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後日談
激重とは-3(月見里side)
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「疲れた……」
夜九時過ぎ、自宅に戻ってきた。東京と大阪を往復してさすがに疲れた。
「……」
やっぱり、広い。四日経ってもこの広さと静かさには慣れなかった。
小鳥遊が作り置きしてくれたごはんも、もうなくなった。今日は三カ月ぶりのカップ麵だ。あれ。カップ麺ってこんなに不健康な味していたのか。
シャワーを浴びた俺は、全裸のままふらふらと小鳥遊の寝室に入った。
ここが一番、小鳥遊のにおいが残っている場所だ。この四日間、何度ここの空気を吸うために忍び込んだか分からない。
今日も小鳥遊のカッターシャツをこっそり一着拝借する。これを自分の寝室に持ち帰り、抱いて寝るのがここ最近の安眠方法だった。
自分の部屋に戻り小鳥遊のシャツに顔をうずめていたのだが、もうそれだけでは小鳥遊欲を満たせなくなっていた。
俺はもう一度小鳥遊の寝室に行き、またコソコソとクローゼットをまさぐった。
「スウェット……」
これ、小鳥遊がよく着ているスウェットだ。ここに引っ越す前から持っていた記憶がある。
試しに着てみると、小鳥遊に抱きしめられているような感覚がした。これ、良いな……。今日はこれを着て寝よう。大丈夫だ。小鳥遊が帰ってくるまでに洗濯機に放り込んでおけば、俺が拝借していたことはバレないだろう。
だんだんと欲望が膨らんでいった末、俺は小鳥遊のベッドの上で寝ころんでいた。
本当は今日、ここで寝ているはずだったのに。
小鳥遊と一緒に、ここで……
「……っ」
気付けば俺は、ズボンを下げて自分のペニスを握っていた。
俺のバカ。小鳥遊が帰ってくるまで我慢しようと思っていたのに。
「小鳥遊……っ」
早く会いたい。キスしたい。抱きしめられたい。抱かれたい。
今日帰ってきてくれると思っていたのに。取引先のバカ野郎。俺の小鳥遊取るな。
出そう。俺は激しく手を動かしながら、スウェットを噛んだ。
「んっ……ん、んんっ……、あっ……、んん……っ!」
シーツの上に精液が飛び散る。いつもならすぐに拭き取るのだが、その日はむしろ、精液が広範囲に染みつくよう指で広げた。どうして自分がそんな行動をとったのかは、よく分からない。
「は……、んん……っ」
それまで我慢できていたのに、射精したことで箍が外れてしまったようだ。
俺はシーツのシミを増やしながら、アナルに指を差し込んだ。
小鳥遊の枕に顔を押し付け、自慰に耽る。
自慰ってこんなに切ない行為だったっけ。物足りない快感を得るたびに余計に小鳥遊が恋しくなって、悲しくなる。
「もっ……無理ぃ……っ。早く帰ってこいよぉ……っ」
一人じゃナカイキもできないんだ、俺。
必死になって中の快感を求めていたが、途中でくたびれてしまって止めた。
それから俺は、ちょっとだけ泣いた。
「……このままここで寝てしまおうかな」
明日は土曜日で会社も休みだし、ここでゆっくり寝るのもありだな。
どうせ小鳥遊は昼過ぎまで帰ってこないだろうし。帰ってくるまでにシーツを洗ってしまえばバレないはず。
俺は布団にくるまり、ほうっと吐息を漏らした。小鳥遊のにおいに包まれて心地が良い。
どうして始めからこうしていなかったんだろう。どうせバレないんだったら、ずっとここで寝とけばよかった。
四日ぶりに射精したせいか、それとも小鳥遊のにおいに全身包まれているおかげか、その日はすぐに眠りに落ちた。
◇◇◇
ん……? 物音……。
ぼんやりと意識が戻った俺は、重い瞼を微かに上げた。
「たかなし……?」
「ただいま、月見里」
「……」
夢かな。目の前に小鳥遊がいる。もう小鳥遊なら夢でもなんでもいいや。
俺は小鳥遊の胸に顔をうずめた。わ。本物の小鳥遊みたいなにおいと感触。
……あれ? これ本物じゃね?
一気に眠気が覚め、俺は飛び上がった。
「たっ、小鳥遊!?」
「起こしたか。悪い」
「えっ!? なんでここにいる!?」
「帰ってきた」
「無理だろ!! だってお前っ、うな重のあと二軒目行ってたじゃん!!」
小鳥遊が眉をひそめる。
「どうしてそれを?」
「ヒョッ」
まずい。いらないことを口走ってしまった。
「え。まじでなんで知ってんの? 俺誰にも言ってないんだけど……」
「え、いやっ。別にっ、深い意味も理由もなくてっ。なんとなくそう思っただけでっ」
「……」
「っていうかそんなことどうでもいいだろっ!? それよりどうやって戻ってきたんだって話でっ! だってあそこから新大阪駅までかなりかかんじゃんっ。タクシーで小一時間……」
小鳥遊が、まるで心霊現象を見るような目で俺を見た。胡乱な目とはまさにこのこと……
「いや、だからなんでそんなことを知っている」
「知らないっ。何も知らないっ。ごめん俺寝ぼけててシックスセンス爆発してるみたいだわっ!」
「……」
小鳥遊はスッと立ち上がり、何も言わずに部屋を出て行った。
しばらくして、ニヤニヤしている小鳥遊が戻ってきた。紙ぺらを一枚ちらつかせて。
「月見里。ひとつ聞いていいか?」
「な、なんだよ……。なんだよその紙ぃ……」
「どうしてお前の財布の中に、こんなレシートが入っている?」
「……?」
小鳥遊がどれほど察しが良くても、俺のスマホを覗かない限り、大阪に行ったことは証明できないはずだ。
新幹線のチケットはスマホ画面で完結するし、食事もせずに帰ってきたし……
手渡されたレシートを見て、俺は声にならない叫びを上げた。
小鳥遊は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「どうして今日付けの、大阪のコンビニで買った水のレシートが入っているんだぁ?」
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
買ったぁぁぁ! 水買ったわぁぁぁっ!!
動揺した俺は、ベッドから飛び出し自分の部屋に逃げこんだ。
ドア越しに小鳥遊の声が聞こえる。
「なに? お前、仕事抜け出して大阪まで俺の様子見に来たわけ?」
「ちっ、違うっ!! 違うぅぅぅっ!!」
「何が違うんだ。うな重やらバーやら、そんなことまで知ってるくせに」
「ひぃぃぃん……っ」
「それとさ。お前、俺のスウェット着て、俺のカッターシャツ抱いて、俺のベッドの上でシコッたろ」
「ヒィィィッ……」
終わった……。全部バレた。絶対引かれる。重いって言われる。す、捨て、捨て……
「月見里」
「は、はい……」
「お前、ちょっと重いな」
「ヒュッ……」
あ。あああ。ああ……。終わった。終わったぞ俺の幸せな日々が。
俺は絶望で床に崩れ落ちた。
ゆっくりと、ドアが開く。
放心状態になっている俺を、小鳥遊が見下ろした。
「俺、また勘違いしていたみたいだ」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……もうしないので……す、捨て、捨てないで……」
「なにをガクガク震えてるんだ。それになんだ、捨てないでって」
「ごめんなさい……もうしません……もうしません……」
俺の目からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
小鳥遊はため息を吐き、そっと俺を抱きしめる。
「こんなに俺のことを好きなお前を、俺は疑ってしまったのか」
「ごめんなさい……捨てないで……」
「はぁ……バカだなぁお前……」
小鳥遊は俺をベッドまで引きずった。俺はガタガタ震え、ベッドの隅で縮こまる。
そんな俺の涙を、小鳥遊が舌ですくった。
「月見里。そういうの、もっとほしい」
「え……?」
「お前が俺を好きだって分かること、もっとしろ」
俺はおそるおそる小鳥遊を見た。
「ひ、引いてないのか……?」
「引いてない。むしろ今までが物足りなかった」
「え……」
小鳥遊がムスッと唇を尖らせる。
「激重なんていう割にたいしたことなかったからガッカリしていた。嫉妬も束縛もしないから、逆に不安になったぞ」
「だって……嫌がられると思って……」
本当は、お前が仕事帰りに同僚と飲みに行くのも、休日に俺を置いて外出するのも嫌だった。でもそんなこと、言えるわけないだろう。大学生じゃあるまいし。
「出張中だって、全然連絡してこないし」
「だってお前が疲れてると思って……」
「あんまりお構いなしだったから、マッチングアプリで他の男ひっかけているんじゃないかと疑ったぞ」
「なっ……! お、お前ぇ……俺がどんな気持ちで我慢してたか知らないだろ……っ」
疑いをかけられるなんて心外だ。
ぷんぷん怒っている俺に、小鳥遊は冗談交じりに言った。
「お前には前科があるからなあ。あっちに行っては股を開き、こっちに行ってはケツを突きだして。挙句の果てに家に元カレ上げて四回もセックスしていたんだもんなあ」
「うぅぅ……っ! いつまでそのこと根に持ってんだよ!! あんときは付き合ってなかったからノーカンだろっ!!」
「そうだな。そうなんだが、俺はやっぱり不安になる」
だから、と言って、小鳥遊が俺を抱きしめた。
「俺に疑われないように、お前が今日したみたいなことも、思ってることも、これからは隠すな」
「……お前さ、そんなこと言うけど、実際されて引いたりしない?」
「引いたらやめろって言う」
「そうなっても俺のこと捨てない……?」
「やめろと言って、ちゃんとやめてくれたら捨てない」
「……じゃあ。隠さない」
少なくとも今日したこと程度のことではむしろ喜ばれるようだし、それならちょっと安心できる。
こいつ、変なの。普通嫌じゃないの、そういうことされるの。なんで喜ぶんだよ。
「……小鳥遊、抱いて」
試しに無理を言ってみた。小鳥遊はやつれた顔で、嬉しそうに微笑んだ。
でもやっぱり疲労困憊していたせいで、している最中に小鳥遊が寝落ちした。
「ありがと、小鳥遊」
俺は、ぐったりとした小鳥遊の肩に腕を回し、しばらく繋がったままでいることにした。
夜九時過ぎ、自宅に戻ってきた。東京と大阪を往復してさすがに疲れた。
「……」
やっぱり、広い。四日経ってもこの広さと静かさには慣れなかった。
小鳥遊が作り置きしてくれたごはんも、もうなくなった。今日は三カ月ぶりのカップ麵だ。あれ。カップ麺ってこんなに不健康な味していたのか。
シャワーを浴びた俺は、全裸のままふらふらと小鳥遊の寝室に入った。
ここが一番、小鳥遊のにおいが残っている場所だ。この四日間、何度ここの空気を吸うために忍び込んだか分からない。
今日も小鳥遊のカッターシャツをこっそり一着拝借する。これを自分の寝室に持ち帰り、抱いて寝るのがここ最近の安眠方法だった。
自分の部屋に戻り小鳥遊のシャツに顔をうずめていたのだが、もうそれだけでは小鳥遊欲を満たせなくなっていた。
俺はもう一度小鳥遊の寝室に行き、またコソコソとクローゼットをまさぐった。
「スウェット……」
これ、小鳥遊がよく着ているスウェットだ。ここに引っ越す前から持っていた記憶がある。
試しに着てみると、小鳥遊に抱きしめられているような感覚がした。これ、良いな……。今日はこれを着て寝よう。大丈夫だ。小鳥遊が帰ってくるまでに洗濯機に放り込んでおけば、俺が拝借していたことはバレないだろう。
だんだんと欲望が膨らんでいった末、俺は小鳥遊のベッドの上で寝ころんでいた。
本当は今日、ここで寝ているはずだったのに。
小鳥遊と一緒に、ここで……
「……っ」
気付けば俺は、ズボンを下げて自分のペニスを握っていた。
俺のバカ。小鳥遊が帰ってくるまで我慢しようと思っていたのに。
「小鳥遊……っ」
早く会いたい。キスしたい。抱きしめられたい。抱かれたい。
今日帰ってきてくれると思っていたのに。取引先のバカ野郎。俺の小鳥遊取るな。
出そう。俺は激しく手を動かしながら、スウェットを噛んだ。
「んっ……ん、んんっ……、あっ……、んん……っ!」
シーツの上に精液が飛び散る。いつもならすぐに拭き取るのだが、その日はむしろ、精液が広範囲に染みつくよう指で広げた。どうして自分がそんな行動をとったのかは、よく分からない。
「は……、んん……っ」
それまで我慢できていたのに、射精したことで箍が外れてしまったようだ。
俺はシーツのシミを増やしながら、アナルに指を差し込んだ。
小鳥遊の枕に顔を押し付け、自慰に耽る。
自慰ってこんなに切ない行為だったっけ。物足りない快感を得るたびに余計に小鳥遊が恋しくなって、悲しくなる。
「もっ……無理ぃ……っ。早く帰ってこいよぉ……っ」
一人じゃナカイキもできないんだ、俺。
必死になって中の快感を求めていたが、途中でくたびれてしまって止めた。
それから俺は、ちょっとだけ泣いた。
「……このままここで寝てしまおうかな」
明日は土曜日で会社も休みだし、ここでゆっくり寝るのもありだな。
どうせ小鳥遊は昼過ぎまで帰ってこないだろうし。帰ってくるまでにシーツを洗ってしまえばバレないはず。
俺は布団にくるまり、ほうっと吐息を漏らした。小鳥遊のにおいに包まれて心地が良い。
どうして始めからこうしていなかったんだろう。どうせバレないんだったら、ずっとここで寝とけばよかった。
四日ぶりに射精したせいか、それとも小鳥遊のにおいに全身包まれているおかげか、その日はすぐに眠りに落ちた。
◇◇◇
ん……? 物音……。
ぼんやりと意識が戻った俺は、重い瞼を微かに上げた。
「たかなし……?」
「ただいま、月見里」
「……」
夢かな。目の前に小鳥遊がいる。もう小鳥遊なら夢でもなんでもいいや。
俺は小鳥遊の胸に顔をうずめた。わ。本物の小鳥遊みたいなにおいと感触。
……あれ? これ本物じゃね?
一気に眠気が覚め、俺は飛び上がった。
「たっ、小鳥遊!?」
「起こしたか。悪い」
「えっ!? なんでここにいる!?」
「帰ってきた」
「無理だろ!! だってお前っ、うな重のあと二軒目行ってたじゃん!!」
小鳥遊が眉をひそめる。
「どうしてそれを?」
「ヒョッ」
まずい。いらないことを口走ってしまった。
「え。まじでなんで知ってんの? 俺誰にも言ってないんだけど……」
「え、いやっ。別にっ、深い意味も理由もなくてっ。なんとなくそう思っただけでっ」
「……」
「っていうかそんなことどうでもいいだろっ!? それよりどうやって戻ってきたんだって話でっ! だってあそこから新大阪駅までかなりかかんじゃんっ。タクシーで小一時間……」
小鳥遊が、まるで心霊現象を見るような目で俺を見た。胡乱な目とはまさにこのこと……
「いや、だからなんでそんなことを知っている」
「知らないっ。何も知らないっ。ごめん俺寝ぼけててシックスセンス爆発してるみたいだわっ!」
「……」
小鳥遊はスッと立ち上がり、何も言わずに部屋を出て行った。
しばらくして、ニヤニヤしている小鳥遊が戻ってきた。紙ぺらを一枚ちらつかせて。
「月見里。ひとつ聞いていいか?」
「な、なんだよ……。なんだよその紙ぃ……」
「どうしてお前の財布の中に、こんなレシートが入っている?」
「……?」
小鳥遊がどれほど察しが良くても、俺のスマホを覗かない限り、大阪に行ったことは証明できないはずだ。
新幹線のチケットはスマホ画面で完結するし、食事もせずに帰ってきたし……
手渡されたレシートを見て、俺は声にならない叫びを上げた。
小鳥遊は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「どうして今日付けの、大阪のコンビニで買った水のレシートが入っているんだぁ?」
「う、うわぁぁぁぁっ!!」
買ったぁぁぁ! 水買ったわぁぁぁっ!!
動揺した俺は、ベッドから飛び出し自分の部屋に逃げこんだ。
ドア越しに小鳥遊の声が聞こえる。
「なに? お前、仕事抜け出して大阪まで俺の様子見に来たわけ?」
「ちっ、違うっ!! 違うぅぅぅっ!!」
「何が違うんだ。うな重やらバーやら、そんなことまで知ってるくせに」
「ひぃぃぃん……っ」
「それとさ。お前、俺のスウェット着て、俺のカッターシャツ抱いて、俺のベッドの上でシコッたろ」
「ヒィィィッ……」
終わった……。全部バレた。絶対引かれる。重いって言われる。す、捨て、捨て……
「月見里」
「は、はい……」
「お前、ちょっと重いな」
「ヒュッ……」
あ。あああ。ああ……。終わった。終わったぞ俺の幸せな日々が。
俺は絶望で床に崩れ落ちた。
ゆっくりと、ドアが開く。
放心状態になっている俺を、小鳥遊が見下ろした。
「俺、また勘違いしていたみたいだ」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……もうしないので……す、捨て、捨てないで……」
「なにをガクガク震えてるんだ。それになんだ、捨てないでって」
「ごめんなさい……もうしません……もうしません……」
俺の目からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
小鳥遊はため息を吐き、そっと俺を抱きしめる。
「こんなに俺のことを好きなお前を、俺は疑ってしまったのか」
「ごめんなさい……捨てないで……」
「はぁ……バカだなぁお前……」
小鳥遊は俺をベッドまで引きずった。俺はガタガタ震え、ベッドの隅で縮こまる。
そんな俺の涙を、小鳥遊が舌ですくった。
「月見里。そういうの、もっとほしい」
「え……?」
「お前が俺を好きだって分かること、もっとしろ」
俺はおそるおそる小鳥遊を見た。
「ひ、引いてないのか……?」
「引いてない。むしろ今までが物足りなかった」
「え……」
小鳥遊がムスッと唇を尖らせる。
「激重なんていう割にたいしたことなかったからガッカリしていた。嫉妬も束縛もしないから、逆に不安になったぞ」
「だって……嫌がられると思って……」
本当は、お前が仕事帰りに同僚と飲みに行くのも、休日に俺を置いて外出するのも嫌だった。でもそんなこと、言えるわけないだろう。大学生じゃあるまいし。
「出張中だって、全然連絡してこないし」
「だってお前が疲れてると思って……」
「あんまりお構いなしだったから、マッチングアプリで他の男ひっかけているんじゃないかと疑ったぞ」
「なっ……! お、お前ぇ……俺がどんな気持ちで我慢してたか知らないだろ……っ」
疑いをかけられるなんて心外だ。
ぷんぷん怒っている俺に、小鳥遊は冗談交じりに言った。
「お前には前科があるからなあ。あっちに行っては股を開き、こっちに行ってはケツを突きだして。挙句の果てに家に元カレ上げて四回もセックスしていたんだもんなあ」
「うぅぅ……っ! いつまでそのこと根に持ってんだよ!! あんときは付き合ってなかったからノーカンだろっ!!」
「そうだな。そうなんだが、俺はやっぱり不安になる」
だから、と言って、小鳥遊が俺を抱きしめた。
「俺に疑われないように、お前が今日したみたいなことも、思ってることも、これからは隠すな」
「……お前さ、そんなこと言うけど、実際されて引いたりしない?」
「引いたらやめろって言う」
「そうなっても俺のこと捨てない……?」
「やめろと言って、ちゃんとやめてくれたら捨てない」
「……じゃあ。隠さない」
少なくとも今日したこと程度のことではむしろ喜ばれるようだし、それならちょっと安心できる。
こいつ、変なの。普通嫌じゃないの、そういうことされるの。なんで喜ぶんだよ。
「……小鳥遊、抱いて」
試しに無理を言ってみた。小鳥遊はやつれた顔で、嬉しそうに微笑んだ。
でもやっぱり疲労困憊していたせいで、している最中に小鳥遊が寝落ちした。
「ありがと、小鳥遊」
俺は、ぐったりとした小鳥遊の肩に腕を回し、しばらく繋がったままでいることにした。
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