からっぽのガラン ~前世の記憶が蘇る世界でただ一人前世の記憶がないけど、からっぽなんかじゃないってことを証明する!~

生野三太

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第3-2話

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「え……?」
 
 エンデルさんから思ってもみなかった言葉が発せられ、僕は思わず息を呑んで驚きの声をあげた。
 
「いつの世にも人々に対して猛威を振るってきた魔王だけど、人々に危機が及ぶ度に対を成すように勇者が現れ、その危機を救ってきた。ただ、倒しても倒しても蘇ってしまう魔王の脅威から脱するため、ある時、勇者たちは魔王を倒すのではなく封印するという手段に出た。結果、平和な時が今になるまで続いているけれど、能力が徐々に減退していっている我々に対して封印されている魔王の能力はいま一体どうなっているんだろうか?もし、減退せず当時のままだとしたら?もし、なんらかの原因で封印が解けでもしたら、今の我々は復活した魔王に対抗できるのだろうか?」
「た、たしかに能力減退が確かな話だったとしたら当然危惧すべきことだと思いますけど、最近になって数値化されたステータスが一代で少し減少してた程度であれば根拠としては薄くないですか?本当に誤差かもしれませんよ!」
「もちろん、ステータスボードで確認した多少の能力の減少だけでは根拠として薄いし、私も誤差であって能力減退など私の杞憂であれと思うが、勇者たちの伝説や逸話は先ほど挙げたもの以外にもあまりにも多く各地に散らばっているし、それらは彼らを称えるために誇張されたものではなく実際にあったことなのだと私は思っている。それに人だけでなく魔物についてもだ。同じ魔物の災害であっても今より昔の方が被害が甚大だったりする。そういったことも踏まえるとやはり人も魔物も転生を繰り返す者は皆、能力が徐々に減少していっている可能性が高いと考える。可能性があるのであればやはり確認すべきだろう。なので私の説を立証するため、君にも協力をしてほしい」
 
 とりあえず話を聞いて自分の意に沿わないような話であれば断ればいいと軽い気持ちで訪ねてきたのに、思いもよらずとてつもなく大きな話になってきてしまった。
 
「今までの話が本当のことであれば大変なことですから協力するのはやぶさかではありませんが、具体的にエンデルさんは私に何をお望みなのですか?」
「君にお願いしたいのは三点。まず、他種族も含めてステータスの減退についての調査をお願いしたい。特にエルフについては魔王の封印以降、人との付き合いが希薄になり私もあまり調査ができていない現状だ。二点目は、魔王の封印についての調査だ。どういった原理で封印されているのか、また封印が今でも問題なく機能しているのかなどだ。そして、最後三点目だが、君のステータスを随時確認させてほしい。」
 
 僕のステータスを?何故?
 
「君には前世の記憶がない。それがただ前世を思い出してないだけなのか、それとも本当に前世自体がないのかは分からないが、今までに前例のない貴重な存在だ。もし転生を繰り返していないまっさらな魂を持っていたとしたら他の普通に転生を繰り返している者とは全く異なるステータスの成長を遂げるかもしれない。ステータスを確認させてもらうことで私の説の立証に繋がることを期待している」
「……分かりました。僕で力になれるか分かりませんが、是非、協力させてください」
 
 エンデルさんの言ってることの真偽は定かではないけれど、でももし、彼の言ってるいることが事実であれば人類にとってとてつもない危機が訪れるかもしれない。
僕は勇者とかそんな大層な人間でもないし、冒険者になったばかりのひよっこの自分には荷が重い依頼かもしれないけれどできる限り力になりたいと思い協力を願い出た。
 
「おお! 協力してくれるか!!」
 
 エンデルさんは僕の肩を両手でバシバシと叩き嬉しがっている。
 
「私はこれでもこの国お抱えの学者でね。依頼料には期待してくれていいよ」
「それはありがたいです」
 
 エンデルさんはこの金額でどう?とその場にあった紙にさらさらと金額を書き込み提示してきた。破格の金額に思わず驚いてしまう。紙に書かれた金額を毎月活動資金としてギルドを通して振り込んでもらえることとなった。
 
「それにステータスのこともあるから、依頼を進めていく途中に私以外からのギルドの依頼なども自由に受けてもらって構わないよ。ガランくんの成長のためにもね」
 
 まあ、それで私の依頼を疎かにしてもらっては困るがと笑いながらエンデルさんは言った。
 
「心遣い感謝いたします」
「ちなみに君には今、パーティーを組んでる者はいるのかな?」
「いえ……恥ずかしながらまだ誰とも組めていません。自分の儀式での噂を聞いた他の冒険者たちからは敬遠されてしまっていて……」
 
 僕の話を聞いたエンデルさんは口元に手をやり少し考えるとある提案をしてきた。
 
「うむ、それについて私の方から提案なのだが、この街には君以外にもな者たちが集まっていてね。その者たちに声をかけるのはどうだろうか?」
 
 エンデルさんはこのような者たちが偶然にも集まっているのは、もしかしたら女神さまの思し召しかもしれないと女神信徒らしく大げさに言う。
 
「どういった方たちなのでしょうか?」
「君のように前例のないことがその身に起こった者たちだ。」
 
 エンデルさんが言うにはボク以外にも今までであればあり得ないような事態に見舞われた人が4名もいるそうだ。
 まずは、賢者の記憶を持つという双子の姉妹。どういう訳か二人共、賢者の記憶を持っているらしい。ただ、授かったクラスが上位クラスではあるが賢者ではなくひとりは「魔導師」、もうひとりは「高位神官」だったこともあり、賢者にしか知り得ないような記憶を持っていたにもかかわらず、教会は彼女たちを賢者とは認めず、逆に賢者を騙る不届き者と罵ったそうだ。
 三人目はドワーフの前世を持つエルフの少年。転生については今までドワーフだったらドワーフへなど、同じ種族への転生しか確認されておらず、別種族への転生などは一度たりともなかったことだ。また、ドワーフとエルフは昔から折り合いが悪かったようでドワーフの前世を持つ彼はエルフの里には居づらくなってしまい、一人里を去ってこの街にたどり着いたらしい。クラスは鍛冶が得意なドワーフらしく「巨匠」とのこと。
 四人目は特殊クラスの「トリックスター」を授かった少女。なのだが前世は男性だったらしい。儀式の前までは至って普通の女の子だったようだが、儀式が終わり記憶が戻ると性格はガラッと変わり周りに自分は男だと主張し始めたそうだ。別種族への転生が今までなかったように、転生によって性別が変わるのもこれが初めてのことだ。突然、自分の性の認識が変わってしまったことでさぞかし困惑していることであろう。
 
「彼らは君と同じような境遇というだけでなく、皆とても冒険者向きの能力を持っている。仲間になってくれたら頼もしい存在になるであろう」
 
 たしかに皆、上位クラスを持っている。そんな人たちが仲間になってくれたとしたらとても心強い。
 
「それに私の研究にとって、彼らは君と同じくとても興味深い存在だ。特に賢者の記憶を持つという双子の姉妹には魔王の封印について詳しく聞く必要があるだろう。ギルドの方で彼らに話を通してもらっておくから、君からも声をかけてもらえるだろうか?」
 「分かりました。私の方で依頼に同行してもらえるよう話してみます」
 
 その後は、エンデルさんにステータスの確認してもらうと、彼は非常に興奮した様子で熱心にメモを取っていたが、まだ数レベル上がっただけのステータスではまだまだ材料不足ということで、依頼に併せてレベル上げも頑張るように言われ、今後も定期的にステータスの変化を報告することを約束し彼の家をあとにした。 
 
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