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夏休み上旬
27話 8月1日:バーベキューのお誘い
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8月に入った。
俺と怜は相変わらずどっちかの家に入り浸っている。クラスメイトアルファが俺の家に押し掛けた日以来、俺は怜以外の人に会っていない。怜とずっと一緒にいられることは嬉しいが、ずっと家の中に引きこもっているのにも少々飽きてきた。
その日の朝、スマホにナナさん――菊池姉から個別チャットが届いた。
《朱鷺くん! 恋人オメガくんとは順調? 浮気してないだろうなー?》
俺はクスッと笑い、《してるわけないじゃないっすか。順調ですよ》と返事をした。
あの日――ナナさんたち大学生オメガ三人に襲われた日――以来、俺と彼らは良好な関係を築いている。特にナナさんは頼りになる姉御、というポジションにすっかりはまり、ちょっとした相談なんかをノリノリで聞いてくれる。
《ねえねえ~。いい加減恋人オメガくんに会わせてよ~。私会ってみたいなあ~》
俺はたびたびナナさんたち大学生三人に、怜に会わせろと迫られる。遊び人の特上クソアルファを見事恋人にして手綱を握ったオメガに興味があるそうだ。
《そうだ。今度弟たちと海行くときにさ、オメガくんも来たらいいじゃん》
《無理っす。あいつアルファのこと本気で苦手なんで。あと、俺もあいつらに知られたくないですし》
《なんで知られたくないのさー。いいじゃん別に、遊び人が恋人作ったって》
《なんか恥ずかしいじゃないっすか》
《どこが? かっこいいよー!》
俺にオメガの恋人がいることは、彼女たち三人しか知らない。つまり、クラスメイトアルファには言っていないし、ナナさんにも口止めしている。弟の菊池すらこのことを知らない。なぜ言っていないかというと――まあどうせ夏休みが終わったらバレるんだが――俺が単純に、あいつら(アルファ)と怜を会わせたくなかったからだ。
俺が怜(高浜)と付き合いだしたと知ったら、クラスメイトアルファは絶対に怜に会いたがるだろう。というか無理やりにでも会おうとするはずだ。あいつらは割と執念深いからな。
会ったらどうなる? 欲情するに決まっている。もしくは俺たちにも抱かせろとかそんなクソみたいなお願いをしてくるに違いない。そんなお願い、耳に入れるだけでも吐きそうになる。
っていうか怜の姿をあいつらに見せたくないし、匂いも嗅がせたくないし、口もきかせたくない。
長々と言い訳をしたが、つまるところ、夏休みの間だけでも、俺は怜を独り占めしたかったのだ。
《じゃあ、私とダイキとマサルと君たちの五人でバーベキューはどう!? オメガばっかりだったら怖くないでしょ?》
俺は「うぅん……」と唸った。怜にはナナさんたちと仲良くなったことや、俺たちのことを応援してくれていること、それと俺にもう手出しするつもりは一切ないことは伝えてある。はじめは疑わしそうにしていた怜も、俺たちのグループチャットやナナさんたちとの個別チャットの内容を見せているうちに、だんだんと信用してくれるようになりつつあった。
「良い人たちだね、ナナさんたち」
少し前、怜がチャットを眺めてそう呟いたことがあった。これは怜の良いところでもあり、心配になるところでもあるのだが、こいつは、たとえ嫌なことをされた相手であっても、そいつの長所をちゃんと認められるんだ。
まあ、そんな感じで今は怜も大学生オメガ三人衆にそこまで敵意を向けていない(むしろ好感を抱いている部分も多少なりありそうだ)。
だから俺はナナさんの誘いに即答で断ることができなかった。
「……」
俺は狭苦しいキッチンでカレーを作っている怜に目をやった。(こいつはカレーしか作れないのだ)
怜は外へ出たがらない。俺と二人で遠出したのも、指輪を買いに行ったあの日だけだ。あとはファミレスとかコンビニとか、徒歩で行ける範囲までしか行動していない。
それは、外に出るためには大量のフリスクを飲まなければいけない(副作用がある)という理由と、やっぱりアルファの目が気になるからなのだろう。あとは引っ越したばかりで遊び友だちがいないからとか、他にも理由はあるのだろうが。
……俺は、怜に、もう少し特別な夏休みの思い出を作ってやりたいと思った。
いや、俺が、怜との特別な思い出をもっと作りたいだけかもしれない。
「なあ、怜」
「ん?」
「あのさ、ナナさんから誘いがあったんだけど」
「……」
「一緒にバーベキュー行かねえ?」
「行かない」
「アルファはいないんだ。ナナさんと、マサルさんと、ダイキさんだけ。俺を襲わないオメガだけだよ」
「その三人だけ? 本当に?」
「おう。その三人だけ。他に誰も呼ばないって。お前に会いたいみたいだぞ」
怜は包丁をまな板に置き、炊事場にもたれかかった。
「朱鷺は行きたいの?」
「……おう。お前と一緒に行きたい」
「どうして?」
どうしてって、どういうこと。
どうしてお前と一緒に行きたいのかってことか?
それともどうしてオメガ三人と一緒に遊びたいのかってことか?
なんかよく分からねえから、俺は適当に答えた。
「行きたいから」
「ふうん」
これは断られる流れか、なんて考えていたが、怜の返事はイエスだった。
「いいよ。行こっか」
「えっ!?」
「なに? いやなの?」
「いやじゃない!!」
「いつなの?」
「今すぐ決める!! ちょっと待ってろ!!」
それから俺はナナさんと話し合い、急いで日程を決めた。
「明後日!」
「そう。分かった」
それだけ言って、怜は淡々とカレー作りを再開した。
それからの時間も、メシを食うときも、怜はいたっていつも通りだった。
ただ、なぜかいつもよりもカレーが辛かったし、俺の皿に盛られたカレーだけ妙に赤かった。
俺と怜は相変わらずどっちかの家に入り浸っている。クラスメイトアルファが俺の家に押し掛けた日以来、俺は怜以外の人に会っていない。怜とずっと一緒にいられることは嬉しいが、ずっと家の中に引きこもっているのにも少々飽きてきた。
その日の朝、スマホにナナさん――菊池姉から個別チャットが届いた。
《朱鷺くん! 恋人オメガくんとは順調? 浮気してないだろうなー?》
俺はクスッと笑い、《してるわけないじゃないっすか。順調ですよ》と返事をした。
あの日――ナナさんたち大学生オメガ三人に襲われた日――以来、俺と彼らは良好な関係を築いている。特にナナさんは頼りになる姉御、というポジションにすっかりはまり、ちょっとした相談なんかをノリノリで聞いてくれる。
《ねえねえ~。いい加減恋人オメガくんに会わせてよ~。私会ってみたいなあ~》
俺はたびたびナナさんたち大学生三人に、怜に会わせろと迫られる。遊び人の特上クソアルファを見事恋人にして手綱を握ったオメガに興味があるそうだ。
《そうだ。今度弟たちと海行くときにさ、オメガくんも来たらいいじゃん》
《無理っす。あいつアルファのこと本気で苦手なんで。あと、俺もあいつらに知られたくないですし》
《なんで知られたくないのさー。いいじゃん別に、遊び人が恋人作ったって》
《なんか恥ずかしいじゃないっすか》
《どこが? かっこいいよー!》
俺にオメガの恋人がいることは、彼女たち三人しか知らない。つまり、クラスメイトアルファには言っていないし、ナナさんにも口止めしている。弟の菊池すらこのことを知らない。なぜ言っていないかというと――まあどうせ夏休みが終わったらバレるんだが――俺が単純に、あいつら(アルファ)と怜を会わせたくなかったからだ。
俺が怜(高浜)と付き合いだしたと知ったら、クラスメイトアルファは絶対に怜に会いたがるだろう。というか無理やりにでも会おうとするはずだ。あいつらは割と執念深いからな。
会ったらどうなる? 欲情するに決まっている。もしくは俺たちにも抱かせろとかそんなクソみたいなお願いをしてくるに違いない。そんなお願い、耳に入れるだけでも吐きそうになる。
っていうか怜の姿をあいつらに見せたくないし、匂いも嗅がせたくないし、口もきかせたくない。
長々と言い訳をしたが、つまるところ、夏休みの間だけでも、俺は怜を独り占めしたかったのだ。
《じゃあ、私とダイキとマサルと君たちの五人でバーベキューはどう!? オメガばっかりだったら怖くないでしょ?》
俺は「うぅん……」と唸った。怜にはナナさんたちと仲良くなったことや、俺たちのことを応援してくれていること、それと俺にもう手出しするつもりは一切ないことは伝えてある。はじめは疑わしそうにしていた怜も、俺たちのグループチャットやナナさんたちとの個別チャットの内容を見せているうちに、だんだんと信用してくれるようになりつつあった。
「良い人たちだね、ナナさんたち」
少し前、怜がチャットを眺めてそう呟いたことがあった。これは怜の良いところでもあり、心配になるところでもあるのだが、こいつは、たとえ嫌なことをされた相手であっても、そいつの長所をちゃんと認められるんだ。
まあ、そんな感じで今は怜も大学生オメガ三人衆にそこまで敵意を向けていない(むしろ好感を抱いている部分も多少なりありそうだ)。
だから俺はナナさんの誘いに即答で断ることができなかった。
「……」
俺は狭苦しいキッチンでカレーを作っている怜に目をやった。(こいつはカレーしか作れないのだ)
怜は外へ出たがらない。俺と二人で遠出したのも、指輪を買いに行ったあの日だけだ。あとはファミレスとかコンビニとか、徒歩で行ける範囲までしか行動していない。
それは、外に出るためには大量のフリスクを飲まなければいけない(副作用がある)という理由と、やっぱりアルファの目が気になるからなのだろう。あとは引っ越したばかりで遊び友だちがいないからとか、他にも理由はあるのだろうが。
……俺は、怜に、もう少し特別な夏休みの思い出を作ってやりたいと思った。
いや、俺が、怜との特別な思い出をもっと作りたいだけかもしれない。
「なあ、怜」
「ん?」
「あのさ、ナナさんから誘いがあったんだけど」
「……」
「一緒にバーベキュー行かねえ?」
「行かない」
「アルファはいないんだ。ナナさんと、マサルさんと、ダイキさんだけ。俺を襲わないオメガだけだよ」
「その三人だけ? 本当に?」
「おう。その三人だけ。他に誰も呼ばないって。お前に会いたいみたいだぞ」
怜は包丁をまな板に置き、炊事場にもたれかかった。
「朱鷺は行きたいの?」
「……おう。お前と一緒に行きたい」
「どうして?」
どうしてって、どういうこと。
どうしてお前と一緒に行きたいのかってことか?
それともどうしてオメガ三人と一緒に遊びたいのかってことか?
なんかよく分からねえから、俺は適当に答えた。
「行きたいから」
「ふうん」
これは断られる流れか、なんて考えていたが、怜の返事はイエスだった。
「いいよ。行こっか」
「えっ!?」
「なに? いやなの?」
「いやじゃない!!」
「いつなの?」
「今すぐ決める!! ちょっと待ってろ!!」
それから俺はナナさんと話し合い、急いで日程を決めた。
「明後日!」
「そう。分かった」
それだけ言って、怜は淡々とカレー作りを再開した。
それからの時間も、メシを食うときも、怜はいたっていつも通りだった。
ただ、なぜかいつもよりもカレーが辛かったし、俺の皿に盛られたカレーだけ妙に赤かった。
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