上 下
28 / 47

28話

しおりを挟む
 ウトウトとしていた僕は、ノックの音で目を覚ました。返事をするとゆっくりドアが開く。顔を覗かせたのは――

「た、大公様……!?」
「眠っていたのか。すまない」
「い、いえっ。ど、どど、どうされましたか」

 大公様……国王のご令弟様が直々にアコライトの部屋を訪ねるなんて、一体どういうことだ。本来、生涯言葉を交わすことすらできない存在だろうに。
 僕は慌ててベッドから飛び出し、背筋を伸ばした。

「そう硬くならずともよい。君に少し尋ねたいことがあってね」
「は、はい。なんなりと」
「かけたまえ」

 大公様がテーブルを指さした。僕はその椅子に座り、また背筋を伸ばす。

「フラストから聞いた。アリスは司祭の罪を認め、現在ヴァルアに全てを打ち明けているそうだ」
「そうですか……」

 大公様は僕の向かいに座り、テーブルに資料を載せた。

「君が司祭にされてきたことを、すでにヴァルアからある程度は聞いている。だが、人づてに聞いた話だと根拠が薄くてね。本人から話を聞きたい」

 ヴァルア様も同じことを言っていたのを思い出した。

「……教会に本格的に手を加えることは、それ相応の危険と金がかかる。それがこちらの誤解であれば、尚更」

 大公様のおっしゃる通りだ。万が一教会が事実を否認し、逃げ切ることができたなら、大公家は甚大な被害を被るだろう。損害賠償を請求されるだろうし、なにより、いわれない罪を問うたという理由で教会の信者を敵に回すことになりかねない。そうなれば最悪の場合、内戦が起こる可能性も考えられるのだ。

「アリスが真実を打ち明けたのだ。だから君ももう口を閉ざす必要はない。君の身に起こったことを、話してくれるね」

 僕が頷くと、大公様はほのかに口角を上げた。彼がベルを鳴らす。すぐに使用人が布にくるんだ何かを持ってきた。それをほどくと、見慣れた衣服があらわれた。

「それは……」
「ヴァルアから聞いた話を基に作らせたんだ。君は本当に、このようなものを身に付けていたのか?」

 大公様が狭い布面積の下着をつまみ上げた。もう隠すことはない。僕は小声で肯定した。

「そうか……。半分、ヴァルアの作り話かと思っていたよ。にわかには信じられん。このようなもの、下着の意味を全くなしてはいないではないか。そもそもどうやって身に着けるのかも分からぬ……」

 僕が長年付けていた下着はそんなに不可思議なものだったのか。僕にとってはペニスと尻を覆われた下着の方がよっぽど違和感がある。窮屈だし、蒸れて不快だ。

「ナスト。一度これを身に着けてみてくれんか」
「えっ?」
「これだけではどのように機能するのかさっぱり分からぬ。実際にこの目で見んことには」
「は、はい、分かりました……。それでは、アリスを呼んでいただけますか? 僕は自身の体に触れることを禁じられているので、自分で服を着替えることができないのです」
「ほう……? ホルアデンセ教にそのような掟が……?」

 大公様は考え込んだあと、「ふむ」と納得したように呟いた。

「まあ、よかろう。あいにくアリスは今聴取中なのでな。代わりにわしが手伝うとしよう」
「え!? そ、そんな、それはあまりにも恐れ多いです!!」
「そんなことを言っている暇はあるまい。良いから立ちたまえ。早く」

 何度か断り続けていたが、最後は大公様に荒い声で命令され、僕は従うことにした。
 僕の背後に大公様が立つ。キャソックのボタンを外しながら、大公様は質問をした。

「己の身に着けている服にも触れられんのか」
「は、はい。意図せず触れてしまうことはありますが、ボタンに手をかけることはありません」
「君はそれにずっと従っていたと。なんともまあ……」

 キャソック、シャツ、ズボンを順次に脱がされ、残された下着も大公様に下ろしてもらった。大公様にこんなことをさせた人、僕が初めてなのではないだろうか。申し訳なくて胸が痛む。

 生まれたままの姿になった僕を、大公様はしばらく眺めていた。

「……全身無毛だが、それも掟で?」
「は、はい。体毛は穢れを纏いやすいため、全身の体毛を剃っています。えっと、毎日、アリスに……」
「ふむ……」

 ではなぜ髪や眉毛は剃らないのだという質問に僕は答えたが、大公様はあまり納得できていないようだった。それ以上聞いても仕方ないと思ったのか、大公様は、ほとんど紐で成り立っている下着を手に取った。

「それで。どのように身に着けるのだ」
「えっと、まず金の輪をペニスに通し――」

 僕に言われるがまま、大公様は僕に下着を付けさせた。丁寧に、装飾品とペニスの位置を整えることまでしてくれた。
 大公様は下着を付けた僕をじっと見つめ、「なるほど……」と唸った。

「それで? この上にキャソックを羽織らせればいいのか?」
「はい。お願いします」
「うむ……」

 これでいつも通りの服装になった。大公様は釈然としない顔をしているが、僕にとってはこっちの方がしっくり来る。先ほどまで感じていた圧迫感がなくなり、安堵の吐息を漏らしたほどだ。

「君は、そのような格好で聖職者としての職務をこなしていたのか……」
「はい」
「ミサのときも……献金に回る時も?」
「はい。そうです」
「……なるほど。大変参考になった」

 では次に、と大公様が資料に目を通す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】

ちゃっぷす
BL
『清らかになるために司祭様に犯されています』の番外編です。 ※きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします※ エロのみで構成されているためストーリー性はありません。 ゆっくり更新となります。 【注意点】 こちらは本編のパラレルワールド短編集となる予定です。 本編と矛盾が生じる場合があります。 ※この世界では「ヴァルア以外とセックスしない」という約束が存在していません※ ※ナストがヴァルア以外の人と儀式をすることがあります※ 番外編は本編がベースになっていますが、本編と番外編は繋がっておりません。 ※だからナストが別の人と儀式をしても許してあげてください※ ※既出の登場キャラのイメージが壊れる可能性があります※ ★ナストが作者のおもちゃにされています★ ★きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします★ ※基本的に全キャラ倫理観が欠如してます※ ※頭おかしいキャラが複数います※ ※主人公貞操観念皆無※ 【ナストと非日常を過ごすキャラ】(随時更新します) ・リング ・医者 ・フラスト、触手系魔物、モブおじ2人(うち一人は比較的若め) ・ヴァルア 【以下登場性癖】(随時更新します) ・【ナストとリング】ショタおに、覗き見オナニー ・【ナストとお医者さん】診察と嘯かれ医者に犯されるナスト ・【ナストとフラスト】触手責め、モブおじと3P、恋人の兄とセックス ・【ナストとフラストとヴァルア】浮気、兄弟×主人公(3P) ・【ナストとヴァルア】公開オナニー

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

【完結】【R18BL】男泣かせの名器くん、犬猿の仲に泣かされる

ちゃっぷす
BL
大企業本社に勤める月見里 斗真(やまなし とうま)は、二十八歳にして課長代理になった優秀なサラリーマン。 真面目で部下に優しいと評判の彼には、誰にも言えない秘密があった。 それは毎週金曜日の夜、ゲイ向けマッチングアプリで出会った男性と一回限りのワンナイトを楽しんでいることだ。 しかし、ある日マッチングした相手が、なんと同僚であり犬猿の仲である小鳥遊 弦(たかなし ゆずる)だった……! 最大の秘密を握った小鳥遊は、逃げようとする月見里をホテルに連れ込み――!? ※ご注意ください※ ※主人公貞操観念皆無※

【完結】【R18BL】異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました

ちゃっぷす
BL
Ωである高戸圭吾はある日ストーカーだったβに殺されてしまう。目覚めたそこはαとβしか存在しない異世界だった。Ωの甘い香りに戸惑う無自覚αに圭吾は襲われる。そこへ駆けつけた貴族の兄弟、βエドガー、αスルトに拾われた圭吾は…。 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」の本編です。 アカウント移行のため再投稿しました。 ベースそのままに加筆修正入っています。 ※イチャラブ、3P、レイプ、♂×♀など、歪んだ性癖爆発してる作品です※ ※倫理観など一切なし※ ※アホエロ※ ※ひたすら頭悪い※ ※色気のないセックス描写※ ※とんでも展開※ ※それでもOKという許容範囲ガバガバの方はどうぞおいでくださいませ※ 【圭吾シリーズ】 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」(本編)←イマココ 「極上オメガ、前世の恋人2人に今世も溺愛されています」(転生編) 「極上オメガ、いろいろあるけどなんだかんだで毎日楽しく過ごしてます」(イベントストーリー編)

【完結】【R18BL】極上オメガ、いろいろあるけどなんだかんだで毎日楽しく過ごしてます

ちゃっぷす
BL
顔良しスタイル良し口悪し!極上Ωの主人公、圭吾のイベントストーリー。社会人になってからも、相変わらずアレなαとβの夫ふたりに溺愛欲情されまくり。イチャラブあり喧嘩あり変態プレイにレイプあり。今シリーズからピーター参戦。倫理観一切なしの頭の悪いあほあほえろBL。(※更新予定がないので完結としています※) 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」の転生編です。 アカウント移行のため再投稿しました。 ベースそのままに加筆修正入っています。 ※イチャラブ、3P、4P、レイプ、♂×♀など、歪んだ性癖爆発してる作品です※ ※倫理観など一切なし※ ※アホエロ※ ※色気のないセックス描写※ ※特にレイプが苦手な方は閲覧をおススメしません※ ※それでもOKという許容範囲ガバガバの方はどうぞおいでくださいませ※ 【圭吾シリーズ】 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」(本編) 「極上オメガ、前世の恋人2人に今世も溺愛されています」(転生編) 「極上オメガ、いろいろあるけどなんだかんだで毎日楽しく過ごしてます」(イベントストーリー編)←イマココ

【完結】【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす
BL
Ωであることを隠して生きてきた少年薬師、エディ。 両親を亡くしてからは家業の薬屋を継ぎ、細々と生活していた。 しかしとうとう家計が回らなくなり、もっと稼げる仕事に転職することを決意する。 職探しをしていたエディは、β男性対象で募集しているメイドの求人を見つけた。 エディはβと偽り、侯爵家のメイドになったのだが、お仕えする侯爵令息が極度のΩ嫌いだった――!! ※※※※ ご注意ください。 以下のカップリングで苦手なものがある方は引き返してください。 ※※※※ 攻め主人公(α)×主人公(Ω) 執事(β)×主人公(Ω) 執事(β)×攻め主人公(α) 攻め主人公(α)×主人公(Ω)+執事(β)(愛撫のみ) モブおじ(二人)×攻め主人公(α)

【完結】【R18BL】早漏な俺を遅漏のルームメイトが特訓してくれることになりました。

ちゃっぷす
BL
ありえないくらい早漏の主人公、爽(そう)。 そのせいで、彼女にフラれたことと、浮気されたこと数知れず。 ある日また彼女に浮気されて凹んでいると、ルームシェアをしている幼馴染、大地(だいち)が早漏を克服するための特訓をしようと持ち掛けてきた!? 金持ちイケメンなのにちんちん激ヨワ主人公と、ワンコなのに押しが強いちんちん激ツヨ幼馴染のお話。 ※アホしかいません※ ※色気のないセックス描写※ ※色っぽい文章ではありません※ ※倫理観バグッてます※ ※♂×♀描写あり※ ※攻めがだいぶ頭おかしい※サイコパス入ってます※ ※途中からただのアホエロではなくなります※ ※メンヘラ、ヤンデレ、サイコパス、NTR、BL作品内の♂×♀に免疫がある方のみ、お読みください※

【完結】【R18BL】極上オメガ、前世の恋人2人に今世も溺愛されています

ちゃっぷす
BL
顔良しスタイル良し口悪し!極上のΩの香りを纏わせた主人公、圭吾が転生して戻ってきた!今世でも相変わらずアレなαとβの恋人ふたりに溺愛欲情されまくり。イチャラブあり喧嘩あり変態プレイにレイプあり。倫理観は一切なしの頭悪いあほあほえろBL。 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」の転生編です。前作を読んでいない方でもお楽しみいただけるよう、前作のあらすじ等載せてます。(本編でもざっくり前作のあらすじ入れてるので注釈章を読まなくても大丈夫かと思います) アカウント移行のため再投稿しました。 ベースそのままに加筆修正入っています。 ※イチャラブ、3P、レイプ、♂×♀など、歪んだ性癖爆発してる作品です※ ※倫理観など一切なし※ ※アホエロ※ ※色気のないセックス描写※ ※とんでも展開※ ※特にレイプが苦手な方は閲覧をおススメしません※ ※スルト、エドガー、ピーター以外とのおセ話には、章に「※」マーク付けてます※ ※それでもOKという許容範囲ガバガバの方はどうぞおいでくださいませ※ 【圭吾シリーズ】 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」(本編) 「極上オメガ、前世の恋人2人に今世も溺愛されています」(転生編)←イマココ 「極上オメガ、いろいろあるけどなんだかんだで毎日楽しく過ごしてます」(イベントストーリー編)

処理中です...