34 / 65
同窓会
第三十四話
しおりを挟む
透流に復縁を願われても、思いのほか心は揺さぶられなかった。
そのときの俺は、困っているような笑っているような、なんとも言えない顔をしていたと思う。
「透流。悪いけど俺はもうお前と付き合うつもりないよ」
「……あのときひどいこと言ったもんな、俺。ほんとごめん。すごく後悔してる。もうあんなこと、二度と言わないから――」
「……」
「お前が頷いてくれるなら、今からでも一緒にフランス行って結婚するよ、俺」
「透流、俺はもう――」
言葉の途中で、唇を塞がれた。縋りつくようなキスに、悲しくなってくる。
俺はそっと透流を押し離し、小声で言った。
「透流。みんないるんだから、そういうのやめて」
「……じゃあ、みんながいないとこ行こうよ」
「いや、俺は……」
「お願い、斗真……」
そう言って、透流が俺を抱きしめる。
「やっと会えたんだ……。ずっと会いたかったんだ……」
「……」
「好きなんだ……好きなんだよ、斗真のこと……」
どうして?
お前が俺を捨てたんだよ。
なんでお前が俺に縋りついているの。
ずっと好きだったとか、結婚するとか……。
どうして七年も経ってから、俺が欲しかった言葉を言うんだよ。
「……透流、今も俺のこと好きなの?」
「うん……好き……」
「なんで俺のこと捨てたの?」
「あのときの俺は……バカだったんだ……」
「重かったんだろ? お前のことが好きすぎた俺のこと、迷惑に思ってたんだろ」
「俺……麻痺してたんだ……。お前が隣にいることを、当たり前に思いすぎてしまってて……」
本当に後悔している、と透流は何度も繰り返した。
同窓会が終わったあと、透流が帰ろうとする俺を引き留めた。
「斗真、どこ住んでんの?」
「東京」
「泊めてよ。俺、関西から来たんだ。泊まるとこなくて」
「……」
「お願い……。俺、もっと斗真と話したい」
透流を家に泊めて、何もないわけがない。
それを分かっていて俺が透流を連れ帰ったのは、透流に対する同情と、それと同じくらいの興味、そして逃避願望があったからだった。
俺の家に上がった透流は、苦笑を浮かべた。
「相変わらず家に何も置きたがらないのな」
「掃除めんどくさくなるし。物があるから散らかるんだ」
「はは。昔から変わんないね」
そう言って、透流は俺をうしろから抱きしめた。
「ずっとこうしたかった」
「……」
「斗真、今さらだけど……。今、彼氏いるの?」
「……いない、けど」
「よかった」
またキスをされた。懐かしいキスだ。自然と受け入れてしまうほどには、昔と少しも変わらない。
「斗真……。背が伸びて大人になったね」
「透流はあんまり変わってない。ちょっと大人っぽくなったけど、昔のまんま」
「そう? だいぶ老けたと思うけどな」
シャワー浴びておいで、と透流は言った。
「浴びないでするのきらいでしょ」
「……するの?」
「したいよ、俺は」
「……」
こうなることは予想した上で、家に入れた。
「透流。先に言っとくけど、俺、お前と付き合う気ないよ」
「……」
「……するだけなら、いいけど。それでもいいなら、シャワー浴びてくる」
透流はこくんと唾を呑み込み、頷いた。
「うん。行っておいで」
俺のあと、透流もシャワーを浴びた。それから俺たちは昔のようにベッドで抱き合う。
「はは。懐かしいね、斗真」
「……うん」
「俺とのセックス、覚えてくれてる?」
「忘れろっていうほうが難しいだろ。あんなにしてたんだから」
「ほんとに。俺もそう」
ゴムを付けてくれと言ったら、透流は寂しそうな目をして頷いた。
「あのときと同じようにはさせてくれないか」
「さすがにね」
「ま、仕方ないね。俺のせい」
「あっ……」
透流のペニスが俺の中に入ってくる。懐かしはずなのに、いつもと違う感覚に戸惑った。
「んっ……!! あぁぁっ……! やばっ……、やっぱ斗真の中……っ、やばいねっ……」
「んんっ……」
「はっ……きもちいっ……、あー……これ、これを求めてたの、俺……っ、あぁっ……」
「あっ……んっ、んんっ……」
「はっ……あぁっ……!! やば……っ、やばっ、んっ、あっ、気持ちいいっ、あっ……斗真っ……斗真ぁっ!」
「……」
繋がって、実感した。
透流は俺のことを好きなわけではない。
こいつがずっと後悔していたのは、俺ではなく俺の体を手放したことだったのだ。
「あぁぁっ、あっ、やば、腰止まんないっ……!! もう出そうっ……! イッていいっ? イクよ、斗真……!!」
透流との懐かしいセックス。昔と変わらないセックス。こんなセックスを毎日して、悦んでいたのか俺は。
こんな、相手と目も合わないセックスで。
自分本位にひたすら腰を振り、己の快感を得ることしか考えていないセックスで。
「斗真……っ、もう一回……っ。うしろ向いて……」
寝室に響き渡る、透流の嬌声。昔はこの声を聞くのが好きだった。俺の体で悦んでくれることが嬉しかった。
でも、今は違う。俺は知ってしまったから。
俺の体ではなく俺のことを想い、自分にではなく俺に快感を与えるために抱くような、そんな人がいることを。
小鳥遊とのセックスに愛がこもっていることを、俺はそのときやっと気付いた。
満足するまで俺を抱いた透流は、思い出したかのように俺にキスをした。
「斗真……。やっぱり俺たち、やり直せないかな」
抱かれながらずいぶん頭の整理ができていた俺は、きっぱりとこう言った。
「悪い。俺、好きな人いるから無理」
「えっ。でもさっき彼氏いないって……!」
「付き合ってないだけで、好きな人はいるから」
俺は上体を起こし、伸びをした。自分勝手に腰を振られたせいで体が痛む。
「さっきまでウダウダ悩んでたけど、透流のおかげで吹っ切れたわ」
「え、俺のおかげ……?」
「うん。透流とあいつじゃ全然違うってこと、分かったから」
あいつはずっと、俺を想った行動ばかりしてくれていた。
俺の誰にも言いたくない秘密も、かっこわるいところも、だらしないところも弱いところも、あいつは全部知っている。その上であいつは俺のことを受け入れてくれているし、甘やかしてくれている。
そんなあいつなら、もしかしたら……
俺の毒も甘んじて受け入れてくれるような、そんな気がした。
そのときの俺は、困っているような笑っているような、なんとも言えない顔をしていたと思う。
「透流。悪いけど俺はもうお前と付き合うつもりないよ」
「……あのときひどいこと言ったもんな、俺。ほんとごめん。すごく後悔してる。もうあんなこと、二度と言わないから――」
「……」
「お前が頷いてくれるなら、今からでも一緒にフランス行って結婚するよ、俺」
「透流、俺はもう――」
言葉の途中で、唇を塞がれた。縋りつくようなキスに、悲しくなってくる。
俺はそっと透流を押し離し、小声で言った。
「透流。みんないるんだから、そういうのやめて」
「……じゃあ、みんながいないとこ行こうよ」
「いや、俺は……」
「お願い、斗真……」
そう言って、透流が俺を抱きしめる。
「やっと会えたんだ……。ずっと会いたかったんだ……」
「……」
「好きなんだ……好きなんだよ、斗真のこと……」
どうして?
お前が俺を捨てたんだよ。
なんでお前が俺に縋りついているの。
ずっと好きだったとか、結婚するとか……。
どうして七年も経ってから、俺が欲しかった言葉を言うんだよ。
「……透流、今も俺のこと好きなの?」
「うん……好き……」
「なんで俺のこと捨てたの?」
「あのときの俺は……バカだったんだ……」
「重かったんだろ? お前のことが好きすぎた俺のこと、迷惑に思ってたんだろ」
「俺……麻痺してたんだ……。お前が隣にいることを、当たり前に思いすぎてしまってて……」
本当に後悔している、と透流は何度も繰り返した。
同窓会が終わったあと、透流が帰ろうとする俺を引き留めた。
「斗真、どこ住んでんの?」
「東京」
「泊めてよ。俺、関西から来たんだ。泊まるとこなくて」
「……」
「お願い……。俺、もっと斗真と話したい」
透流を家に泊めて、何もないわけがない。
それを分かっていて俺が透流を連れ帰ったのは、透流に対する同情と、それと同じくらいの興味、そして逃避願望があったからだった。
俺の家に上がった透流は、苦笑を浮かべた。
「相変わらず家に何も置きたがらないのな」
「掃除めんどくさくなるし。物があるから散らかるんだ」
「はは。昔から変わんないね」
そう言って、透流は俺をうしろから抱きしめた。
「ずっとこうしたかった」
「……」
「斗真、今さらだけど……。今、彼氏いるの?」
「……いない、けど」
「よかった」
またキスをされた。懐かしいキスだ。自然と受け入れてしまうほどには、昔と少しも変わらない。
「斗真……。背が伸びて大人になったね」
「透流はあんまり変わってない。ちょっと大人っぽくなったけど、昔のまんま」
「そう? だいぶ老けたと思うけどな」
シャワー浴びておいで、と透流は言った。
「浴びないでするのきらいでしょ」
「……するの?」
「したいよ、俺は」
「……」
こうなることは予想した上で、家に入れた。
「透流。先に言っとくけど、俺、お前と付き合う気ないよ」
「……」
「……するだけなら、いいけど。それでもいいなら、シャワー浴びてくる」
透流はこくんと唾を呑み込み、頷いた。
「うん。行っておいで」
俺のあと、透流もシャワーを浴びた。それから俺たちは昔のようにベッドで抱き合う。
「はは。懐かしいね、斗真」
「……うん」
「俺とのセックス、覚えてくれてる?」
「忘れろっていうほうが難しいだろ。あんなにしてたんだから」
「ほんとに。俺もそう」
ゴムを付けてくれと言ったら、透流は寂しそうな目をして頷いた。
「あのときと同じようにはさせてくれないか」
「さすがにね」
「ま、仕方ないね。俺のせい」
「あっ……」
透流のペニスが俺の中に入ってくる。懐かしはずなのに、いつもと違う感覚に戸惑った。
「んっ……!! あぁぁっ……! やばっ……、やっぱ斗真の中……っ、やばいねっ……」
「んんっ……」
「はっ……きもちいっ……、あー……これ、これを求めてたの、俺……っ、あぁっ……」
「あっ……んっ、んんっ……」
「はっ……あぁっ……!! やば……っ、やばっ、んっ、あっ、気持ちいいっ、あっ……斗真っ……斗真ぁっ!」
「……」
繋がって、実感した。
透流は俺のことを好きなわけではない。
こいつがずっと後悔していたのは、俺ではなく俺の体を手放したことだったのだ。
「あぁぁっ、あっ、やば、腰止まんないっ……!! もう出そうっ……! イッていいっ? イクよ、斗真……!!」
透流との懐かしいセックス。昔と変わらないセックス。こんなセックスを毎日して、悦んでいたのか俺は。
こんな、相手と目も合わないセックスで。
自分本位にひたすら腰を振り、己の快感を得ることしか考えていないセックスで。
「斗真……っ、もう一回……っ。うしろ向いて……」
寝室に響き渡る、透流の嬌声。昔はこの声を聞くのが好きだった。俺の体で悦んでくれることが嬉しかった。
でも、今は違う。俺は知ってしまったから。
俺の体ではなく俺のことを想い、自分にではなく俺に快感を与えるために抱くような、そんな人がいることを。
小鳥遊とのセックスに愛がこもっていることを、俺はそのときやっと気付いた。
満足するまで俺を抱いた透流は、思い出したかのように俺にキスをした。
「斗真……。やっぱり俺たち、やり直せないかな」
抱かれながらずいぶん頭の整理ができていた俺は、きっぱりとこう言った。
「悪い。俺、好きな人いるから無理」
「えっ。でもさっき彼氏いないって……!」
「付き合ってないだけで、好きな人はいるから」
俺は上体を起こし、伸びをした。自分勝手に腰を振られたせいで体が痛む。
「さっきまでウダウダ悩んでたけど、透流のおかげで吹っ切れたわ」
「え、俺のおかげ……?」
「うん。透流とあいつじゃ全然違うってこと、分かったから」
あいつはずっと、俺を想った行動ばかりしてくれていた。
俺の誰にも言いたくない秘密も、かっこわるいところも、だらしないところも弱いところも、あいつは全部知っている。その上であいつは俺のことを受け入れてくれているし、甘やかしてくれている。
そんなあいつなら、もしかしたら……
俺の毒も甘んじて受け入れてくれるような、そんな気がした。
447
お気に入りに追加
923
あなたにおすすめの小説
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
ナイトプールが出会いの場だと知らずに友達に連れてこられた地味な大学生がド派手な美しい男にナンパされて口説かれる話
ゆなな
BL
高級ホテルのナイトプールが出会いの場だと知らずに大学の友達に連れて来れられた平凡な大学生海斗。
海斗はその場で自分が浮いていることに気が付き帰ろうとしたが、見たことがないくらい美しい男に声を掛けられる。
夏の夜のプールで甘くかき口説かれた海斗は、これが美しい男の一夜の気まぐれだとわかっていても夢中にならずにはいられなかった。
ホテルに宿泊していた男に流れるように部屋に連れ込まれた海斗。
翌朝逃げるようにホテルの部屋を出た海斗はようやく男の驚くべき正体に気が付き、目を瞠った……
罰ゲームでパパ活したら美丈夫が釣れました
田中 乃那加
BL
エロです
考えるな、感じるんだ
罰ゲームでパパ活垢つくってオッサン引っ掛けようとしたら、めちゃくちゃイケメンでどこか浮世離れした美丈夫(オッサン)来ちゃった!?
あの手この手で気がつけば――。
美丈夫×男子高校生
のアホエロ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる