むしょうのあい

池 尚穂

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4話「サッチャン、学校行かなきゃ・・・」

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 初子さんは、よっちゃんと同じぐらい優しく、物知りで面倒見の良い仲良しのおばちゃんだ。

 「よっちゃん、こりゃ あんたの苦手な役所で調べるしかないよ」
 「サッチャンのだめだものやるよ」
 『よっちゃんの苦手・・・?』
 私をよそに慌てまくる二人。 

 よっちゃんは休みを取って、初子さんと私を連れて役所に行った。
 初子さんは 、役所のカウンターに行ったり、指示された場所に行ったり慌しく動いていたが、血相変えて飛んできた。
 「よっちゃん、あンた安男さんの籍に入ってないよ。安男さんもせめてサッチャンの入学手続きぐらいしてってよー」

 メガネをかけた能面のようにあまり表情のない福祉担当の男の人が、
 「それなら児童相談所に入ってもらうしかないんじゃないですか」
 と冷たく言い放った。

 私は、またどこかに行されるのだろうと半ば諦めていたが、
  それを聞いてよっちゃんは初子さんよりも早く
 「それは駄目!サッチャンは私が面倒見ます!」
 きっぱり宣言し、その剣幕にみんなちょっと驚いた。

 能面メガネは、
 「そうなりますと養子縁組か里親になりますが、ご夫婦の方が良いですし、収入面も・・・」

 「お金は大丈夫です。他の仕事もやろうと思っていましたから!」
 「しかし、子育ての環境としては、お一人というよりも日頃、幸(サチ)さんの面倒を見る方が誰かいないとこちらとしてもなかなか認められなく・・・」
 「児相で虐待見逃してるくせに なんでこういう時だけうるさいのよ。私が見るわよ!」
 今度は初子さんがすごい剣幕でまくしたてた。
 それでも埒が明かず、その日から能面メガネのもとに3人で毎日 しつこく通った。 

 それから初子さんはじめ、猫田運送の所長さんや区長さんにも協力してもらい、最後は能面メガネが根負けするように、よっちゃんを里親に認めてもらった。が、その分嫌がらせのように山のような書類を渡され、ちょっと間違えたらやり直し 普通でも大変なのに よっちゃんは字を書くのにとても苦労して、初子さんが教えていた。
 
 それでもよっちゃんは泣き言一つ言わず、私と一緒に住むため、学校に入れるために書類を書き、役所に提出するのを繰り返し、少し遅れたが入学できた。

 「よっちゃん手続きばっかで用意してないだろう。ほらサッチャンにランドセル」
 「いいところ持ってかれちゃったなー、じゃあ俺は文房具一式と娘のお古だけど勉強机な」
 所長と区長さんが争うように持ってきてくれた。
 学校に行けるなんて夢にも思わなかったのに、ランドセルや文具までとても嬉しかった。 
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