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夏休み上旬

19話 7月29日:手作りのカレー

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 夜七時、やっとアルファとオメガ集団が帰った。俺は疲れ切った体でシャワーを浴び、念入りに体を洗った。

「……」

 未遂とはいえ、オメガとやらしいことをしてしまった。キスしたし、シゴいたし、ちんこをしゃぶられたし、ちょっとまんこの中に入ったし、顔にオメガ精液ぶっかけられたし……。
 しかも、昨日まで怜と寝ていたベッドの上でだ。

「はぁぁ……」

 自分の意思が弱すぎて落ち込む。怜に申し訳ない。どんな顔して会えばいいのか分からない。

「でも、会いてえ……」

 怜とメシが食いたい。怜とテレビを観ながらだらだらしたい。怜を……抱きたい。
 どうしたらいいのか分からなくて、その日は怜に連絡をできないままベッドに潜り込んだ。……朝方になるまで寝付けなかったが。

 目覚めると昼になっていた。昨晩と変わらず、どうしていいのか分からないままだ。
 メシも食わずにぼうっとしていると、いつの間にか夕方になっていた。

 日が長すぎて、昼なのか夜なのか分からないくらい明るい夜七時。
 怜からチャットが来た。

 《まだアルファたちと遊んでる?》
「~~……っ!」

 もうほんと、自分がキモい。怜からチャットが来ただけでちんこが勃った。

 《ううん、遊んでない》
 《今晩ヒマ?》
 《ヒマ》
 《晩ごはん一緒に食べない?》
 《食う。どこで食う?》

 しばらく時間をおいて、怜から返事が来た。

 《朱鷺の家、行っていい?》
「……」

 俺は鼻をひくつかせた。昨日のオメガ三人衆の匂いが残っているかもしれない。ここに怜を呼ぶのは怖い。

 《いや、俺が怜の家行くわ。いい?》
 《うん、いいよ》
 《じゃ、準備してから行くわ》

 俺はそう返してから、またシャワー室に入り、皮膚がめくれそうなほどタオルをこすりつけた。絶対にオメガの匂いを残して会いたくない。

 五回くらい体を洗ってから俺は怜の住むアパートに向かった。
 インターフォンを押す。すぐにドアが開き、ものすごいオメガ臭が襲い掛かってきた。

 夏休みに入ってからずーっと一緒にいて、鼻がバグッていたから気付かなかった。こいつの匂い、マジでヤバい。

「どうぞ」

 そっけない言葉で俺を中に招き入れた怜だが、瞳はきらきら輝いている。はあ……。そんなに俺に会いたかったのかよ。たった一日半会わなかっただけなのによお……。バカ野郎……もう俺のちんこから我慢汁が垂れている……。

 部屋に入ると、オメガ臭に隠れていた美味しそうな匂いがふんわり漂ってきた。

「何か作ってたのか?」
「うん。カレー作ろうと思って」
「え、最高。食いたい食いたい」
「あんまり上手じゃないよ? それだけは分かっといてね」

 ずっと一緒にいたときは手料理なんか一回も作ってなかったじゃねえかよお……。一日半会わなかっただけで、手料理作っちゃうほど俺に会うの嬉しかったのかよこいつ……。愛しすぎて泣けてきた……。

 怜のけなげさと、怜への愛しさが増すごとに、昨日俺がしでかしてしまったことへの罪悪感が膨らんでいく。
 今だって本当は怜を抱きしめていちゃいちゃしたいし、なんならベッドに押し倒してメシの前に一回抱きたいくらいなんだが、昨日のことを考えると、申し訳なさすぎて触れることもできない。

 気まずい気持ちが前面に出てしまって会話すらいつもよりもぎこちなくなってしまう。そのせいで、怜も少し気まずそうだ。

「昨日、楽しかった?」
「へっ!? なにが!?」

 唐突に、一番聞かれたくない話題を振られて狼狽えてしまった。

「なにがって、昨日、アルファたちと遊んだんでしょ?」
「お、おう」

 クラスメイトアルファのことを思い出してイラッとした。あいつら、昨日怜の残り香でシコりやがった。

「ど、どうしたの。急に怖い顔して……」
「あっ、ごめん……! なんでもない」
「何して遊んだの?」
「えーっと、ゲーム、とか?」

 実際はほぼあいつらと口を聞いていない。大半を大学生オメガ三人と俺の部屋で話し込んでいたので、その間あいつらが何をしていたのか知らない。

「なんのゲームしたの?」
「まあ、いろいろ」
「へー」

 何を尋ねてもあいまいな返事しかいない俺に、怜はジトッとした目を向ける。
 そして、俺の首元を指さした。

「それで? そのキスマークは誰につけられたの?」
「っ!?」

 俺は咄嗟に首を手で隠した。その反応を見て、怜がヘッと笑う。

「嘘だよ」
「お、おまえぇっ……」
「でも、ま、だいたい分かった。っていうか、家に行かせてくれなかった時点でうっすら分かってたよ」
「……っ」

 怜はその指を玄関に向けた。

「帰って」
「……」

 手足の感覚がなくなっていく。

「信じようとした僕がバカだった」
「れ、怜……聞いてくれ……」
「聞かない。アルファの言うことなんて、もう二度と信じない」

 後ろを向いた怜が、さっと目じりを指で拭う。

「ほんと、バカみたい」

 怜はコンロの火を消し、出していた二人分の皿を食器棚に戻した。
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