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同窓会

第三十四話

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 透流に復縁を願われても、思いのほか心は揺さぶられなかった。
 そのときの俺は、困っているような笑っているような、なんとも言えない顔をしていたと思う。

「透流。悪いけど俺はもうお前と付き合うつもりないよ」
「……あのときひどいこと言ったもんな、俺。ほんとごめん。すごく後悔してる。もうあんなこと、二度と言わないから――」
「……」
「お前が頷いてくれるなら、今からでも一緒にフランス行って結婚するよ、俺」
「透流、俺はもう――」

 言葉の途中で、唇を塞がれた。縋りつくようなキスに、悲しくなってくる。
 俺はそっと透流を押し離し、小声で言った。

「透流。みんないるんだから、そういうのやめて」
「……じゃあ、みんながいないとこ行こうよ」
「いや、俺は……」
「お願い、斗真……」

 そう言って、透流が俺を抱きしめる。

「やっと会えたんだ……。ずっと会いたかったんだ……」
「……」
「好きなんだ……好きなんだよ、斗真のこと……」

 どうして?
 お前が俺を捨てたんだよ。
 なんでお前が俺に縋りついているの。

 ずっと好きだったとか、結婚するとか……。
 どうして七年も経ってから、俺が欲しかった言葉を言うんだよ。

「……透流、今も俺のこと好きなの?」
「うん……好き……」
「なんで俺のこと捨てたの?」
「あのときの俺は……バカだったんだ……」
「重かったんだろ? お前のことが好きすぎた俺のこと、迷惑に思ってたんだろ」
「俺……麻痺してたんだ……。お前が隣にいることを、当たり前に思いすぎてしまってて……」

 本当に後悔している、と透流は何度も繰り返した。
 同窓会が終わったあと、透流が帰ろうとする俺を引き留めた。

「斗真、どこ住んでんの?」
「東京」
「泊めてよ。俺、関西から来たんだ。泊まるとこなくて」
「……」
「お願い……。俺、もっと斗真と話したい」

 透流を家に泊めて、何もないわけがない。
 それを分かっていて俺が透流を連れ帰ったのは、透流に対する同情と、それと同じくらいの興味、そして逃避願望があったからだった。

 俺の家に上がった透流は、苦笑を浮かべた。

「相変わらず家に何も置きたがらないのな」
「掃除めんどくさくなるし。物があるから散らかるんだ」
「はは。昔から変わんないね」

 そう言って、透流は俺をうしろから抱きしめた。

「ずっとこうしたかった」
「……」
「斗真、今さらだけど……。今、彼氏いるの?」
「……いない、けど」
「よかった」

 またキスをされた。懐かしいキスだ。自然と受け入れてしまうほどには、昔と少しも変わらない。

「斗真……。背が伸びて大人になったね」
「透流はあんまり変わってない。ちょっと大人っぽくなったけど、昔のまんま」
「そう? だいぶ老けたと思うけどな」

 シャワー浴びておいで、と透流は言った。

「浴びないでするのきらいでしょ」
「……するの?」
「したいよ、俺は」
「……」

 こうなることは予想した上で、家に入れた。

「透流。先に言っとくけど、俺、お前と付き合う気ないよ」
「……」
「……するだけなら、いいけど。それでもいいなら、シャワー浴びてくる」

 透流はこくんと唾を呑み込み、頷いた。

「うん。行っておいで」

 俺のあと、透流もシャワーを浴びた。それから俺たちは昔のようにベッドで抱き合う。

「はは。懐かしいね、斗真」
「……うん」
「俺とのセックス、覚えてくれてる?」
「忘れろっていうほうが難しいだろ。あんなにしてたんだから」
「ほんとに。俺もそう」

 ゴムを付けてくれと言ったら、透流は寂しそうな目をして頷いた。

「あのときと同じようにはさせてくれないか」
「さすがにね」
「ま、仕方ないね。俺のせい」
「あっ……」

 透流のペニスが俺の中に入ってくる。懐かしはずなのに、いつもと違う感覚に戸惑った。

「んっ……!! あぁぁっ……! やばっ……、やっぱ斗真の中……っ、やばいねっ……」
「んんっ……」
「はっ……きもちいっ……、あー……これ、これを求めてたの、俺……っ、あぁっ……」
「あっ……んっ、んんっ……」
「はっ……あぁっ……!! やば……っ、やばっ、んっ、あっ、気持ちいいっ、あっ……斗真っ……斗真ぁっ!」
「……」

 繋がって、実感した。
 透流は俺のことを好きなわけではない。
 こいつがずっと後悔していたのは、俺ではなく俺の体を手放したことだったのだ。

「あぁぁっ、あっ、やば、腰止まんないっ……!! もう出そうっ……! イッていいっ? イクよ、斗真……!!」

 透流との懐かしいセックス。昔と変わらないセックス。こんなセックスを毎日して、悦んでいたのか俺は。

 こんな、相手と目も合わないセックスで。
 自分本位にひたすら腰を振り、己の快感を得ることしか考えていないセックスで。

「斗真……っ、もう一回……っ。うしろ向いて……」

 寝室に響き渡る、透流の嬌声。昔はこの声を聞くのが好きだった。俺の体で悦んでくれることが嬉しかった。

 でも、今は違う。俺は知ってしまったから。
 俺の体ではなく俺のことを想い、自分にではなく俺に快感を与えるために抱くような、そんな人がいることを。

 小鳥遊とのセックスに愛がこもっていることを、俺はそのときやっと気付いた。


 満足するまで俺を抱いた透流は、思い出したかのように俺にキスをした。

「斗真……。やっぱり俺たち、やり直せないかな」

 抱かれながらずいぶん頭の整理ができていた俺は、きっぱりとこう言った。

「悪い。俺、好きな人いるから無理」
「えっ。でもさっき彼氏いないって……!」
「付き合ってないだけで、好きな人はいるから」

 俺は上体を起こし、伸びをした。自分勝手に腰を振られたせいで体が痛む。

「さっきまでウダウダ悩んでたけど、透流のおかげで吹っ切れたわ」
「え、俺のおかげ……?」
「うん。透流とあいつじゃ全然違うってこと、分かったから」

 あいつはずっと、俺を想った行動ばかりしてくれていた。
 俺の誰にも言いたくない秘密も、かっこわるいところも、だらしないところも弱いところも、あいつは全部知っている。その上であいつは俺のことを受け入れてくれているし、甘やかしてくれている。
 そんなあいつなら、もしかしたら……

 俺の毒も甘んじて受け入れてくれるような、そんな気がした。
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