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後日談
飼い猫(月見里side)
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「うーん……」
営業の成績に目を通していた俺は、思わず低い声で唸った。
最近、小鳥遊の営業が振るわない。いつもはトップの成績なのにな……
心配になり、俺は小鳥遊に声をかけた。
「おい小鳥遊。最近成績が振るわないな。得意先と上手くいってないのか」
小鳥遊はギロッと俺を睨みつけ、すぐに顔を背けた。
「すみませんね。ちょっと最近寝不足なもんで。調子出なくて」
「うっ……」
「ゆっくり寝れたらいいんですけどね。最近、飼ってる猫が夜中ににゃんにゃんうるさくて、寝かせてくれないんですよ」
俺は顔を真っ赤にして自分の席に戻った。
小鳥遊の隣の席の女性社員が、小鳥遊に話しかけているのが聞こえた。
「さっきの会話聞こえちゃったんですけど、小鳥遊さん猫ちゃん飼ってるんですか?」
「ああ、最近飼い始めてね」
「え~! いいな~! どうです、やっぱりかわいいですか!?」
「可愛いよ。でも粗相するのがちょっとなあ……」
「あー……そういう困りごともあるんですねえ。猫ちゃんって、毛玉の吐き戻しするっていいますもんね」
「そうそう。吐くのは今までで一回しかないんだけど、なんせおもらしがねえ」
「マーキングしちゃうんですか?」
「そうそう。ベッドの上でよくマーキングを――」
たまらず俺は勢いよく立ち上がり、「小鳥遊ぃぃぃ!」と叫んでしまった。
俺の大声に、社員たちが一斉に顔を上げる。
我に返った俺は、額から汗をだらだら垂らしながらぎこちない笑みを浮かべる。
「せ、世間話もいいけど、ちゃんと仕事しろよー……」
「はあ」
小鳥遊は気のない返事だけして、隣の女性社員に言った。
「あ。猫の写真見ます? ちょうどおもらししちゃったときの写真が――」
「小鳥遊ぃぃぃ!! さっさと営業行ってこぉぉい!!」
課長!! 俺やっぱりこいつのこと嫌いです!! 弱みを握られてさらに嫌いになりました!! どうにかしてこいつの口を縫い付ける方法はないですか教えてください課長!!
◇◇◇
日付が変わるまで残業してから帰ってきた俺に、ソファでくつろいでいる小鳥遊がニヤニヤしながら言った。
「お。猫が帰ってきた」
「おいお前ぇぇぇっ!! オフィスでなんてこと言ってんだぁぁぁっ!!」
「俺、なにかおかしなこと言ってましたぁ? 可愛い猫の話してただけですけどー」
「ふざけてんのかお前ぇぇっ!! 俺の潮吹き動画見せるつもりだったのか!? あぁっ!?」
「やだな。動画じゃなくて写真だ」
「どっちでも同じだバカ野郎!!」
怒り狂っている俺に、小鳥遊が「チッチッチ」と舌を鳴らしながら手招きする。
「ほら猫ちゃん。暴れてないで早くおいで。良い子良い子」
「ナメてんのかテメェ……ッ」
なんて言いながらも、俺はしかめっつらで小鳥遊の膝の上に乗った。
小鳥遊がのあごの下を撫でる。
「おー。良い子良い子。今日も遅くまでおつかれさま」
「むぅ……」
「ほら。ただいまのキスは?」
「ん……」
小鳥遊は俺の扱い方をよく知っている。つまらないことで怒っているときは、たっぷりキスをしたらすぐに機嫌が直ることを分かっているのだ。
「ん、は……」
「落ち着いたか?」
「落ち着いたけど……。ああいうのやめろ……」
「悪い。からかった」
小鳥遊が俺のネクタイに指をかけ、手慣れた手つきでほどく。
「お前が俺のものだって、言いたくてしょうがないんだ」
「だからって潮吹き写真は……」
「バカかお前は。見せるわけないだろう。あんなお前を見ていいのは俺だけなんだから」
「……分かってんなら、あんなの冗談でも言うな」
「そうだな。悪かった」
しばらく触れ合ったあと、小鳥遊が「メシ食う?」と訊いた。
俺はそれに答えず、俯いた。
「俺、お前の負担になってる?」
「……ああ。俺の成績が落ちたことか」
「うん……」
「悪い。あれも冗談だよ」
小鳥遊は大口契約の営業をかけている真っ只中なのだそうだ。途中まで順調だったのだが、取引先が契約直前になって渋りはじめ、小鳥遊は必死に交渉しているらしい。
「お前が言った通り、思ったように進んでいなくてさ。図星をつかれて八つ当たりした。悪かったな」
「いや、俺の方こそ悪かった。次行くときは俺もついていくよ」
「これ以上お前の仕事を増やすのは……」
「何言ってんだよ。大口契約なんだろ? 俺で力になれるなら、喜んで手を貸すぞ」
「……助かる」
「お前はもうちょっと俺に頼った方がいい。一人でなんでもしようとしすぎだ」
「はぁい」
小鳥遊は俺のせいじゃないと言ってくれたが、俺が小鳥遊に無理をさせているのは事実だ。俺はショートスリーパーだから平気だが、小鳥遊はそうでもないもんな……。それなのに俺は毎晩毎晩ねだってしまって……。しかも一回じゃ足りずに何回も……。
俺は落ち込んだまま小鳥遊の手料理を頬張り、風呂に入り、ベッドに入った。
いつもなら俺から誘うのに、なかなか誘ってこないものだから、小鳥遊が「どうした?」と尋ねた。
「今日はしないのか?」
「お、俺……。これから平日は我慢する……」
「……俺が言ったこと気にしてんのか」
「いや、えっと……うん。無理させてたなって気付いた……。ごめん」
小鳥遊が、ふわっと俺を抱きしめる。
「違う。俺の方こそごめん。無理とかじゃない。俺もしたい」
「でも……寝不足なのは本当だろ」
「まあ……。でも」
「んっ……」
うなじを舐められ、俺の体がぴくっと反応した。
「俺もしたいんだって」
「じゃあ……一回だけする」
「そうだな。今晩はもう遅いし、一回だけ」
一回だけセックスをして寝たはいいものの、互いに物足りず、結局朝起きてからもセックスをした。
そのせいで二人して始業ギリギリの出社になった。
「小鳥遊さんっ。猫ちゃんの写真見せてくださいよぉっ」
「あー。また今度ね」
「えーっ。今見たいです~! お願いします~!」
「仕方ないな……。じゃあ寝顔の写真でもいい?」
「えっ、見たいですー!!」
「おい小鳥遊ぃぃぃっ! 油打ってないで早く営業行くぞぉぉぉっ!!」
営業の成績に目を通していた俺は、思わず低い声で唸った。
最近、小鳥遊の営業が振るわない。いつもはトップの成績なのにな……
心配になり、俺は小鳥遊に声をかけた。
「おい小鳥遊。最近成績が振るわないな。得意先と上手くいってないのか」
小鳥遊はギロッと俺を睨みつけ、すぐに顔を背けた。
「すみませんね。ちょっと最近寝不足なもんで。調子出なくて」
「うっ……」
「ゆっくり寝れたらいいんですけどね。最近、飼ってる猫が夜中ににゃんにゃんうるさくて、寝かせてくれないんですよ」
俺は顔を真っ赤にして自分の席に戻った。
小鳥遊の隣の席の女性社員が、小鳥遊に話しかけているのが聞こえた。
「さっきの会話聞こえちゃったんですけど、小鳥遊さん猫ちゃん飼ってるんですか?」
「ああ、最近飼い始めてね」
「え~! いいな~! どうです、やっぱりかわいいですか!?」
「可愛いよ。でも粗相するのがちょっとなあ……」
「あー……そういう困りごともあるんですねえ。猫ちゃんって、毛玉の吐き戻しするっていいますもんね」
「そうそう。吐くのは今までで一回しかないんだけど、なんせおもらしがねえ」
「マーキングしちゃうんですか?」
「そうそう。ベッドの上でよくマーキングを――」
たまらず俺は勢いよく立ち上がり、「小鳥遊ぃぃぃ!」と叫んでしまった。
俺の大声に、社員たちが一斉に顔を上げる。
我に返った俺は、額から汗をだらだら垂らしながらぎこちない笑みを浮かべる。
「せ、世間話もいいけど、ちゃんと仕事しろよー……」
「はあ」
小鳥遊は気のない返事だけして、隣の女性社員に言った。
「あ。猫の写真見ます? ちょうどおもらししちゃったときの写真が――」
「小鳥遊ぃぃぃ!! さっさと営業行ってこぉぉい!!」
課長!! 俺やっぱりこいつのこと嫌いです!! 弱みを握られてさらに嫌いになりました!! どうにかしてこいつの口を縫い付ける方法はないですか教えてください課長!!
◇◇◇
日付が変わるまで残業してから帰ってきた俺に、ソファでくつろいでいる小鳥遊がニヤニヤしながら言った。
「お。猫が帰ってきた」
「おいお前ぇぇぇっ!! オフィスでなんてこと言ってんだぁぁぁっ!!」
「俺、なにかおかしなこと言ってましたぁ? 可愛い猫の話してただけですけどー」
「ふざけてんのかお前ぇぇっ!! 俺の潮吹き動画見せるつもりだったのか!? あぁっ!?」
「やだな。動画じゃなくて写真だ」
「どっちでも同じだバカ野郎!!」
怒り狂っている俺に、小鳥遊が「チッチッチ」と舌を鳴らしながら手招きする。
「ほら猫ちゃん。暴れてないで早くおいで。良い子良い子」
「ナメてんのかテメェ……ッ」
なんて言いながらも、俺はしかめっつらで小鳥遊の膝の上に乗った。
小鳥遊がのあごの下を撫でる。
「おー。良い子良い子。今日も遅くまでおつかれさま」
「むぅ……」
「ほら。ただいまのキスは?」
「ん……」
小鳥遊は俺の扱い方をよく知っている。つまらないことで怒っているときは、たっぷりキスをしたらすぐに機嫌が直ることを分かっているのだ。
「ん、は……」
「落ち着いたか?」
「落ち着いたけど……。ああいうのやめろ……」
「悪い。からかった」
小鳥遊が俺のネクタイに指をかけ、手慣れた手つきでほどく。
「お前が俺のものだって、言いたくてしょうがないんだ」
「だからって潮吹き写真は……」
「バカかお前は。見せるわけないだろう。あんなお前を見ていいのは俺だけなんだから」
「……分かってんなら、あんなの冗談でも言うな」
「そうだな。悪かった」
しばらく触れ合ったあと、小鳥遊が「メシ食う?」と訊いた。
俺はそれに答えず、俯いた。
「俺、お前の負担になってる?」
「……ああ。俺の成績が落ちたことか」
「うん……」
「悪い。あれも冗談だよ」
小鳥遊は大口契約の営業をかけている真っ只中なのだそうだ。途中まで順調だったのだが、取引先が契約直前になって渋りはじめ、小鳥遊は必死に交渉しているらしい。
「お前が言った通り、思ったように進んでいなくてさ。図星をつかれて八つ当たりした。悪かったな」
「いや、俺の方こそ悪かった。次行くときは俺もついていくよ」
「これ以上お前の仕事を増やすのは……」
「何言ってんだよ。大口契約なんだろ? 俺で力になれるなら、喜んで手を貸すぞ」
「……助かる」
「お前はもうちょっと俺に頼った方がいい。一人でなんでもしようとしすぎだ」
「はぁい」
小鳥遊は俺のせいじゃないと言ってくれたが、俺が小鳥遊に無理をさせているのは事実だ。俺はショートスリーパーだから平気だが、小鳥遊はそうでもないもんな……。それなのに俺は毎晩毎晩ねだってしまって……。しかも一回じゃ足りずに何回も……。
俺は落ち込んだまま小鳥遊の手料理を頬張り、風呂に入り、ベッドに入った。
いつもなら俺から誘うのに、なかなか誘ってこないものだから、小鳥遊が「どうした?」と尋ねた。
「今日はしないのか?」
「お、俺……。これから平日は我慢する……」
「……俺が言ったこと気にしてんのか」
「いや、えっと……うん。無理させてたなって気付いた……。ごめん」
小鳥遊が、ふわっと俺を抱きしめる。
「違う。俺の方こそごめん。無理とかじゃない。俺もしたい」
「でも……寝不足なのは本当だろ」
「まあ……。でも」
「んっ……」
うなじを舐められ、俺の体がぴくっと反応した。
「俺もしたいんだって」
「じゃあ……一回だけする」
「そうだな。今晩はもう遅いし、一回だけ」
一回だけセックスをして寝たはいいものの、互いに物足りず、結局朝起きてからもセックスをした。
そのせいで二人して始業ギリギリの出社になった。
「小鳥遊さんっ。猫ちゃんの写真見せてくださいよぉっ」
「あー。また今度ね」
「えーっ。今見たいです~! お願いします~!」
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