むしょうのあい

１話「今日からお前の母ちゃんだ」

　アパートの一室にこぎれいな身なりの女性が座りながら パラパラと漢字練習帳をめくって、あの時のことを思い出していた。
 
１話「今日からお前の母ちゃんだ」

　「こいつは幸（サチ）
　この人は幸田良江（コウダヨシエ）、今日からお前の母ちゃんだ」
　６歳の私に親父は言った。

　そこには細くて小柄な女の人が
　「よっちゃんでいいよ」
　声をかけてきたので、私がビクッとして見ると
　その人はニッコリ微笑んだ。

　これがよっちゃんとの初めての出会いだった、

　母は私が４歳の頃死んだらしく、他の事が強烈でよく覚えていない。

　親父が髪の長いすらっとした女を連れてきた。
　「サチ、今日からこの人がお前の母さんだ」　
　「子供がいるなんて聞いてないわよ」
　その人は何もせず　2ヶ月いたが出て行った。

　 次に連れてきたのは、赤っぽく髪を染め赤い爪の派手な女だった。
　　最悪なのは親父のいない時に殴る蹴るをされた。
　　あれを虐待と言うだろう。
　しばらく地獄は続いたが、他に若い男ができたのか、1年くらいで出て行った。

　その後は女の人が来ず、今度は親父が荒れた。
　「お前じゃねえよ。あいつが生きてりゃ良かったんだ・・」
　親父は 酒を飲んでは、私を殴ったり蹴ったりした。
　
　ひどい時にはパン１個置いたまま、２～３日帰ってこないこともあり、
　「お父ちゃん・・・お腹空いたよ～」
　そのうち泣くのも諦め、ゴミの中一人ポツンと暗闇を見つめていた。思い出したくもない日々。

　親父は道路工事の仕事をしていたが、最近では猫田運送の仕事を始めた。
　菓子パン２個食べられるようになったが、家賃が払えずとうとうアパートを追い出された。

　次の日、同じ職場で働くよっちゃんのアパートに連れていかれた。
　会って直ぐ、親父はよっちゃんから金をもらいパチンコ店に行った。