【完結】【R18BL】男泣かせの名器くん、犬猿の仲に泣かされる

ちゃっぷす

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マッチング

第四話

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 帰宅後、ゲイ向けマッチングアプリで次の相手を探した。むしゃくしゃするといつもこのアプリを開いてしまう。
 まだ今週の相手が決まっていなかったのでちょうどよかった。

 身バレやトラブルを防ぐため、いつも他県の人で探している。小鳥遊のように近場の相手を漁るなんてそんなマネ、リスクが高すぎてとてもじゃないができない。

「お」

 神奈川県で会える人を探しているとき、ある人のページで手が止まった。

【絶倫・遅漏です。長時間付き合ってくださる方よろしくお願いします。】

 絶倫で、しかも遅漏。

 俺はその人のページを隅々まで読んだ。
 ハンドルネームは「バド」さん。神奈川県在住の二十九歳――俺と年齢が近い。……まあ、あくまで自称だが。(ちなみに俺は自称埼玉県在住の二十五歳だ)
 アイコンは首下から胸上くらいまでの写真だ。顔は分からない。(俺も同じような写真を使っている)
 趣味で筋トレをしているのだろうか。筋肉質でなかなか良い体をしている。

 紹介文にはこんなことが書かれていた。

【プレイの希望があれば教えてください。ソフトSMくらいまでならいけます(俺はSです)】
【甘やかすのも得意です】
【遅漏なので失神するまでイカせてしまうかもしれません。長時間耐えられる人お願いします】

 読み終えた俺は生唾を呑んだ。この人なら。この人ならもしかしたら。
 俺の名器に耐えられるかもしれない。

 俺はバドさんにメッセージを送ることにした。

 《バドさん。はじめまして。ツキと申します。突然のDM失礼したします。》
 《バドさんのページを拝見しました。もしよければ僕と一晩いかがでしょうか》

 しばらくして、バドさんから返事がきた。

 《ツキさん、はじめまして。DMありがとうございます。》
 《お誘いありがとうございます。念のため確認させてもらいますが、俺はかなりの遅漏なので長時間付き合わせてしまうかと思います。それでも大丈夫ですか。》
 《それでもよければ、ぜひお願いします。》

 俺はすかさず返信する。

 《ありがとうございます!》
 《大丈夫です。遅漏さんだったからお誘いしました。》

 バドさんからもすぐ返事がきた。

 《そうですか。それは嬉しいですね。いつも遅漏で結構困らせちゃうんで。》
 《早速なんですが、いつ会いますか?》
 《それと、どんなセックスがしたいとかあれば教えてください》

 会う日時は今週の金曜二十時を提案した。
 そして――

 《えっと。優しく抱いてほしいです。》
 《よしよししてほしいです……》

 こんなこと、一度きりの人間関係じゃないと頼めない。

 《分かりました。めいっぱい甘やかしますね。》
 《お会いできるのを楽しみにしています。》

 こうしてバドさんとのやり取りが終わった。

「ふー……」

 今週の金曜日。もしかしたら俺が満足するまで抱いてもらえるかもしれない。
 そうじゃなくても、いっぱいよしよししてもらえる。
 誰の上にも立っていない、ただの甘えん坊の俺を、受け入れてもらえる。

 バドさんとのやりとりのおかげで、鬱々していた気分が少しマシになった。
 だからだろうか。その晩はよく眠れた。


 ◇◇◇


 バドさんに会える楽しみを糧にして、その週も仕事を頑張れた。
 金曜の夕方、また隣の席の社員にニヤニヤと声をかけられる。

「月見里さん、今日は特にご機嫌でしたねっ」
「えっ、そうかな」
「はい! 今日は記念日かなにかなんですか~?」
「だから彼女なんていないって!」
「またまたあ」

 記念日と間違われるほど浮足立っていたのか、俺。恥ずかしい。
 俺と社員の会話を他の人たちも聞いていたのか、帰り際に社員たちにこんなことを言われた。

「おつかれさまです~! 彼女さんによろしくお伝えください~!」
「早く出ないと花屋さん閉まっちゃいますよー!」
「プロポーズがんばってくださいね!」

 なんか俺がプロポーズすることになっている。一体社員たちの頭の中でどこまで思考が飛躍したのだろうか。
 俺はとりあえず「全員不正解! お先失礼します!」とだけ言い捨て、オフィスを出た。

 神奈川に向かう電車に揺られながら、俺はぼんやりと考えていた。
 絶倫か。朝まで抱いてくれたりするのかな。そうだと……いいな。
 いけない。期待しすぎは良くない。そうやっていつも勝手にガッカリしてしまうんだから。

 待ち合わせの駅前に到着したが、少し早く着きすぎた。
 俺は駅に入っているカフェで時間を潰してからバドさんにメッセージを送った。

 《到着しました。グレーのスーツとベスト、グリーンのネクタイです》

 五分後、バドさんから返信が来た。

 《すみません! 少し遅れています。十分くらい遅刻するかも……!》
 《大丈夫です。ゆっくり来てください》

 十分後、バドさんからメッセージが届いた。

 《お待たせしてすみません! 今着きました。黒スーツに赤ネクタイです》

 あたりを見回すが、周囲に黒スーツの男性なんて山ほどいるので見分けがつかない。

(赤ネクタイ……赤ネクタイ……)

 目を凝らし、赤ネクタイの男性を探す。

「あっ。赤ネクタイ」

 見つけた。俺は顔を上げ、その男性の顔を――

「「えっ」」

 ――見たが、人違いだった。なぜ人違いだと断言できるかというと。
 そいつが小鳥遊だったからだ。
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