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24話
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フィリッツ大公家は、領土経営の他に、あまりに大きくなりすぎたホルアデンセ教に目を光らせる役目も担っているそうだ。
「ホルアデンセ教は地位と権力を持ちすぎた。放っておいて好き勝手させていると、独自のタチの悪い風習を作り上げたり、いつか反乱を起こしかねないからね」
ヴァルア様はホルアデンセ教監視の指揮を執っている――つまり組織のトップらしい。だが、公に正体を明かすと警戒されてしまうので、表向きは甘やかされた大貴族のぐーたら坊ちゃんを演じているそうだ。
「事実、俺はそこまで真面目に仕事をしていないしね。目を盗んではサボッて昼寝しているよ」
ファリスティア教会を訪れたのも、暇つぶしではなく視察するためだったそうだ。
「俺が視察先にファリスティア教会を選んだ理由は、『あそこにはルイス王女よりも美しいアコライトがいる』と噂になっていたからだけどね。つまり、視察よりも君目的で行ったのさ。はは」
ちなみに、ルイス王女とはこの国で一番美しいとされている女性だ。そんな彼女よりも僕の方が美しいなんて、とんだでっちあげをされたものだ。
ファリスティア教会に二度目の視察に来たヴァルア様は、僕に話を聞いて教会の内情を知った。彼は大急ぎで――僕と呑気にセックスしてからではあるが――拠点に戻り報告。部下たちと今後の対策を練っていたらしい。
「実は三度目の来訪に期間が空いたのも、そういった仕事で手いっぱいだったからだ」
さらなる情報を得るため、ヴァルア様は再びファリスティア教会を訪れた。僕により詳細な事情を聞きだすために取り入ったのか、僕に会うために三度目の視察を自らしたのかは、僕には判断がつかなかった。
どちらにせよ、途中からは確実に、ヴァルア様の来訪目的が僕に会うことにすり替わっていたようだ。
しかしすぐに、毎日毎日拠点をコソコソ抜け出し、ファリスティア教会のアコライトにうつつを抜かしていることが部下にバレた。その部下が上司に告げ口して、上司がヴァルア様の兄に報告し、その兄が大公に言いつけた。結果、ヴァルア様は大公から大目玉を食らったと。
ファリスティア教会視察の担当替えの話も上がったが、ヴァルア様は床に頭をこすりつける勢いで残留を懇願したそうだ。それで、視察は週に一度しかしてはいけないと条件を出され、さらに他の仕事もたくさん押し付けられた上で、ファリスティア教会の視察任務をヴァルア様が引き続き行うことになったらしい。
「それで、一週間ぶりに来てみたら君がこんなことになっていた。すまない」
「いえ。あなたのせいではありません」
ヴァルア様は、ファリスティア教会を是正させる準備はじきに整うと言った。
「是正とは、どのような……」
「まず司祭を追放する流れで話は進んでいる」
「司祭様が……」
「あとは、それを黙認し、協力していた人たちにも処罰を与えるつもりだ」
それだと、アリスも処罰を受ける対象になってしまう……。
「他にもいろいろすることはある。ファリスティア教会全体が、今どのような状況なのかを調査して……たとえば聖職者がちゃんとキャソックの中にシャツとズボンを身に着けているかとか、変な下着やペニスリングを付けていないかとかを調べて……」
「……」
「見本となる聖職者を派遣して、聖職者の教育を一からしていくことになるだろうな」
ヴァルア様が僕の様子を窺い見る。その視線に気付いていたけれど、僕は彼と目を合わせられなかった。
「……やはり、気が進まないかな」
「……」
ヴァルア様と出会ってからは、司祭様との儀式の時間は地獄のようだった。長年僕を騙し、好き勝手していたことも、簡単に許せることではない。
でも、僕がこうして清潔な服を身に纏い、質素ではあるが三食の食事をできるようになったのは、司祭様が拾ってくれたおげなのは間違いないのだ。司祭様が拾ってくれなかったら、僕はすでに死んでいたかもしれない。そう思うと、恩を忘れるなんてこと、とてもじゃないができない。
アリスだってそうだ。彼女は全て分かった上で、司祭様に従ってきた。僕にあのへんてこりん(らしい)な服や下着を着せていたのは、他でもないアリスだ。さらに言えば、貞操帯だってアリスに付けられた。
それでも、僕にとってはアリスは家族のような存在だったのだ。こっそりと、母や姉のように慕っていた。そんな彼女に罰を与えるなんて、したくない。
「ホルアデンセ教は地位と権力を持ちすぎた。放っておいて好き勝手させていると、独自のタチの悪い風習を作り上げたり、いつか反乱を起こしかねないからね」
ヴァルア様はホルアデンセ教監視の指揮を執っている――つまり組織のトップらしい。だが、公に正体を明かすと警戒されてしまうので、表向きは甘やかされた大貴族のぐーたら坊ちゃんを演じているそうだ。
「事実、俺はそこまで真面目に仕事をしていないしね。目を盗んではサボッて昼寝しているよ」
ファリスティア教会を訪れたのも、暇つぶしではなく視察するためだったそうだ。
「俺が視察先にファリスティア教会を選んだ理由は、『あそこにはルイス王女よりも美しいアコライトがいる』と噂になっていたからだけどね。つまり、視察よりも君目的で行ったのさ。はは」
ちなみに、ルイス王女とはこの国で一番美しいとされている女性だ。そんな彼女よりも僕の方が美しいなんて、とんだでっちあげをされたものだ。
ファリスティア教会に二度目の視察に来たヴァルア様は、僕に話を聞いて教会の内情を知った。彼は大急ぎで――僕と呑気にセックスしてからではあるが――拠点に戻り報告。部下たちと今後の対策を練っていたらしい。
「実は三度目の来訪に期間が空いたのも、そういった仕事で手いっぱいだったからだ」
さらなる情報を得るため、ヴァルア様は再びファリスティア教会を訪れた。僕により詳細な事情を聞きだすために取り入ったのか、僕に会うために三度目の視察を自らしたのかは、僕には判断がつかなかった。
どちらにせよ、途中からは確実に、ヴァルア様の来訪目的が僕に会うことにすり替わっていたようだ。
しかしすぐに、毎日毎日拠点をコソコソ抜け出し、ファリスティア教会のアコライトにうつつを抜かしていることが部下にバレた。その部下が上司に告げ口して、上司がヴァルア様の兄に報告し、その兄が大公に言いつけた。結果、ヴァルア様は大公から大目玉を食らったと。
ファリスティア教会視察の担当替えの話も上がったが、ヴァルア様は床に頭をこすりつける勢いで残留を懇願したそうだ。それで、視察は週に一度しかしてはいけないと条件を出され、さらに他の仕事もたくさん押し付けられた上で、ファリスティア教会の視察任務をヴァルア様が引き続き行うことになったらしい。
「それで、一週間ぶりに来てみたら君がこんなことになっていた。すまない」
「いえ。あなたのせいではありません」
ヴァルア様は、ファリスティア教会を是正させる準備はじきに整うと言った。
「是正とは、どのような……」
「まず司祭を追放する流れで話は進んでいる」
「司祭様が……」
「あとは、それを黙認し、協力していた人たちにも処罰を与えるつもりだ」
それだと、アリスも処罰を受ける対象になってしまう……。
「他にもいろいろすることはある。ファリスティア教会全体が、今どのような状況なのかを調査して……たとえば聖職者がちゃんとキャソックの中にシャツとズボンを身に着けているかとか、変な下着やペニスリングを付けていないかとかを調べて……」
「……」
「見本となる聖職者を派遣して、聖職者の教育を一からしていくことになるだろうな」
ヴァルア様が僕の様子を窺い見る。その視線に気付いていたけれど、僕は彼と目を合わせられなかった。
「……やはり、気が進まないかな」
「……」
ヴァルア様と出会ってからは、司祭様との儀式の時間は地獄のようだった。長年僕を騙し、好き勝手していたことも、簡単に許せることではない。
でも、僕がこうして清潔な服を身に纏い、質素ではあるが三食の食事をできるようになったのは、司祭様が拾ってくれたおげなのは間違いないのだ。司祭様が拾ってくれなかったら、僕はすでに死んでいたかもしれない。そう思うと、恩を忘れるなんてこと、とてもじゃないができない。
アリスだってそうだ。彼女は全て分かった上で、司祭様に従ってきた。僕にあのへんてこりん(らしい)な服や下着を着せていたのは、他でもないアリスだ。さらに言えば、貞操帯だってアリスに付けられた。
それでも、僕にとってはアリスは家族のような存在だったのだ。こっそりと、母や姉のように慕っていた。そんな彼女に罰を与えるなんて、したくない。
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