学手続きぐらいしてってよー」

 メガネをかけた能面のようにあまり表情のない福祉担当の男の人が、
 「それなら児童相談所に入ってもらうしかないんじゃないですか」
 と冷たく言い放った。

 私は、またどこかに行されるのだろうと半ば諦めていたが、
  それを聞いてよっちゃんは初子さんよりも早く
 「それは駄目!サッチャンは私が面倒見ます!」
 きっぱり宣言し、その剣幕にみんなちょっと驚いた。

 能面メガネは、
 「そうなりますと養子縁組か里親になりますが、ご夫婦の方が良いですし、収入面も・・・」

 「お金は大丈夫です。他の仕事もやろうと思っていましたから!」
 「しかし、子育ての環境としては、お一人というよりも日頃、幸(サチ)さんの面倒を見る方が誰かいないとこちらとしてもなかなか認められなく・・・」
 「児相で虐待見逃してるくせに なんでこういう時だけうるさいのよ。私が見るわよ!」
 今度は初子さんがすごい剣幕でまくしたてた。
 それでも埒が明かず、その日から能面メガネのもとに3人で毎日 しつこく通った。 

 それから初子さんはじめ、猫田運送の所長さんや区長さんにも協力してもらい、最後は能面メガネが根負けするように、よっちゃんを里親に認めてもらった。が、その分嫌がらせのように山のような書類を渡され、ちょっと間違えたらやり直し 普通でも大変なのに よっちゃんは字を書くのにとても苦労して、初子さんが教えていた。
 
 それでもよっちゃんは泣き言一つ言わず、私と一緒に住むため、学校に入れるために書類を書き、役所に提出するのを繰り返し、少し遅れたが入学できた。

 「よっちゃん手続きばっかで用意してないだろう。ほらサッチャンにランドセル」
 「いいところ持ってかれちゃったなー、じゃあ俺は文房具一式と娘のお古だけど勉強机な」
 所長と区長さんが争うように持ってきてくれた。
 学校に行けるなんて夢にも思わなかったのに、ランドセルや文具までとても嬉しかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

処理中です...