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マッチング
第四話
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帰宅後、ゲイ向けマッチングアプリで次の相手を探した。むしゃくしゃするといつもこのアプリを開いてしまう。
まだ今週の相手が決まっていなかったのでちょうどよかった。
身バレやトラブルを防ぐため、いつも他県の人で探している。小鳥遊のように近場の相手を漁るなんてそんなマネ、リスクが高すぎてとてもじゃないができない。
「お」
神奈川県で会える人を探しているとき、ある人のページで手が止まった。
【絶倫・遅漏です。長時間付き合ってくださる方よろしくお願いします。】
絶倫で、しかも遅漏。
俺はその人のページを隅々まで読んだ。
ハンドルネームは「バド」さん。神奈川県在住の二十九歳――俺と年齢が近い。……まあ、あくまで自称だが。(ちなみに俺は自称埼玉県在住の二十五歳だ)
アイコンは首下から胸上くらいまでの写真だ。顔は分からない。(俺も同じような写真を使っている)
趣味で筋トレをしているのだろうか。筋肉質でなかなか良い体をしている。
紹介文にはこんなことが書かれていた。
【プレイの希望があれば教えてください。ソフトSMくらいまでならいけます(俺はSです)】
【甘やかすのも得意です】
【遅漏なので失神するまでイカせてしまうかもしれません。長時間耐えられる人お願いします】
読み終えた俺は生唾を呑んだ。この人なら。この人ならもしかしたら。
俺の名器に耐えられるかもしれない。
俺はバドさんにメッセージを送ることにした。
《バドさん。はじめまして。ツキと申します。突然のDM失礼したします。》
《バドさんのページを拝見しました。もしよければ僕と一晩いかがでしょうか》
しばらくして、バドさんから返事がきた。
《ツキさん、はじめまして。DMありがとうございます。》
《お誘いありがとうございます。念のため確認させてもらいますが、俺はかなりの遅漏なので長時間付き合わせてしまうかと思います。それでも大丈夫ですか。》
《それでもよければ、ぜひお願いします。》
俺はすかさず返信する。
《ありがとうございます!》
《大丈夫です。遅漏さんだったからお誘いしました。》
バドさんからもすぐ返事がきた。
《そうですか。それは嬉しいですね。いつも遅漏で結構困らせちゃうんで。》
《早速なんですが、いつ会いますか?》
《それと、どんなセックスがしたいとかあれば教えてください》
会う日時は今週の金曜二十時を提案した。
そして――
《えっと。優しく抱いてほしいです。》
《よしよししてほしいです……》
こんなこと、一度きりの人間関係じゃないと頼めない。
《分かりました。めいっぱい甘やかしますね。》
《お会いできるのを楽しみにしています。》
こうしてバドさんとのやり取りが終わった。
「ふー……」
今週の金曜日。もしかしたら俺が満足するまで抱いてもらえるかもしれない。
そうじゃなくても、いっぱいよしよししてもらえる。
誰の上にも立っていない、ただの甘えん坊の俺を、受け入れてもらえる。
バドさんとのやりとりのおかげで、鬱々していた気分が少しマシになった。
だからだろうか。その晩はよく眠れた。
◇◇◇
バドさんに会える楽しみを糧にして、その週も仕事を頑張れた。
金曜の夕方、また隣の席の社員にニヤニヤと声をかけられる。
「月見里さん、今日は特にご機嫌でしたねっ」
「えっ、そうかな」
「はい! 今日は記念日かなにかなんですか~?」
「だから彼女なんていないって!」
「またまたあ」
記念日と間違われるほど浮足立っていたのか、俺。恥ずかしい。
俺と社員の会話を他の人たちも聞いていたのか、帰り際に社員たちにこんなことを言われた。
「おつかれさまです~! 彼女さんによろしくお伝えください~!」
「早く出ないと花屋さん閉まっちゃいますよー!」
「プロポーズがんばってくださいね!」
なんか俺がプロポーズすることになっている。一体社員たちの頭の中でどこまで思考が飛躍したのだろうか。
俺はとりあえず「全員不正解! お先失礼します!」とだけ言い捨て、オフィスを出た。
神奈川に向かう電車に揺られながら、俺はぼんやりと考えていた。
絶倫か。朝まで抱いてくれたりするのかな。そうだと……いいな。
いけない。期待しすぎは良くない。そうやっていつも勝手にガッカリしてしまうんだから。
待ち合わせの駅前に到着したが、少し早く着きすぎた。
俺は駅に入っているカフェで時間を潰してからバドさんにメッセージを送った。
《到着しました。グレーのスーツとベスト、グリーンのネクタイです》
五分後、バドさんから返信が来た。
《すみません! 少し遅れています。十分くらい遅刻するかも……!》
《大丈夫です。ゆっくり来てください》
十分後、バドさんからメッセージが届いた。
《お待たせしてすみません! 今着きました。黒スーツに赤ネクタイです》
あたりを見回すが、周囲に黒スーツの男性なんて山ほどいるので見分けがつかない。
(赤ネクタイ……赤ネクタイ……)
目を凝らし、赤ネクタイの男性を探す。
「あっ。赤ネクタイ」
見つけた。俺は顔を上げ、その男性の顔を――
「「えっ」」
――見たが、人違いだった。なぜ人違いだと断言できるかというと。
そいつが小鳥遊だったからだ。
まだ今週の相手が決まっていなかったのでちょうどよかった。
身バレやトラブルを防ぐため、いつも他県の人で探している。小鳥遊のように近場の相手を漁るなんてそんなマネ、リスクが高すぎてとてもじゃないができない。
「お」
神奈川県で会える人を探しているとき、ある人のページで手が止まった。
【絶倫・遅漏です。長時間付き合ってくださる方よろしくお願いします。】
絶倫で、しかも遅漏。
俺はその人のページを隅々まで読んだ。
ハンドルネームは「バド」さん。神奈川県在住の二十九歳――俺と年齢が近い。……まあ、あくまで自称だが。(ちなみに俺は自称埼玉県在住の二十五歳だ)
アイコンは首下から胸上くらいまでの写真だ。顔は分からない。(俺も同じような写真を使っている)
趣味で筋トレをしているのだろうか。筋肉質でなかなか良い体をしている。
紹介文にはこんなことが書かれていた。
【プレイの希望があれば教えてください。ソフトSMくらいまでならいけます(俺はSです)】
【甘やかすのも得意です】
【遅漏なので失神するまでイカせてしまうかもしれません。長時間耐えられる人お願いします】
読み終えた俺は生唾を呑んだ。この人なら。この人ならもしかしたら。
俺の名器に耐えられるかもしれない。
俺はバドさんにメッセージを送ることにした。
《バドさん。はじめまして。ツキと申します。突然のDM失礼したします。》
《バドさんのページを拝見しました。もしよければ僕と一晩いかがでしょうか》
しばらくして、バドさんから返事がきた。
《ツキさん、はじめまして。DMありがとうございます。》
《お誘いありがとうございます。念のため確認させてもらいますが、俺はかなりの遅漏なので長時間付き合わせてしまうかと思います。それでも大丈夫ですか。》
《それでもよければ、ぜひお願いします。》
俺はすかさず返信する。
《ありがとうございます!》
《大丈夫です。遅漏さんだったからお誘いしました。》
バドさんからもすぐ返事がきた。
《そうですか。それは嬉しいですね。いつも遅漏で結構困らせちゃうんで。》
《早速なんですが、いつ会いますか?》
《それと、どんなセックスがしたいとかあれば教えてください》
会う日時は今週の金曜二十時を提案した。
そして――
《えっと。優しく抱いてほしいです。》
《よしよししてほしいです……》
こんなこと、一度きりの人間関係じゃないと頼めない。
《分かりました。めいっぱい甘やかしますね。》
《お会いできるのを楽しみにしています。》
こうしてバドさんとのやり取りが終わった。
「ふー……」
今週の金曜日。もしかしたら俺が満足するまで抱いてもらえるかもしれない。
そうじゃなくても、いっぱいよしよししてもらえる。
誰の上にも立っていない、ただの甘えん坊の俺を、受け入れてもらえる。
バドさんとのやりとりのおかげで、鬱々していた気分が少しマシになった。
だからだろうか。その晩はよく眠れた。
◇◇◇
バドさんに会える楽しみを糧にして、その週も仕事を頑張れた。
金曜の夕方、また隣の席の社員にニヤニヤと声をかけられる。
「月見里さん、今日は特にご機嫌でしたねっ」
「えっ、そうかな」
「はい! 今日は記念日かなにかなんですか~?」
「だから彼女なんていないって!」
「またまたあ」
記念日と間違われるほど浮足立っていたのか、俺。恥ずかしい。
俺と社員の会話を他の人たちも聞いていたのか、帰り際に社員たちにこんなことを言われた。
「おつかれさまです~! 彼女さんによろしくお伝えください~!」
「早く出ないと花屋さん閉まっちゃいますよー!」
「プロポーズがんばってくださいね!」
なんか俺がプロポーズすることになっている。一体社員たちの頭の中でどこまで思考が飛躍したのだろうか。
俺はとりあえず「全員不正解! お先失礼します!」とだけ言い捨て、オフィスを出た。
神奈川に向かう電車に揺られながら、俺はぼんやりと考えていた。
絶倫か。朝まで抱いてくれたりするのかな。そうだと……いいな。
いけない。期待しすぎは良くない。そうやっていつも勝手にガッカリしてしまうんだから。
待ち合わせの駅前に到着したが、少し早く着きすぎた。
俺は駅に入っているカフェで時間を潰してからバドさんにメッセージを送った。
《到着しました。グレーのスーツとベスト、グリーンのネクタイです》
五分後、バドさんから返信が来た。
《すみません! 少し遅れています。十分くらい遅刻するかも……!》
《大丈夫です。ゆっくり来てください》
十分後、バドさんからメッセージが届いた。
《お待たせしてすみません! 今着きました。黒スーツに赤ネクタイです》
あたりを見回すが、周囲に黒スーツの男性なんて山ほどいるので見分けがつかない。
(赤ネクタイ……赤ネクタイ……)
目を凝らし、赤ネクタイの男性を探す。
「あっ。赤ネクタイ」
見つけた。俺は顔を上げ、その男性の顔を――
「「えっ」」
――見たが、人違いだった。なぜ人違いだと断言できるかというと。
そいつが小鳥遊だったからだ。
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