【完結】【R18BL】男泣かせの名器くん、犬猿の仲に泣かされる

ちゃっぷす

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飲み会

第九話

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 俺と小鳥遊、サトウさん、カトウさんの四人で飲みに行くことになったので、俺たちは定時きっかりに退社した。
 飲む場所はカトウさんが選んでくれた。俺が探すと言ったのだが、カトウさんに「居酒屋探しには慣れているので」と親指を立てられ、俺は甘えることにしたのだった。本当にカトウさんはよく働いてくれる。

 カトウさんが選んだのは、会社から徒歩五分ほどの少しランクの高い居酒屋チェーン店だった。
 個室に通された俺たちは、早速電子パネルからメニューを選ぶ。

 カトウさんはテキパキとタッチパネルを操作する。

「じゃあまず飲み物決めますね! 月見里さんはどれにしますか?」
「えっと、俺は――」

 ここだけの話、俺は酒にめっぽう弱い。大人数の飲み会ではいつもチューハイ一杯と残りウーロン茶でその場をしのいでいる。
 だから今日もいつもに倣うことにした。

「じゃあ、レモンサワーで」
「はっ」

 隣で小鳥遊の失笑が聞こえ、俺は「あ?」と睨みつける。

「なんだよ」
「いや、別に?」

 カトウさんはクスクス笑いながら、小鳥遊に尋ねる。

「小鳥遊さんはどれにしますか?」
「熱燗で」
「はあい。サトウさんはー?」
「わたしはカルーアミルク!」
「りょ! わたしは芋焼酎のロック~」

 俺は目を丸くした。

「カトウさん芋焼酎? 渋っ」
「えへへ~。実は酒豪なもので……」

 早速俺の知らないカトウさんを見た。

 小鳥遊が隣でボソッと呟く。

「新入社員の女子が芋焼酎のロックで、課長代理サマはレモンサワーか……」
「なんだよっ。悪いかっ」
「別に~?」

 いちいち突っかかって来て腹立つな。やっぱり小鳥遊は小鳥遊だ。

 カトウさんが無邪気に笑ってこう言った。

「やだなあ、小鳥遊さん。きっと月見里さんのレモンサワーはジャブですよ。二杯目くらいからガツンと行くんです。ね、月見里さん?」
「おぉう……そ、そうだね……?」

 まずい。カトウさんのそうだと信じてやまない目に負けて頷いてしまった。

 料理が運ばれると、カトウさんが手際よく取り分けてくれた。
 俺が飲みに誘ったのに、今のところ世話ばかりしてもらっている。

「カトウさん、俺が取り分けるよ」
「えっ? ダメですっ。月見里さんにそんなことさせられませんよ! 私がしますので、月見里さんは少々お待ちくださいね」
「悪いね……」

 カトウさん、職場より居酒屋にいるときのほうがずいぶんイキイキしているな。
 職場でもこのくらいイキイキしてもらえるように努めないと。

 レモンサワーが三分の一減ったあたりで、小鳥遊が熱燗のおかわりをした。

「お前も飲むか?」

 そう言って、空のお猪口を俺の前にスライドさせる。
 断ろうとしたが、その前にカトウが「お注ぎします!」と言って俺と小鳥遊のお猪口に酒を注いだ。

「……」

 しかもたっぷり。

 お猪口を睨みつけていると、小鳥遊が俺のお猪口に自分のお猪口をコツンと当てた。

「乾杯」
「……乾杯」

 ここまでお膳立てされてしまっては飲まないわけにはいかないな……。
 俺は一口飲み、キョトンとした。

「美味い」
「だろう」
「思ってたよりあっさりしてる」
「焼酎よりはな」

 なんだ。美味いじゃないか。飲まず嫌いしていた。これなら俺も飲めそうだ。

 少し酒が回ってきたころ、カトウさんが頬を膨らませた。

「もう、月見里さん! 急に飲みに誘われてびっくりしましたよ!」
「ああ、ごめん……。考えなしだったよ。迷惑かけたね」
「いえいえ……迷惑だなんてそんな……嬉しかったんですよっ。でもねっ……」

 カトウさんの目にじわっと涙がにじむ。

「こ、怖かったですぅぅ……」

 すかさずサトウさんがカトウさんの背中を撫でて慰める。

「そばで見てる私も怖かったよ……。空気ピリィッてしたよね……」
「うん……先輩たちに殺されるかと思ったよぉ……」
「その域だったよね……」

 申し訳なさすぎる。こんなに怖い思いをさせてしまったのか。

「ほんとごめんね……。これからは気を付けるから……」
「いえ……月見里さんは悪くないです……。私が悪いんです……」
「カトウさんは何も悪くないでしょ」
「私が……仕事ができないからぁ……。先輩たちをイライラさせちゃってぇ……。それなのに月見里さんにいつも気にかけてもらってるから……」

 俺と小鳥遊はこっそり目配せした。このまま本音を打ち明けてもらおう。

「……カトウさん。ずっと気になってたんだけど、カトウさんの仕事量、かなり多いよね」
「いえ……私の仕事が遅いだけです……」
「そんなことないと思います」

 サトウさんが会話に入ってきた。

「カトウさん、先輩に仕事押し付けられてます。しかもめんどくさい仕事ばっかり」
「ちょっと、サトウさん……」
「カトウさんも悪いけどね。私みたいにキッパリ断ればいいのに、安請負するからいけないんだよ」
「……」
「だから余計、良いように使われてるんです」

 サトウさんはそう言って、俺をじっと見つめた。

「月見里さん、助けてください。先輩たちが言うこと聞くの、月見里さんしかいないと思います」

 そこに小鳥遊も入ってくる。

「俺じゃダメだったな。適当にはぐらかされて終わった」
「……小鳥遊、お前動いてくれたのか」
「意味はなかったがな」
「……」

 そうか。この前小鳥遊がサトウさんと飲みに行ったのは、カトウさんの話を聞くためだったのか。
 ……こいつにはいつもイライラさせられる。
 いや、自分に対してイライラしているのか。小鳥遊と違って、今まで何も行動に移さなかった自分に。

「……分かった。なんとかする」
「月見里、下手したら余計にカトウさんが嫌な目に遭うぞ。慎重にしろよ」
「そうだな……」

 たとえば俺が社員を叱りつけたとしたら、告げ口をしたカトウさんに怒りの矛先が向くだろう。
 上手に立ち回らなければ逆効果だ。

「カトウさん、もう少し待ってて。絶対どうにかするから」
「……ありがとうございます、月見里さん……」

 ぐすぐすと泣き出したカトウさんに、小鳥遊が冗談交じりに言った。

「ストレス発散がしたかったら、俺と月見里を飲みに誘うといい。いつでも付き合う」
「ああ、付き合うよ。カトウさんの飲みっぷりは見ていて気持ちがいいしね」

 小鳥遊と俺の言葉に、カトウさんがクスッと笑う。

「ありがとうございます、月見里さん、小鳥遊さん……。それに、サトウさんも……」
「私にお礼言われてもなあ。私だってずっと見てみぬフリしてたし」
「でも、話聞いてくれてたじゃん」
「話聞いてただけだよ」

 この二人が同期で良かった。
 俺はタッチパネルを引き寄せ、みんなに声をかける。

「さ、どんよりした話はおしまいにして、楽しく飲もう。カトウさんは何飲む?」
「あっ、はい! じゃあ、ウォッカのショットお願いします!」
「……罰ゲームでもしてるの?」
「してません! 好きだから飲むんです!」
「はーい……」

 サトウさんはカシスオレンジ、小鳥遊は変わらず熱燗、俺は試しに冷酒を頼むことにした。
 冷酒のページを開いていると、小鳥遊がトーンの高い声を出す。

「お。自分から日本酒か」
「おう。美味かったから」
「へー。冷酒のオススメはコレ」
「ふーん。じゃあそれにしよ」
「美味いぞ」

 新しい飲み物が届いたころには、サトウさんとカトウさんがワイワイと盛り上がっていた。
 彼女たちは特に俺たちの女性遍歴に興味があるらしく、根掘り葉掘り聞いてきた。
 俺も小鳥遊も、嘘っぱちしか並べなかったが。
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