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飲み会
第十二話
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◇◇◇
頭が痛い。全身がダルい。自分の吐く息が酒臭い。
最悪な寝起きだ。
特に腰が重い。まるで何かにのしかかられているような――
「……」
目を開けた俺は絶句した。
目の前に小鳥遊の顔面がある。
そしておそらく俺は、小鳥遊の腰に腕を回している。
俺の腰に乗っかかっているのは小鳥遊の腕なのだろう。
「……」
昨晩何があった。
ここはどこだ。ホテルではなさそうだが……。
生活感のある見知らぬ寝室……まさか……。
小鳥遊の家だったりする……?
なぜこうなった?
昨晩は確かカトウさんたちと飲んだよな。でも途中から記憶がない。
「冷酒……」
そうだ。冷酒を飲んだ。美味しくて何杯も……
「俺はバカか……?」
自分が酒に弱いことは自覚していただろう!?
それなのになぜ日本酒なんかをガブガブ飲んだんだ!?
いや、もうそのことはどうでもいい。
問題はそのあと何があったか、だ。
くそ。全く覚えていない。
いやしかしこうしてベッドの上で抱き合って寝ているということは……
まさか、俺はまた小鳥遊と……
「起きたか?」
「ひぃっ」
小鳥遊が無表情で俺を見つめる。
俺はキッと睨みつけた。
「お、おいっ。ここはどこだ! 昨晩何があったか説明しろ!」
「やっぱり覚えてないか」
「ぐっ……」
「まあいい。教えてやる」
小鳥遊は事務報告のように淡々とことのあらましを説明した。
「酔いつぶれたお前は自分の家の住所すら言えず、のこのこと俺の家についてきた」
「やっぱりお前の家か……」
「そしてお前は俺の家に来て早々しこたま吐瀉物を撒き散らし――」
「……」
「ゲロまみれのまま寝るのは嫌だからとシャワーを浴びようとして素っ裸で盛大に転び――」
ああ、もうすでに消えたい。
「俺に体を洗わせ、ついでにイクまでちんこをシゴけと命令して――」
「……」
「おまけにケツも指でイカせろとねだり――」
「……」
「ベッドで一緒に寝ろとダダをこね――」
「……」
「挙句の果てに挿れろと言ってきた」
「ぎゃああああああ!! もうやめろぉぉぉぉっ!!」
俺は小鳥遊の口を手で塞ぎ、涙目で懇願する。
「嘘だと言ってくれ!! 頼むっ、嘘だと言ってくれぇぇっ!!」
「……」
小鳥遊は首を横に振った。
奇声を発しながら枕の下に潜り込んだ俺を、小鳥遊が慰める。
「安心しろ。俺はお前と違って酔っていなかったし、お前と違って理性を保っていたし、お前と違って性に貪欲ではないから、挿れなかったぞ」
「慰めというよりトドメだよなそれ!!」
小鳥遊はニヤニヤしながら床を指さす。
「まあ、お前がどうしてもしたいと言うなら、別に俺はしてやっても構わないが? ちょっとそこで土下座でもしてくれたら俺のペニスを貸してやるし、いつでもよしよししてやるぞ」
「誰がお前なんかと! こっちからお断りだバカ!!」
俺の醜態を見たからって上機嫌だなこいつ!!
俺は小鳥遊の胸ぐらをつかみ、ぐあんぐあん揺らした。
「いいかっ! 昨晩のことは誰にも言うな!! 絶対だ!! 絶対にだ!!」
「ほーん? 黙っていて俺にメリットがあるのか?」
「ぐぅっ……」
「黙っててほしいなら、それ相応の見返りがないとなあ?」
クッソォォォッ……!!
俺は歯を食いしばり、「いくらだ。いくら欲しいんだ」と訊いた。
「五十万までなら出す……だから……」
小鳥遊はポカンとしたあと、大声で笑った。
「五十万? そんなはした金でどうにかなるとでも?」
「ぐぅっ……じゃ、じゃあ八十万……」
「アホか。前と同じ……これだよ」
そう言って、小鳥遊は自分の唇をトントンと叩いた。
俺はあからさまに嫌な顔をしていたと思う。
「お前……嘘だろ……? 絶対に八十万の方がいいだろ」
「嘘じゃない。お前にとって一番嫌なことをしたいんだよ」
「最低」
前の仕返しをするかのように、小鳥遊は言った。
「あ、口ゆすいでこいよ。俺、ゲロの味嫌いだからー」
「むぅ……」
「ちゃんと〝くちゅくちゅ〟もするんだぞー」
「うるさいなっ……!」
俺は肩をいからせながら洗面台に向かい、念入りに口をゆすいだ。
ベッドに戻ると、小鳥遊にニヤニヤしながら手招きされる。
「ちゃんとベロチューしろよ。あと、俺が良いって言うまでやめるなよ」
「くそぉ……今ここでお前を亡き者にしてえ……」
「ははっ。やっぱり月見里はこっちの方が良いわ」
「何の話だ……」
顔を近づけても、小鳥遊は目を閉じずにじっとこちらを見つめていた。そんな見るな。
唇が触れ合う。気乗りしないまま舌を入れ、しばらく絡め合う。
「ふ……ん……」
ダメだ。もうやめたい。体の芯が熱くなってくる。これ以上はダメ――
「ふっ!?」
口を離そうとしたら、小鳥遊に頭を抱き寄せられた。動けない。離れられない。
「んっ……んんっ……!」
先ほどまで受け身だった小鳥遊の舌が、俺の口の中に入ってきて掻き回す。
激しい。熱い。頭がふわふわしてくる。
小鳥遊のキスがだんだんと激しさを増していく。
小鳥遊も興奮しているのか、俺を抱きしめる力が強くなっていった。
「あっ……」
押し倒された。
小鳥遊は俺に覆いかぶさり、さらに激しいキスをする。
「んっ……もっ、たかなっ……も、むりっ……やめっ……」
「俺が良いって言うまでやめるなって言っただろ」
「もっ……いいだろっ……」
「まだ」
「んん……っ」
どのくらい時間が経ったのか分からない。
小鳥遊が俺を解放したときには、俺は涎を垂らしてぐったりしていた。
小鳥遊は俺の股間をつつき、鼻で笑う。
「キスしただけでこんなにおっ勃てて」
「うっ……うるさいなっ……お前だって勃ってるだろっ……!」
「だって俺は昨日抜いてないからなあ。お前は一回ずつ射精と中イキしてるのに」
「ぐ……」
指先で俺のペニスを服越しになぞりながら、小鳥遊がからかう。
「言わないのか? 〝もっと触って。お願い、キツい〟って」
「ひぃっ……お、俺、そんなことをお前に……? ひっ、ひぃぃ……っ」
俺はこの日、日本酒を今後一生飲まないと胸に誓った。
頭が痛い。全身がダルい。自分の吐く息が酒臭い。
最悪な寝起きだ。
特に腰が重い。まるで何かにのしかかられているような――
「……」
目を開けた俺は絶句した。
目の前に小鳥遊の顔面がある。
そしておそらく俺は、小鳥遊の腰に腕を回している。
俺の腰に乗っかかっているのは小鳥遊の腕なのだろう。
「……」
昨晩何があった。
ここはどこだ。ホテルではなさそうだが……。
生活感のある見知らぬ寝室……まさか……。
小鳥遊の家だったりする……?
なぜこうなった?
昨晩は確かカトウさんたちと飲んだよな。でも途中から記憶がない。
「冷酒……」
そうだ。冷酒を飲んだ。美味しくて何杯も……
「俺はバカか……?」
自分が酒に弱いことは自覚していただろう!?
それなのになぜ日本酒なんかをガブガブ飲んだんだ!?
いや、もうそのことはどうでもいい。
問題はそのあと何があったか、だ。
くそ。全く覚えていない。
いやしかしこうしてベッドの上で抱き合って寝ているということは……
まさか、俺はまた小鳥遊と……
「起きたか?」
「ひぃっ」
小鳥遊が無表情で俺を見つめる。
俺はキッと睨みつけた。
「お、おいっ。ここはどこだ! 昨晩何があったか説明しろ!」
「やっぱり覚えてないか」
「ぐっ……」
「まあいい。教えてやる」
小鳥遊は事務報告のように淡々とことのあらましを説明した。
「酔いつぶれたお前は自分の家の住所すら言えず、のこのこと俺の家についてきた」
「やっぱりお前の家か……」
「そしてお前は俺の家に来て早々しこたま吐瀉物を撒き散らし――」
「……」
「ゲロまみれのまま寝るのは嫌だからとシャワーを浴びようとして素っ裸で盛大に転び――」
ああ、もうすでに消えたい。
「俺に体を洗わせ、ついでにイクまでちんこをシゴけと命令して――」
「……」
「おまけにケツも指でイカせろとねだり――」
「……」
「ベッドで一緒に寝ろとダダをこね――」
「……」
「挙句の果てに挿れろと言ってきた」
「ぎゃああああああ!! もうやめろぉぉぉぉっ!!」
俺は小鳥遊の口を手で塞ぎ、涙目で懇願する。
「嘘だと言ってくれ!! 頼むっ、嘘だと言ってくれぇぇっ!!」
「……」
小鳥遊は首を横に振った。
奇声を発しながら枕の下に潜り込んだ俺を、小鳥遊が慰める。
「安心しろ。俺はお前と違って酔っていなかったし、お前と違って理性を保っていたし、お前と違って性に貪欲ではないから、挿れなかったぞ」
「慰めというよりトドメだよなそれ!!」
小鳥遊はニヤニヤしながら床を指さす。
「まあ、お前がどうしてもしたいと言うなら、別に俺はしてやっても構わないが? ちょっとそこで土下座でもしてくれたら俺のペニスを貸してやるし、いつでもよしよししてやるぞ」
「誰がお前なんかと! こっちからお断りだバカ!!」
俺の醜態を見たからって上機嫌だなこいつ!!
俺は小鳥遊の胸ぐらをつかみ、ぐあんぐあん揺らした。
「いいかっ! 昨晩のことは誰にも言うな!! 絶対だ!! 絶対にだ!!」
「ほーん? 黙っていて俺にメリットがあるのか?」
「ぐぅっ……」
「黙っててほしいなら、それ相応の見返りがないとなあ?」
クッソォォォッ……!!
俺は歯を食いしばり、「いくらだ。いくら欲しいんだ」と訊いた。
「五十万までなら出す……だから……」
小鳥遊はポカンとしたあと、大声で笑った。
「五十万? そんなはした金でどうにかなるとでも?」
「ぐぅっ……じゃ、じゃあ八十万……」
「アホか。前と同じ……これだよ」
そう言って、小鳥遊は自分の唇をトントンと叩いた。
俺はあからさまに嫌な顔をしていたと思う。
「お前……嘘だろ……? 絶対に八十万の方がいいだろ」
「嘘じゃない。お前にとって一番嫌なことをしたいんだよ」
「最低」
前の仕返しをするかのように、小鳥遊は言った。
「あ、口ゆすいでこいよ。俺、ゲロの味嫌いだからー」
「むぅ……」
「ちゃんと〝くちゅくちゅ〟もするんだぞー」
「うるさいなっ……!」
俺は肩をいからせながら洗面台に向かい、念入りに口をゆすいだ。
ベッドに戻ると、小鳥遊にニヤニヤしながら手招きされる。
「ちゃんとベロチューしろよ。あと、俺が良いって言うまでやめるなよ」
「くそぉ……今ここでお前を亡き者にしてえ……」
「ははっ。やっぱり月見里はこっちの方が良いわ」
「何の話だ……」
顔を近づけても、小鳥遊は目を閉じずにじっとこちらを見つめていた。そんな見るな。
唇が触れ合う。気乗りしないまま舌を入れ、しばらく絡め合う。
「ふ……ん……」
ダメだ。もうやめたい。体の芯が熱くなってくる。これ以上はダメ――
「ふっ!?」
口を離そうとしたら、小鳥遊に頭を抱き寄せられた。動けない。離れられない。
「んっ……んんっ……!」
先ほどまで受け身だった小鳥遊の舌が、俺の口の中に入ってきて掻き回す。
激しい。熱い。頭がふわふわしてくる。
小鳥遊のキスがだんだんと激しさを増していく。
小鳥遊も興奮しているのか、俺を抱きしめる力が強くなっていった。
「あっ……」
押し倒された。
小鳥遊は俺に覆いかぶさり、さらに激しいキスをする。
「んっ……もっ、たかなっ……も、むりっ……やめっ……」
「俺が良いって言うまでやめるなって言っただろ」
「もっ……いいだろっ……」
「まだ」
「んん……っ」
どのくらい時間が経ったのか分からない。
小鳥遊が俺を解放したときには、俺は涎を垂らしてぐったりしていた。
小鳥遊は俺の股間をつつき、鼻で笑う。
「キスしただけでこんなにおっ勃てて」
「うっ……うるさいなっ……お前だって勃ってるだろっ……!」
「だって俺は昨日抜いてないからなあ。お前は一回ずつ射精と中イキしてるのに」
「ぐ……」
指先で俺のペニスを服越しになぞりながら、小鳥遊がからかう。
「言わないのか? 〝もっと触って。お願い、キツい〟って」
「ひぃっ……お、俺、そんなことをお前に……? ひっ、ひぃぃ……っ」
俺はこの日、日本酒を今後一生飲まないと胸に誓った。
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