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おまけ:十年後

おまけ:十年後の夏

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 うだるような暑さのある土曜日、スーツケースを引きずる俺は晴天の空を見上げた。

「うおぉ……あっちぃ……」

 あれから十年の月日が経ち、俺は二十六歳になった。
 高校を卒業して大学に進学した俺は、三年間大事にとっておいた首輪を付けて大学に通った。俺のツヨツヨアルファに寄って来たオメガと、俺の首輪に興味津々のアルファに囲まれる日々だったが、俺はそいつらを相手にせず日々勉強に明け暮れた。
 大学卒業後は株式会社〇〇に就職して、この三年間はミサにしごき倒されている。この前なんて、急に一週間の海外出張を命じられて訳もわからんままシンガポールに行ってきた。マーライオンが意外としょぼかった。
 そして今やっと帰国したのだが、残念ながら迎えに来たのは運転手だけだった。

「えええ!? 怜は迎えに来てねえの!?」
「はい。急用ができたらしく」
「なんでだよ!! 俺言ってあったのに!! 迎えに来いよあいつ!! ぎゃー!!」
「……」

 車の中でガキのように大暴れしている俺を、運転手はミラー越しにゴミを見るような目で見ていた。構わず俺は喚き散らした。

 怜は高校を卒業してから、約束通り株式会社〇〇に就職した。鶯巣もミサも、学費を出してやるから大学に行かないかと声をかけたのだが、怜がかたくなに断った。どうもあいつは他人に借りを作るのを嫌がる。そんなところも好きだ。
 あとは、大学に入ったタイミングで怜とあの狭いマンションで一緒に暮らすようになった。

 というのも、俺たちが高校三年生のとき、サクラさんに恋人ができたのだ。同僚のアルファで、サクラさんのことをちゃんと一番愛してくれる人だった。まだ結婚はしていないが、今はその人と一緒に暮らしている。俺もときどきサクラさんと話すことがあるが、とても幸せそうだ。

 会社に勤め始めたときから、怜はボサ頭眼鏡をやめた。高校で陰キャだとバカにされたのが相当気に入らなかったのだろう。俺が入社した頃には、会社で絶世の美人オメガとしてアイドル化していたので、今度は俺が年中ヤキモチを妬かされるハメになった。俺と番っているのであいつの匂いは俺にしか分からないのに、あの忌まわしいほどの美しい顔とスタイルに男も女もメロメロだ。むかつく。むかつくぜ。
 俺がヤキモチを妬くたびに、怜はフフンと満足げに笑うんだ。腹立つわあいつ。でもそんな怜も好きだ。

 俺も入社したとたん注目の的になった。そりゃそうだ。怜の番であり、そしてミサの息子でもあるイケメンツヨツヨアルファ様だからな。
 俺がチヤホヤされるたびに怜が嫉妬の目を向けてくるのが気持ちよくて、俺はあいつに向かってフフンと満足げに笑ってやる。そしたらその夜は怒りの騎乗位をしてくれるので、最高に燃えるのだ。がはは。

 そして去年の七月二十一日――付き合い始めてちょうど九年目になった日――俺は怜にプロポーズをした。自分の給料で稼いだ金で、精いっぱい背伸びした金額の指輪を差し出すと、怜はその場に崩れ落ちて「えーん」と子どものような泣き声を上げた。
 返事はもちろんOKだ。「もちろん」って分かっていたのに、頷いてもらえたときは俺まで泣いてしまった。俺のことを泣き虫なんて言うな。俺が泣くのなんて、怜のことでだけだ。
 ちなみに、結婚式では鶯巣とミサ、そしてサクラさんが号泣していた。とくに鶯巣がうるさかった。

 無事夫婦となった俺と怜は、今も変わらずあの狭いマンションで順風満帆ドスケベエロエロの日々を過ごしている。あ、俺は今では怜をヒンヒン言わせるくらいにはあいつの悦ばせ方を覚えたぞ。もう誰にも負けねえ自信がある。

「朱鷺さん。もうすぐご自宅に到着します」
「おー。ありがとう」

 車が停まる。玄関に迎えなし。なんだよ。あいつ寝てんのか? おい、一週間も会えなかったんだぞ!? なあ、怜さん!? 俺と一週間も会えなくて寂しくなかったの!? 俺は死ぬほど寂しかったしちんこがすでに勃っているんだが!?
 俺、シンガポール滞在中、セルフ射精管理していたので一回も射精していないんですよ! あなたとのセックスをより一層楽しむために!! ねえ、怜さん!?

 半ギレの俺は玄関のドアを蹴破る勢いで開けた。

「おいこら怜コラおらぁ~!! ……っ」

 中に入った途端、むせかえるほどのオメガ臭が俺に襲い掛かった。このきっつい匂い……まさかあいつ――

「怜!? おい、怜、どこだ!」

 ダイニングにもいない。俺の部屋にもいない。ってことは……
 俺は怜の部屋のドアをそっと開けた。

「!」

 充満している怜の匂いに立ち眩みした。いた。ベッドの上だ。俺の服という服をかき集めて、その中に埋もれている。

「はっ……ふ、ん……うぅ……」

 俺の服に顔をうずめているのか、くぐもった怜の声が漏れ聞こえる。
 俺は部屋の中に入り、ベッドに腰掛けた。

「怜」
「あ……、と、朱鷺ぃ……っ」

 顔だけ振り向いた怜の顔は赤く、目がうるんでいる。浅い息を繰り返し、俺に両腕を伸ばした。俺は怜を抱きしめ、キスをする。

「……なんで発情してんだよ。周期まだまだだろ」
「分かんな……朝からなっちゃって……。迎えに行けなくて……ごめん……」

 バカ。おまえバカ。俺と会うのが待ちきれなくて発情したんだろ。
 迎えに来てもらうより嬉しいわこの野郎。

「俺の服で巣作りしてんじゃねえよ」
「ごめ……」

 これされんの困るんだよな。怜の体液が付着した服を洗濯するのが惜しくてしばらく洗わずに置いといてしまうから、いつもあとで怒られるんだ。お前のせいなのに。

 俺は怜の下半身に目をやった。さっきまで一人でしていたのか、ズボンも下着もつけていない。それどころかまわりにある俺の服が精液と愛液でべっとり濡れている。あぁぁ……今日はこの服着て寝よ……。

「何一人でやってんだよ」
「ごめんなさっ……我慢できなくて……」
「俺は一週間も耐えてたのに」

 そんなことを言いながら、指で怜のちんこの先をくりくりいじる。それだけで怜の体がのけぞり、射精した。

「え。やば。いつもより敏感」
「あ、あ……」
「なんだよお前ほんとさぁ……」
「朱鷺ぃ……、も、焦らさないでよぉ……」

 怜は涙目で俺を見つめながら、ゆっくり両脚を開く。

「はやく……ちょうだい……」

 あぁぁぁあっ!! あっ、あーーーー!! 俺の妻が可愛すぎて死ぬ!! 好きだ結婚してくれ!! いやもうしてるけど!!

 俺は引きちぎる勢いでズボンと下着を下ろし床に投げ捨てた。怜にキスをしながらちんこをケツに当てる。

「ピル飲んでるな?」
「……」
「?」
「……飲んでない」
「はっ?」

 怜は真っ赤にした顔で、背けていた目をちらっと俺に向けた。

「……ダメ?」
「いいけど……ゴムあったかな……」

 ベッドから出ようとした俺を、怜が引き留める。

「生……ダメ……?」
「ひょっ!?」

 ダメ? って、え。え? えっ!?

「れ、怜。お前、そんなことしたら――」

 発情期のオメガがアルファの精液を中に注ぎ込まれたら、高確率で妊娠する。

 怜はキュッと目を瞑ったあと、上目づかいで俺を見た。

「朱鷺との赤ちゃん、ほしい……」
「!?!?」

 俺は目をがん開きにしたまま射精した(怜の外で)。

「お、おまっ、おまっ、じ、自分が何言ってるか分かってんのか!?」

 怜はコクコク頷き、俺にしがみついた。

「……ダメ、かな……」

 そんなしょんぼりした声を出すなあああああ!!
 俺は怜の両足をガッと掴み、大きく開かせた。そしてそのまま一気に押し込む。

「あぁぁぁっ!?」
「ダメなわけないだろ……っ!」

 俺だってずっとお前との子ども欲しかったわ……!!  俺と怜がひとつになった存在だぞ。欲しいに決まってんだろ……!! でもお前働きたいだろうし、体にも負担がかかるだろうから俺から言い出せずにいたんだよ!!

「ああぁぁっ……!!」
「ぐぅ……あぁっ、あぁぁー……」

 まじヤベェ。一週間ぶりの怜の中が発情中って、軽く死ねるくらい気持ち良すぎる。
 このセックスが子作りのためのセックスだと考えると、余計に愛しい。

 イキそうになったら腰を振るのを止めて、キスをしたり怜の体を愛撫する。そのたびに怜が中を締めつける。そのせいで、俺は血が出そうなほど唇を噛んで耐えなければならなかった。

 発情中の怜は、トロットロの顔で甘えてくる。もっともっとって、俺のちんこの限界値も知らずに快感を求めてくる。可愛い。このときばかりは、俺のちんこがもっと強かったならばと悔やむ。

「もうダメだ怜……っ。俺、限界……」
「うん……出して……」
「……本当にいいんだな、怜」
「うんっ……」

 俺は激しく怜の中を掻きまわした。怜のケツに強く抱きしめられている俺のちんこは、溺れるほどの快感を与えられて発狂しそうになっている。

「はっ、あぁっ、ぐあっ、もっ、クソッ、気持ちいっ……あっ、イクッ、イクッ――!」
「あっ、朱鷺っ、朱鷺っ……! あっ……あぁぁぁ……っ、っ、――……っ」

 びっくりするほど大量の精液が、怜の中で噴き出した。さっき一度出たとはいえ、一週間ぶりの射精だからな……。

「……まだ出てる……」
「うん……まだ止まらなさそう……」
「朱鷺の精液、きもちいい……」

 あ。やめて。そういうこと言うのやめて。またちんこフル勃起した。

 怜は俺の首にしがみつき、ずっと鼻を啜った。

「……ありがとう、朱鷺」
「ありがとう、怜」
「僕たち、三人家族になるよ」
「おう」
「どんな子がいい?」
「どんな子でもいい。アルファでも、オメガでも、ベータでも、男でも女でも。俺とお前の子どもだったら、それだけで最高の子どもだ」
「うん、僕もそう思う」

 子どもは親を選べない。親も子どもを選べないが、少なくとも俺たちは、生まれてほしくて子どもを呼んだ。
 どんなに大切に想っていても、気付かないうちに子どもを傷つけてしまうかもしれない。子どもに嫌われてしまうかもしれない。
 もし将来そうなってしまったとしても、俺と怜の両親のように、変わらず我が子を愛し続けたい。

「やべ。今から緊張してきた」
「ぼ、僕も……」

 俺と怜は見つめ合い、微笑んだ。
 夏休みに見せた夢は、これからもずっと続いていく。


【夏休みに落ちた恋 おまけ end】
(次話: あとがき)
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