46 / 74
夏休み中旬:怜
45話 8月13日:ひと夏の夢
しおりを挟む
◇◇◇
「……」
見慣れない部屋の中で目が覚めた。
しあわせな夢を見ていたんだ、僕は。
義父の呪縛から解放されて、僕を大切にしてくれる恋人ができる夢。
僕は枕に顔をうずめ、声を殺して泣いた。
あれはただの夢だったんだ。じゃなきゃおかしいもん。あんなに幸せな日々が僕に訪れるなんて、そんなの、おかしい。
どうしてもっと早く気付かなかったかな。
願望が夢になるのは、僕にとって珍しくないことなのに。
---
義父は、僕のアパートを訪れ、僕を犯したあと、僕の手を引いて新幹線に乗った。
新幹線の中で義父は言った。
「初めからこのつもりだったんだ」
「……どういうことですか?」
「ほら、あんなことがあって……怜とおとうさんは離れ離れにさせられただろう?」
あんなこと、とは、義父が僕を犯していたことが校長先生にバレて、同じく僕をレイプした教師や生徒のことをこれ以上言うのなら、義父のしたことも警察に通報すると脅されたことだ。
そのことがあって、義父は僕を遠い地に引っ越させた。
「一、二カ月してから、目を盗んで怜をこっちに連れ戻すつもりだった。そのために、怜のためにマンションを一戸買ったんだよ。今日から君は、そこで暮らす」
「え……? 実家があるのに、ですか……?」
「今さらお母さんと君を一緒に住まわせるとでも? お母さんに怜とおとうさんとの関係がバレるのはいやだからね」
お母さんは僕と義父の関係を知らない。気付かれないよう、義父も僕も細心の注意を払っていた。
でも、あんなことがあったから、義父は万が一を恐れたのだろう。お母さんがいる家の中で僕とセックスするのは気が進まなくなったんだ。
それだけじゃない。義父は、地元の人に連れ戻したことがバレないよう、僕をそのマンションに閉じ込めて、一歩も外に出さないつもりだった。
「心配しなくていい。たくさん部屋がある広いマンションだからね。ゲームもたくさん買ってあげるし、運動するマシンも部屋に置いてあげる。お父さんが毎日会いに行くから寂しくないよ。美味しいものもたくさん買ってくる」
「……」
それに、と父は言葉を続けた。
「実は、上の階にも一戸買ったんだ。これからは、接待はそこに客を呼んですることになるよ。だから怜はマンションから一歩も外に出なくていい」
最後に義父は耳元で囁いた。
「君が普段暮らす部屋では、おとうさんだけが君を抱けるんだ」
はは、と満足げに笑い、義父は窓の外に目をやった。
新幹線に乗る前に、スマホを捨てられた。これでもう朱鷺と連絡を取ることはできない。
こんなことなら、電話番号くらい覚えておけばよかった。
……と考えていることに気付き、僕は苦笑した。
たとえ電話番号を覚えていたって、もう朱鷺が僕を相手してくれることなんてないのに。
僕には朱鷺しかいないけれど、朱鷺には他にたくさん相手がいる。きっと彼は僕がいなくなっても、夏休み前と同じ生活に戻って楽しく笑う日々を過ごすんだろう。もしかしたら、一人の人を好きになることを知った朱鷺は、また別の好きな人を見つけて付き合うのかもしれない。
朱鷺が知らない人の首に噛みついているところを想像してしまったところで、僕は首を振った。
もう、朱鷺のことは忘れよう。あれは夢だったんだ。
ひと夏が見せた、ただの夢。
今思えば、毎日が夢のようだった。
そりゃそうだ。だって夢だったんだから。
その日地元に帰った僕は、見知らぬマンションに連れていかれ、朝まで義父に抱かれた。
明日僕は取引先の人六人に抱かれるらしい。
僕はもう抵抗なんてしなかった。いや、無気力になってできなかっただけなのかもしれない。
義父の腕の中で嬌声を上げている自分が、まるで知らない人のように思えた。心は冷えているのに体は熱く乱れている。
でも、もうどうだっていいや。
ただ今まで通りの日常に戻っただけ。ただ、それだけのこと。
「……」
見慣れない部屋の中で目が覚めた。
しあわせな夢を見ていたんだ、僕は。
義父の呪縛から解放されて、僕を大切にしてくれる恋人ができる夢。
僕は枕に顔をうずめ、声を殺して泣いた。
あれはただの夢だったんだ。じゃなきゃおかしいもん。あんなに幸せな日々が僕に訪れるなんて、そんなの、おかしい。
どうしてもっと早く気付かなかったかな。
願望が夢になるのは、僕にとって珍しくないことなのに。
---
義父は、僕のアパートを訪れ、僕を犯したあと、僕の手を引いて新幹線に乗った。
新幹線の中で義父は言った。
「初めからこのつもりだったんだ」
「……どういうことですか?」
「ほら、あんなことがあって……怜とおとうさんは離れ離れにさせられただろう?」
あんなこと、とは、義父が僕を犯していたことが校長先生にバレて、同じく僕をレイプした教師や生徒のことをこれ以上言うのなら、義父のしたことも警察に通報すると脅されたことだ。
そのことがあって、義父は僕を遠い地に引っ越させた。
「一、二カ月してから、目を盗んで怜をこっちに連れ戻すつもりだった。そのために、怜のためにマンションを一戸買ったんだよ。今日から君は、そこで暮らす」
「え……? 実家があるのに、ですか……?」
「今さらお母さんと君を一緒に住まわせるとでも? お母さんに怜とおとうさんとの関係がバレるのはいやだからね」
お母さんは僕と義父の関係を知らない。気付かれないよう、義父も僕も細心の注意を払っていた。
でも、あんなことがあったから、義父は万が一を恐れたのだろう。お母さんがいる家の中で僕とセックスするのは気が進まなくなったんだ。
それだけじゃない。義父は、地元の人に連れ戻したことがバレないよう、僕をそのマンションに閉じ込めて、一歩も外に出さないつもりだった。
「心配しなくていい。たくさん部屋がある広いマンションだからね。ゲームもたくさん買ってあげるし、運動するマシンも部屋に置いてあげる。お父さんが毎日会いに行くから寂しくないよ。美味しいものもたくさん買ってくる」
「……」
それに、と父は言葉を続けた。
「実は、上の階にも一戸買ったんだ。これからは、接待はそこに客を呼んですることになるよ。だから怜はマンションから一歩も外に出なくていい」
最後に義父は耳元で囁いた。
「君が普段暮らす部屋では、おとうさんだけが君を抱けるんだ」
はは、と満足げに笑い、義父は窓の外に目をやった。
新幹線に乗る前に、スマホを捨てられた。これでもう朱鷺と連絡を取ることはできない。
こんなことなら、電話番号くらい覚えておけばよかった。
……と考えていることに気付き、僕は苦笑した。
たとえ電話番号を覚えていたって、もう朱鷺が僕を相手してくれることなんてないのに。
僕には朱鷺しかいないけれど、朱鷺には他にたくさん相手がいる。きっと彼は僕がいなくなっても、夏休み前と同じ生活に戻って楽しく笑う日々を過ごすんだろう。もしかしたら、一人の人を好きになることを知った朱鷺は、また別の好きな人を見つけて付き合うのかもしれない。
朱鷺が知らない人の首に噛みついているところを想像してしまったところで、僕は首を振った。
もう、朱鷺のことは忘れよう。あれは夢だったんだ。
ひと夏が見せた、ただの夢。
今思えば、毎日が夢のようだった。
そりゃそうだ。だって夢だったんだから。
その日地元に帰った僕は、見知らぬマンションに連れていかれ、朝まで義父に抱かれた。
明日僕は取引先の人六人に抱かれるらしい。
僕はもう抵抗なんてしなかった。いや、無気力になってできなかっただけなのかもしれない。
義父の腕の中で嬌声を上げている自分が、まるで知らない人のように思えた。心は冷えているのに体は熱く乱れている。
でも、もうどうだっていいや。
ただ今まで通りの日常に戻っただけ。ただ、それだけのこと。
27
お気に入りに追加
155
あなたにおすすめの小説
モテない生徒会長の災難
厚切り牛タン弁当
BL
大財閥の嫡男にして、頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗と三拍子そろっており、一年で生徒会の会長に選ばれるほどの圧倒的カリスマ性を持つ誰もが羨むスーパーエリート高校生の赤城 陽斗。だが、何故か恋愛運は破滅的に悪く未だに恋人と呼べる存在に出会えていない。それどころかトラブルに巻き込まれ体質で、学園で起こる問題に次々と巻き込まれてしまう事になり――!?学園で起こる様々な難問を乗り越えて、陽斗は運命の恋人と出会い結ばれる事が出来るのかどうかを描く笑いあり、シリアスあり、涙ありの学園ラブコメディ第一作目。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】その家族は期間限定〜声なきΩは本物に憧れる〜
天白
BL
オメガバース。家族モノ。ほっこりハッピーエンドBL。R18作品。
~主な登場人物~
・須中藍時…24歳。男性のΩ。フリーター。あることがきっかけで、純の「ママ」として扇家で働くことになる。失声症を患わっており、手話と筆談で会話する。なぜか純の前でのみ、声を出して話すことができる。秀一の妻であるヒナに顔立ちが似ているらしい。身長は168㎝。
・扇秀一…31歳。男性のα。純の父親。大柄な男で強面だが、他人には優しく穏やかに接する。藍時の雇い主。仕事人間で一年前に妻に逃げられたと藍時に話す。身長は198㎝。
・扇純…4歳。秀一の息子。出会った当初から藍時をママと呼んでいる。歳のわりにしっかり者だが、まだまだ甘えん坊なママっ子。
〜あらすじ〜
恋人からの暴力により声を失い、心と身体に深い傷を負ったΩの青年・須中藍時は己の人生を悲観していた。人知れずして引っ越した場所では、頼れる家族や友人はおらず、仕事も長く続かない。
ある日、藍時は自分を「ママ」と呼ぶ迷子の少年・扇純と、その父親・扇秀一に出会う。失われたと思っていた声は、なぜか純の前では出せるように。しかしαの秀一に得体の知れない恐怖を感じた藍時は、彼らからのお礼もそこそこに、その場から逃げ出してしまう。
そんな二人の出会いから一週間後。またも職を失った藍時は、新たな仕事を求めて歓楽街へ訪れる。そこで見知らぬ男達に絡まれてしまった藍時は、すんでのところを一人の男によって助けられる。それは秀一だった。
気を失った藍時は扇家にて介抱されることになる。純は変わらず藍時のことを「ママ」と呼び、終始べったりだ。聞けば純の母親は夫である秀一に愛想を尽かし、家を出て行ってしまったという。藍時はそんな妻の顔に、よく似ているらしいのだ。
そしてひょんなことから提案される「家事代行ならぬママ代行」業。期限は純の母親が戻ってくるまで。
金も職もない藍時は、秀一からの提案を受けることに。しかし契約が交わされた途端、秀一の様子が変わってしまい……?
※別サイトにて以前公開していました自作「FAKE FAMILY〜その家族は期間限定!?〜」(現在は非公開)を改題、リメイクしたものになります。
Pixiv、ムーンライトノベルズ様でも公開中です。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。
亜沙美多郎
BL
高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。
密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。
そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。
アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。
しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。
駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。
叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。
あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。
⭐︎オメガバースの独自設定があります。
社畜サラリーマンの優雅な性奴隷生活
楓
BL
異世界トリップした先は、人間の数が異様に少なく絶滅寸前の世界でした。
草臥れた社畜サラリーマンが性奴隷としてご主人様に可愛がられたり嬲られたり虐められたりする日々の記録です。
露骨な性描写あるのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる