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第二章
第九話
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「ヴ、ヴラス神……? って、神さまの中で一番偉い……あの?」
「さようでございます」
太陽の光を糸にしたように輝いているプラチナブロンドの髪。ペト神とは少し髪質が違うようで、ふわふわしている。瞳は月夜を閉じ込めたかのような、としか言いようのない不思議な色をしている。
見た目は……大人びた十代にも見えるし、若すぎる四十代にも見える。とにかく、はっきりとした説明ができないような容姿をしているのだ。
唯一言えることは……俺の目に映すのがはばかれるほど美しいということだけだった。
じろじろ見るのが罰当たりな気がして、俺はヴラス神から目を逸らした。
「あの鷲がヴラス神だったなんて、冗談だろ?」
それに答えたのはヴラス神だ。
彼は俺の前に跪き、そっと手を握る。
「本当だよ。君が〝親友〟と呼んでいた鷲は、この私だ」
そしてヴラス神は、俺の手の甲に唇を添えた。そんなことをされたのが初めてだったので、びっくりして咄嗟に手を引っ込めてしまった。
ヴラス神は俺の無礼な態度を気にしていない様子で、嬉しそうにニコニコ笑っている。
「ああ、やっと君と言葉を交わせた。この日が来るのをずっと待っていた……。あの日からずっと」
「あ、あの日って?」
「負傷した私を助けてくれただろう?」
「助けた……けど……」
俺が助けたの、ただの鷲じゃなくて神さまだったのか。やべえ。
ヴラス神はその不思議な色の瞳で俺をじっと見つめる。
「あの日からずっと君を見守っていたよ。たくさん辛い思いをしてきたね」
彼の言葉にクンと喉がつっかえた。
いつもは大人に同情されても嫌な気持ちになるだけなのに、ヴラス神の言葉は素直に胸にしみ込んだ。あの鷲に弱音を吐いているときのように、強がることも忘れて。
「エイベル。私が君に会いに来た理由が分かるかい?」
首を横に振ると、ヴラス神が目じりを下げる。
「君に愛を与えに来たんだよ」
「愛……? えっ、愛!?」
ヴラス神の〝愛〟!! それを受けるだけでレベルアップに必要な経験値の百分の一がもらえる、あの!?
俺は相手が神であることを忘れ、ヴラス神の胸ぐらを掴み、ぐあんぐあん揺らした。
「ください!! 〝愛〟ください!! 今すぐ百……いや五百の〝愛〟をください!!」
「ちょ、お、落ち着きなさい……」
ペト神が間に入り、俺を制止した。
「エイベル様。いくらヴラス様でも一度に五百の愛は厳しいです。せめて三……いえ、五はいけますかね……」
ヴラス神がむっと顔をしかめる。
「ペト。私を見くびらないでほしいね。十はいけるよ」
「さようですか。失礼いたしました」
俺は必死に懇願した。
「だったら十ください!! お願いします!!」
「私は構わないが……おそらくエイベルの身がもたないよ」
そこでヴラス神がぽっと頬を赤らめた。
「君からそんなに求められるとは思わなかったよ……」
求めるに決まっているだろう!? 十回の〝愛〟で魔物何万匹分の経験値が得られると思っているんだ!
「……で、〝愛〟ってなに?」
俺がそう尋ねると、ヴラス神とペト神が小さくため息を吐いた。
「やはり分かっていなかったか……」
そう呟いてから、ヴラス神が俺に向き直る。
「エイベル。私の〝愛〟を求める理由は?」
「……」
「正直に答えてかまわないよ」
「村を、出たいから……」
「それで? 村を出て何をしたい?」
「……ルカを迎えに行かなきゃいけない」
ヴラス神が少しうんざりした顔をした。
「エイベル。私は何をしなければいけないのかを聞いたわけではない。君が、何をしたいのかを聞いているんだよ」
「……」
村を出て、俺が何をしたいのか……?
そりゃもちろん、ルカを迎えに行きたい。行かなきゃいけない。それでルカを安心させてやりたい。
それから……
「冒険者に、なりたい……」
俺のその一言に、ヴラスの瞳がゆらゆら揺らいだように見えた。
「冒険者になって、いろんなところを冒険して、魔物倒したり、お宝見つけたり……」
「……」
「美味しいもの食べたり、世界中で友だち作ったり……」
話していくうちに涙がこぼれた。
そう言えば、四年前にルカとお別れしたあの日から、俺の夢について考えたことがなかった。
「自由に……自由になりたい……」
空を自由に飛び回る鷲のように、自分の行きたいところに好きなだけ行きたい。やりたいことを全部したい。
ヴラス神は俺の手をぎゅーっと握った。
「明日の朝、もう一度この場所においでなさい」
そう言い残し、ヴラス神とペト神はあたたかく灯る光となって消えた。
「なんだったんだ、今の……」
ヴラス神に握られた手がほんのりと淡く光っている。
幻覚だろうか。それとも夢?
「あ。文句言うの忘れた」
もし神さまに会えたら、俺にゴミスキルをよこしたことと、ルカのことを王さまにチクッたことに対して文句を言っちゃろうと思っていたのに。
幻覚でも夢でもいいから、思う存分恨みつらみをぶっかけてやればよかった。
「さようでございます」
太陽の光を糸にしたように輝いているプラチナブロンドの髪。ペト神とは少し髪質が違うようで、ふわふわしている。瞳は月夜を閉じ込めたかのような、としか言いようのない不思議な色をしている。
見た目は……大人びた十代にも見えるし、若すぎる四十代にも見える。とにかく、はっきりとした説明ができないような容姿をしているのだ。
唯一言えることは……俺の目に映すのがはばかれるほど美しいということだけだった。
じろじろ見るのが罰当たりな気がして、俺はヴラス神から目を逸らした。
「あの鷲がヴラス神だったなんて、冗談だろ?」
それに答えたのはヴラス神だ。
彼は俺の前に跪き、そっと手を握る。
「本当だよ。君が〝親友〟と呼んでいた鷲は、この私だ」
そしてヴラス神は、俺の手の甲に唇を添えた。そんなことをされたのが初めてだったので、びっくりして咄嗟に手を引っ込めてしまった。
ヴラス神は俺の無礼な態度を気にしていない様子で、嬉しそうにニコニコ笑っている。
「ああ、やっと君と言葉を交わせた。この日が来るのをずっと待っていた……。あの日からずっと」
「あ、あの日って?」
「負傷した私を助けてくれただろう?」
「助けた……けど……」
俺が助けたの、ただの鷲じゃなくて神さまだったのか。やべえ。
ヴラス神はその不思議な色の瞳で俺をじっと見つめる。
「あの日からずっと君を見守っていたよ。たくさん辛い思いをしてきたね」
彼の言葉にクンと喉がつっかえた。
いつもは大人に同情されても嫌な気持ちになるだけなのに、ヴラス神の言葉は素直に胸にしみ込んだ。あの鷲に弱音を吐いているときのように、強がることも忘れて。
「エイベル。私が君に会いに来た理由が分かるかい?」
首を横に振ると、ヴラス神が目じりを下げる。
「君に愛を与えに来たんだよ」
「愛……? えっ、愛!?」
ヴラス神の〝愛〟!! それを受けるだけでレベルアップに必要な経験値の百分の一がもらえる、あの!?
俺は相手が神であることを忘れ、ヴラス神の胸ぐらを掴み、ぐあんぐあん揺らした。
「ください!! 〝愛〟ください!! 今すぐ百……いや五百の〝愛〟をください!!」
「ちょ、お、落ち着きなさい……」
ペト神が間に入り、俺を制止した。
「エイベル様。いくらヴラス様でも一度に五百の愛は厳しいです。せめて三……いえ、五はいけますかね……」
ヴラス神がむっと顔をしかめる。
「ペト。私を見くびらないでほしいね。十はいけるよ」
「さようですか。失礼いたしました」
俺は必死に懇願した。
「だったら十ください!! お願いします!!」
「私は構わないが……おそらくエイベルの身がもたないよ」
そこでヴラス神がぽっと頬を赤らめた。
「君からそんなに求められるとは思わなかったよ……」
求めるに決まっているだろう!? 十回の〝愛〟で魔物何万匹分の経験値が得られると思っているんだ!
「……で、〝愛〟ってなに?」
俺がそう尋ねると、ヴラス神とペト神が小さくため息を吐いた。
「やはり分かっていなかったか……」
そう呟いてから、ヴラス神が俺に向き直る。
「エイベル。私の〝愛〟を求める理由は?」
「……」
「正直に答えてかまわないよ」
「村を、出たいから……」
「それで? 村を出て何をしたい?」
「……ルカを迎えに行かなきゃいけない」
ヴラス神が少しうんざりした顔をした。
「エイベル。私は何をしなければいけないのかを聞いたわけではない。君が、何をしたいのかを聞いているんだよ」
「……」
村を出て、俺が何をしたいのか……?
そりゃもちろん、ルカを迎えに行きたい。行かなきゃいけない。それでルカを安心させてやりたい。
それから……
「冒険者に、なりたい……」
俺のその一言に、ヴラスの瞳がゆらゆら揺らいだように見えた。
「冒険者になって、いろんなところを冒険して、魔物倒したり、お宝見つけたり……」
「……」
「美味しいもの食べたり、世界中で友だち作ったり……」
話していくうちに涙がこぼれた。
そう言えば、四年前にルカとお別れしたあの日から、俺の夢について考えたことがなかった。
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そう言い残し、ヴラス神とペト神はあたたかく灯る光となって消えた。
「なんだったんだ、今の……」
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