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夏休み前
10話 7月20日:底辺オメガ……? の発情期
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結局何もできないまま、夏休み一日前になってしまった。
ホームルーム前に、クラスメイトのアルファたちに絡まれる。
「おい朱鷺~! まだゲームクリアできてねえの?」
「無理だな、こりゃ」
「諦めんなよ! あと一日残ってるだろ!」
「いや、無理だわ」
高浜との仲は確実に縮まっている。だが、今日中に抱ける気は全くしない。
「俺の姉ちゃんは諦めるのか~?」
「ぐあぁぁ……女子大生のおっぱい~……」
「おい! 人の姉ちゃんをおっぱい呼ばわりするな!!」
そんなやりとりをしていると、ふっと高浜が振り返った。俺とばっちり目が合ったことに焦り、慌てて顔を逸らした。
やば。あいつイヤホンしてないっぽい。今の会話聞かれていたかも。いやでも高浜の名前は出していないからそこは大丈夫だ。
ただ、俺が「女子大生のおっぱい~」って呻いたのは聞かれた可能性が高い。うわあ、最悪。俺がただのドスケベ雑食系クソアルファだってバレたかも。
せっかくここまで距離を詰めたのに、また振り出しか……?
むしゃくしゃして、俺は菊池の頭をはたいた。
「いて! なにすんだよ!」
「安心しろ。完全なる八つ当たりだ」
「最低だなお前!」
俺はハア、とため息を吐き、ボソッと呟いた。
「発情期になってくれたらワンチャンあるのになあ」
「バカ。あんな薄いオメガの発情期なんて知れてるだろ」
「だよなあ、やっぱ今日中なんて無理かあ」
残念だな、諦めるしかないのか。女子大生のおっぱい……。
◆◆◆
この日も俺は、放課後に高浜とファミレスでメシを食った。
しかし、高浜の様子がいつもと違う。俺とあんまり目を合わせようとしないし、距離感もいつもよりずっと遠い。
あー……女子大生のおっぱい、結構効いているみたいだな。最悪。
俺は場の空気をほぐすために、なんとか話題を絞り出した。
「あ、明日から夏休みだな。高浜はなんか予定ある?」
「……」
「た……高浜……?」
え……会話することすら嫌になった……? 無視はさすがに傷つくんですけど……。
思いのほかダメージを食らってしまい、俺はため息を吐き俯いた。
「……そんな嫌なら、なんでメシついてきたんだよ」
思わず口から突いて出た恨み言に、高浜がハッと顔を上げた。
「あっ、ご、ごめん。なに……?」
「……考え事?」
「いや、ううん……えっと、ごめん、なんか……」
「……?」
そこで俺は、高浜の顔がいつもより熱っぽいことにやっと気付いた。
「もしかして熱ある? 風邪?」
「ごめん、分からない……なんか急に……」
「めっちゃ顔赤いぞ。絶対熱ある」
すると高浜はまたフリスクをおもむろに数粒飲み込んだ。こいつ、定期的にフリスクを貪り食わないと死ぬ病気にかかっているんだと思う。一緒にいると、一日に数回はこの光景を見るからな。
「だめだ、落ち着かない……」
「そりゃフリスク食ったって風邪は治んないんだから。お前はフリスクに何を期待してるんだ」
「朱鷺くん、ごめん。ちょっと今日は……」
「そうだな。早く帰った方がいいわ。無理すんなよ、まったく……」
高浜は歩くこともままならないようだった。
俺は会計を済ませたあと、ふらふらとおぼつかない足取りをしている高浜の腰に腕を回した。
「あ……」
「触ってごめん。でも、さすがにフラフラすぎ。支えさせて」
「いや……離れて……」
「何もしないって。家どこ。送る」
「大丈夫だから……」
「一緒にタクシー乗るだけ。家に入らないから」
「……」
譲らない俺に負けて、高浜は俺と一緒にタクシーに乗った。運転手に住所を伝えたあとは、ぐったりと俺と反対側にもたれかかった。
「……?」
車内という密室になってやっと、俺は気付いた。
高浜のオメガの匂いが、だんだんと強くなっている。
それに、たぶん……高浜のちんこ、勃っている気がする。
俺は運転手に聞こえないよう、高浜の耳元で囁いた。
「高浜、お前もしかして……」
「……」
「発情期、来てる……?」
すると、高浜は俺に顔を背けたままこくりと頷いた。
「うわ……ご、ごめん……。俺、気付いてなくて……」
「ううん……僕もさっき気付いた……。ごめん、周期と全然違うときに来ちゃったみたいで……」
そこで高浜が何かを求めるように鞄をまさぐった。
「……何探してるんだ? 取ってやる」
「……フリスク」
「いやだから、フリスクは――」
「あれ……中に入ってるの……抑制剤……」
「……は?」
……ちょっと待て。抑制剤? 抑制剤って、オメガ性を抑えるための薬だよな。オメガ臭を薄くしたり、発情期の症状を抑えたりする、アレ?
あれって普通、一日に二、三錠飲めばいいやつじゃねえの? こいつ、俺が知っている限りでも、一日に十五錠以上は飲んでいるぞ……?
「お、おい……おま……まさか……」
「……」
「そ、そんな飲んで大丈夫なのか……? 医者からちゃんと処方されたやつか、それ?」
高浜は小さく首を横に振った。
「まさか市販の……」
「お医者さんにもらったやつだけじゃ……足りないから……あわせて市販のやつも……」
「いやお前バカッ……!」
「だって……そうしないと……」
そう言って、高浜はフリスクの容器をぎゅっと握りしめた。
「抑えられないんだ……オメガの匂いも……発情期も」
ホームルーム前に、クラスメイトのアルファたちに絡まれる。
「おい朱鷺~! まだゲームクリアできてねえの?」
「無理だな、こりゃ」
「諦めんなよ! あと一日残ってるだろ!」
「いや、無理だわ」
高浜との仲は確実に縮まっている。だが、今日中に抱ける気は全くしない。
「俺の姉ちゃんは諦めるのか~?」
「ぐあぁぁ……女子大生のおっぱい~……」
「おい! 人の姉ちゃんをおっぱい呼ばわりするな!!」
そんなやりとりをしていると、ふっと高浜が振り返った。俺とばっちり目が合ったことに焦り、慌てて顔を逸らした。
やば。あいつイヤホンしてないっぽい。今の会話聞かれていたかも。いやでも高浜の名前は出していないからそこは大丈夫だ。
ただ、俺が「女子大生のおっぱい~」って呻いたのは聞かれた可能性が高い。うわあ、最悪。俺がただのドスケベ雑食系クソアルファだってバレたかも。
せっかくここまで距離を詰めたのに、また振り出しか……?
むしゃくしゃして、俺は菊池の頭をはたいた。
「いて! なにすんだよ!」
「安心しろ。完全なる八つ当たりだ」
「最低だなお前!」
俺はハア、とため息を吐き、ボソッと呟いた。
「発情期になってくれたらワンチャンあるのになあ」
「バカ。あんな薄いオメガの発情期なんて知れてるだろ」
「だよなあ、やっぱ今日中なんて無理かあ」
残念だな、諦めるしかないのか。女子大生のおっぱい……。
◆◆◆
この日も俺は、放課後に高浜とファミレスでメシを食った。
しかし、高浜の様子がいつもと違う。俺とあんまり目を合わせようとしないし、距離感もいつもよりずっと遠い。
あー……女子大生のおっぱい、結構効いているみたいだな。最悪。
俺は場の空気をほぐすために、なんとか話題を絞り出した。
「あ、明日から夏休みだな。高浜はなんか予定ある?」
「……」
「た……高浜……?」
え……会話することすら嫌になった……? 無視はさすがに傷つくんですけど……。
思いのほかダメージを食らってしまい、俺はため息を吐き俯いた。
「……そんな嫌なら、なんでメシついてきたんだよ」
思わず口から突いて出た恨み言に、高浜がハッと顔を上げた。
「あっ、ご、ごめん。なに……?」
「……考え事?」
「いや、ううん……えっと、ごめん、なんか……」
「……?」
そこで俺は、高浜の顔がいつもより熱っぽいことにやっと気付いた。
「もしかして熱ある? 風邪?」
「ごめん、分からない……なんか急に……」
「めっちゃ顔赤いぞ。絶対熱ある」
すると高浜はまたフリスクをおもむろに数粒飲み込んだ。こいつ、定期的にフリスクを貪り食わないと死ぬ病気にかかっているんだと思う。一緒にいると、一日に数回はこの光景を見るからな。
「だめだ、落ち着かない……」
「そりゃフリスク食ったって風邪は治んないんだから。お前はフリスクに何を期待してるんだ」
「朱鷺くん、ごめん。ちょっと今日は……」
「そうだな。早く帰った方がいいわ。無理すんなよ、まったく……」
高浜は歩くこともままならないようだった。
俺は会計を済ませたあと、ふらふらとおぼつかない足取りをしている高浜の腰に腕を回した。
「あ……」
「触ってごめん。でも、さすがにフラフラすぎ。支えさせて」
「いや……離れて……」
「何もしないって。家どこ。送る」
「大丈夫だから……」
「一緒にタクシー乗るだけ。家に入らないから」
「……」
譲らない俺に負けて、高浜は俺と一緒にタクシーに乗った。運転手に住所を伝えたあとは、ぐったりと俺と反対側にもたれかかった。
「……?」
車内という密室になってやっと、俺は気付いた。
高浜のオメガの匂いが、だんだんと強くなっている。
それに、たぶん……高浜のちんこ、勃っている気がする。
俺は運転手に聞こえないよう、高浜の耳元で囁いた。
「高浜、お前もしかして……」
「……」
「発情期、来てる……?」
すると、高浜は俺に顔を背けたままこくりと頷いた。
「うわ……ご、ごめん……。俺、気付いてなくて……」
「ううん……僕もさっき気付いた……。ごめん、周期と全然違うときに来ちゃったみたいで……」
そこで高浜が何かを求めるように鞄をまさぐった。
「……何探してるんだ? 取ってやる」
「……フリスク」
「いやだから、フリスクは――」
「あれ……中に入ってるの……抑制剤……」
「……は?」
……ちょっと待て。抑制剤? 抑制剤って、オメガ性を抑えるための薬だよな。オメガ臭を薄くしたり、発情期の症状を抑えたりする、アレ?
あれって普通、一日に二、三錠飲めばいいやつじゃねえの? こいつ、俺が知っている限りでも、一日に十五錠以上は飲んでいるぞ……?
「お、おい……おま……まさか……」
「……」
「そ、そんな飲んで大丈夫なのか……? 医者からちゃんと処方されたやつか、それ?」
高浜は小さく首を横に振った。
「まさか市販の……」
「お医者さんにもらったやつだけじゃ……足りないから……あわせて市販のやつも……」
「いやお前バカッ……!」
「だって……そうしないと……」
そう言って、高浜はフリスクの容器をぎゅっと握りしめた。
「抑えられないんだ……オメガの匂いも……発情期も」
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